第21話 4日目 夕 繋がる想い

 ――午後6時半――


 部屋を出ると、順也と鉢合わせをした。だが会話を交わすことなく、静かに応接室へとやって来た。それに遅れて織花達もやって来る。

 10秒ほど時間があいた後、織花がトコトコとやってきた。

 「夕ご飯、何食べたいですか?」

 「あ、うん。そうだな…」

と七瀬は上を見上げ少し考えてから、

 「唐揚げ、かな」

と返した。すると横から、

 「またぁ?」

と沙耶が驚きの声を上げた。

 「もう、どんだけ好きなのよ。そのうち道に落ちてる唐揚げも食べるんじゃない?」

と笑われてしまった。

 「じゃあ……肉じゃが、とか?」

 「よし、それでいきましょう。というか他の人はどうです?何か食べたいものがあればつくりますけど。材料があれば、だけど」

 「俺も肉じゃがで大丈夫ですよ。何でも食べますから。それに七瀬さん争奪戦に料理は不可欠なようだから、七瀬さんの食べたいものでないとね」

と含み笑いをしながら言った。

 (なんだ?俺争奪戦て)

と七瀬は思ったが、特に会話に割り込むことはしなかった。

 「さて、じゃあ料理にはいりましょ」

と沙耶は何事もなかったかのように調理場へと入っていった。



 それからしばらくして肉じゃががテーブルに並んだ。

 「さぁ召し上がれ、ご主人様♡」

と語尾にハートマークをつけウインクしながら促した。

 ここに来てから久しぶりの手料理が続き、「やっぱ自分でも料理くらいしなきゃな」と思っていると、

 「七瀬さんは作らなくても、いつでもあたしが作ってあげるわよ」

と沙耶が言った。

 「え!?なんでそれ…」

 (この人超能力でもあるのか?それはちょっと怖いぞ)

 「今、考えてること当てられて怖いって思ったでしょ」

とそこまで当てられた。

 「……や、そんなコト」

 「あたし、超能力で魅夜サンが考えてることぜーんぶ解るんダヨ」

 「まッまさかッ」

と七瀬はとてつもなく手をバタバタとして慌てた。

 「なーんてネ。それはウソだけど、魅夜サンの考えてることはなんとなーく分かっちゃうんだーあたし」

 (どっちにしてもバレてるんじゃん)

と七瀬は思った。

 「きっと素直だからなんじゃない?多分、唯さんや織花ちゃんも分かっちゃうと思うなー」

 「あー確かに、なんとなくそうかなーって思う時あります」

と織花が勢い良く立ち上がって言った。その横では唯も、「ウンウン」と頷いていた。

 (そんな分かりやすいかな?だとしたらこのゲーム全くむいてないんじゃないか)

と七瀬はガックリとした。

 「なのになーんで彼女さんは分かんないのかなー」

と沙耶は首を傾げた。

 「そんなの俺が聞きたいよ……」

となかばすねながらご飯を口に頬張る。

 「そうか、七瀬さんには彼女いたんだっけ」

と美里が飲み物を手にしながら言ってきた。

 「まぁ一応」

 「でも最後に手にした人が勝ちだからネ」

と七瀬からすると訳分からない事を言っていた。



 食事が終わり、七瀬は1人画面の暗いテレビを見ていた。テレビを眺めていたのに理由はないが、ゲームのことを考えていてたまたま目線がそこに向いていた。


 (人狼は今何人なのか。もし推理が正しいのなら……)

