第20話 4日目 昼 占いの行方

 ――午後2時――

 「また、これをやるのね」

 沙耶は息を飲みながら言った。

 「今は、その事を言っても仕方がないよ。とにかく進むしかないんだ」

と順也は皆を見渡して言った。


 美里「まず占いの結果からいきましょうか」


 織花「じゃあ私から言います。緑川さん白でした」


 唯「そりゃそうよ、本物の占い師だもん。でも偽物の占い師に言われてもなんか複雑」

と唯は苦笑いをした。


 唯「次は私。織花ちゃん白でした」


 織花「そりゃそうです。本物は私ですから」

と唯に対抗してみせる。


 沙耶「最後はあたし。あたしが占ったのは唯さん。……人狼でした」


 唯「なッ!?」

 唯は思わず立ち上がった。


 順也「本当かい!?」


 唯「ちょっとウソ言わないでよッ!」


 沙耶「…ウソじゃない、あたしは本物の占い師。占いの結果だもん」

と沙耶は唯をにらみつけた。


 唯「解ったッあなたが人狼だったのねッ!!」


 沙耶「それは唯さんです。あたしじゃありません」

 沙耶は冷静に、だがしっかりと突き返した。


 美里「いつかこうなるとおもっていたけど」


 順也「どっちを信じるかで全く違う事になってくるな」


 魅夜「矛盾は、というか食い違いは他の部分にはないですよね?」


 美里「そうね、2人とも佐藤さんに白を出していて、佐藤さんは人狼に噛まれたのだから市民側なのは確実」


 舞「相沢さんが緑川さんを人狼だって言うことも、そのまま直接の判断材料にするには危険な気もするし…」


 魅夜「これはどこから見ていけば良いですかね?」


 舞「ねぇ待って?緑川さんと向井さんが人狼ってことはないのかな?」


 美里「あぁそれなら……」


 順也「ある程度筋は通るかもしれない」


 唯「私は人狼じゃないッ」

と唯はテーブルに手を叩きつけて座った。


 舞「でも2人が人狼でお互いが占い師やってれば、どっちかが疑われてもどっちかが信用してもらえれば白判定の占いが生きて救われるって事になるから」


 順也「後は本物さえおさえこめば2人とも生き残これて勝率があがると」


 舞「でも相沢さんに占われて正体がバレたって事かな?」


 美里「相沢さんが”本物”ならば、ね」


 魅夜「もし沙耶さんが偽物であれば、人狼か狂人――」


 沙耶「あたしは本物で、人狼を見つけたの。ただそれだけ」


 唯「違うッ私が本物なのッ」


 美里「…んー。私個人としては織花ちゃんが本物だと思ってるんだけどなー。私にちゃんと白出してくれているし」


 順也「待てよ。という事は本田さんは人狼じゃなかった、って事か?」


 舞「そしたら本田さんは市民側?」


 順也「だとしたら、七瀬さんも人狼の可能性が出てくるね」


 舞「えぇ!?もう分かんない……」


 順也「1つ大事なのは、ここで確実に人狼を見つけないといけない。処刑できるのは残り2回、もし本当に人狼が2人いるのなら……」


 美里「ちょっと整理してみましょうか」

 


 相沢沙耶が 真占い師 の場合


 七瀬魅夜 → 白確定

 佐藤良夫 → 白確定

 本田平一 → 白確定

 緑川 唯 → 人狼

 向井織花 → 人狼(?)


 向井織花が 真占い師 の場合


 荒木浩司 → 白確定

 石橋美里 → 白確定

 緑川 唯 → 白確定

 七瀬魅夜 → 白確定

 本田平一 → 人狼確定


 緑川唯が 真占い師 の場合


 佐藤良夫 → 白確定

 村田順也 → 白確定

 向井織花 → 白確定

 本田平一 → 人狼(?)


 美里「こうなるわね」


 舞「あれ?ちょっとおかしくない?」


 順也「そうだね」


 舞「もし緑川さんと向井さんが人狼だとしたら…」


 魅夜「俺と本田さんが恋人として対立していたのがおかしい事になる」


 舞「そうだよね。だって本田さんの振る舞いは人狼っぽかったんでしょ?占い師の中に1人人狼、1人狂人がいるなら本田さんは人狼で決まりって事で……」


 順也「本田さんの言い分は明らかに人狼のソレだったからね」


 美里「という事は……」


 順也「矛盾が出ている」


 沙耶「それは違うわ。本田さんが狂人だった可能性は捨てきれない。狂人は人狼を勝たせる事が本職、わざと人狼のフリをしても何もおかしくないでしょ?」


 