 推理している七瀬の元に、片付けの終わった織花が近づいてきた。

 「どうしたの?」

 「ん?いや、なんでもない」

 「そうですか」

 織花は七瀬が座っているイスの横に腰掛けた。

 「明日は決着つくのかな?」

 「どうだろうね」

 「きっと生きて出れますよ」

 「うん、そうだね」

 「頑張りましょうね?」

 「うん、そうだね」

 「魅夜さんは、アイドルやってる女の子ってどう思います?」

 「うん、そうだね」

 「…?明日何食べたい?」

 「うん、そうだね」

 「…猫ってわんわんって鳴くんですよ?」

 「うん、そうだね」

 「もう!ちゃんと聞いて!」

 七瀬はハッと我にかえった。

 「え?なんて?」

 「もう知らないッ」

 織花はほほをぷくーっと膨らませてそっぽを向いた。

 「ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ」

 七瀬は顔の前で手を合わせ謝る。

 「許しません」

 「そんな事言わないで?ね?」

 「……じゃあ、今度ライブと握手会来てください」

 「うんもちろん行く!」

 「最前列の、センターで見てください」

 「分かりました」

 「握手会、5回は並んでください」

 「5回!?」

 「イヤですか?」

 「解った!俺も男だ!」

そう七瀬が言うと、織花はくるっと振り向き顔を近づけて、

 「じゃあ許してあげます」

と言ってニッと笑った。

 「あ、そうそう。ニューシングルのタイトル、あれウソですから」

 「え?」

 「だって全然気づいてくれないんだもん」

 「どういう事??」

七瀬はさっぱり意味が分からなかった。

 「さすがに遠回しすぎたか…」

織花はボソッと言った。その時、七瀬は何かピンときた。

 「……そうかそういう事か」

 「?」

 「”アナタの思う通りに私を愛して”」

 「え?」

 「うん、必ず見に行くから」

 「はい!!」

 織花は誰にも見せたことの無いここ1番の満面の笑みをしてみせた。



 ――時を同じくして――


 「順調だ。あいつに任せておくのは少し不安だったが、計画通りに進んでいるみたいだな」

 どこともわからぬ場所、ただ広い空間がある場所に謎の人物はいた。その傍らにはピエロの衣装と白い仮面がおいてある。

 準備はほぼ万全だった。1つを除いては。

 「あんだけ時間があったのに隠しカメラを1つしか用意出来ないなんて」

 盗聴器は沢山準備出来たが、隠しカメラだけは1つしか用意出来ていなかった。そしてその隠しカメラは応接室のみに付けられていた。

 (自分で用意すべきだったな)

 だが計画は概ね予定通りだった。

 (恐怖に押しつぶされながら死ぬ時を待つが良い…)

 その人物はニヤリと笑った。


 

 七瀬が部屋に戻ると、そこには沙耶が待っていた。ベッドに腰掛けて。

 「やーっと来た!もう待ってたんだよ?」

 「どうして?」

 「理由がなきゃダメ?」

 「いや、そうじゃないけど」

 七瀬はイスに座るとジュースを注いだグラスを飲んだ。

 「織花ちゃんのライブ行くの?」

 その瞬間七瀬はジュースを思いっきり吐き出した。

 「え?うん、まぁ…」

 「ふーんそっかぁ……」

と沙耶は天井を仰いだ。

 七瀬はなんだか気まずい気持ちになった。例えるなら、女友達の胸元を見ているのが本人にバレた時のような感じ。

 「うちの店にも来てよ。あたし、その1回で店辞める事にする」

 「え?一体どうして?」

 「秘密!教えてあげないよーだ♪」

と言ってあっかんべーをした。

 「そういう仕事、ほんとはしたくなかったの?」

 「そういうんじゃないんだけど。もともと1人でやってく為だけの手段でしかなかったし」

 「そ、そう…」

七瀬はなんとなく視線を外した。

 「あたしね、昔からなーんかついてなくてさ。父親は早くに死んじゃったし、母親はギャンブルと男に溺れて、あたしの事なんか構ってもくれなかった」

 沙耶はそのままバタンッとベッドに仰向けになった。ベッドがぼふんっと大きな音をたてた。

 「母親はいっつも男とどっか行ってたし、ご飯はお金が置いてあるだけだった。だからあたしはいつも1人で寂しいご飯」

 「そっか」

 「中学に入ってからは少ないお金でやりくりしようと思って自炊してたから料理も上手になっちゃった」

 そう言って沙耶はたははと笑った。

 「手料理、美味しかった」

 「んふふ、ありがと。そんで、あたし見た目こんなでしょ?やりたがりの男たちが群がってきちゃって」

 沙耶は体を再び起こした。

 「大人気なんだ」

 「そう言うと聞こえはいんだけど、よーするにセフレにしたかったのね」

沙耶はくっくっくっと笑った。

 「沙耶さんが魅力的だからだよ」

 「魅夜さんもあたしと、したい?」

 「え!?あっ!!」

七瀬は持っていたジュースを豪快にぶちまけてしまった。

 「あはっ動揺し過ぎー」

 「もっもう変なこと言うから!」

 「魅夜さんは他の人とは違うね」

 「えー?そんな事ないと思うよ」

 七瀬はこぼした所を拭きながら言葉を繋ぐ。

 「キャバクラに来るお客さんなんかは、ヤリ目の人もいるし、魅力的だーなんか言わないで説教するかどっちかだったもん」

 「たまたまだよきっと」

 「それでも、七瀬さんに魅力的だって言われて報われた気がする。あたしも普通に生きていーんだーって」

 「もちろんだよ。沙耶さんは誰よりも立派だと思うよ」

 「あははっそれは言い過ぎだよぉ。あたしは必死だっただけだもん」

 「それでいんだよ、世の中必死じゃない人だっているし」

 七瀬がそう言うと、沙耶は突然俯いた。

 「…そんな事言ってくれた人、初めてだよ」

わずかに声が震えていた。よく見ると身体も少し震えている。

 「沙耶さん…?」

 「もう、女の子泣かしやがってコノヤロー……」

 「ごっごめんッ!そんなつもりじゃ……」

 沙耶は七瀬にバレぬよう素早く涙をぬぐい、

 「ウソだぴょーん!」

と言って両手を両ほっぺにぱーにして広げ、べーっと下を出した。

 「もうー沙耶さんはいつもそうやってー」

 「女はみんな女優なんだよーだ」

と言ってニカッと笑った。

 「話聞いてくれてありがと!そろそろ戻るね」

と言ってぴょこっと立ち上がった。そしてドアの方に向かうと振り返り、

 「店に来る約束、絶対だからね!あ、お金は心配しなくていーよ、あたしがおごったげる!これでも結構売れっ子なんだから」

と言って両手を腰に当てた。

 「うん、絶対行く」

 「よし!じゃあまたね!」

 そう言うと沙耶は部屋を出ていった。

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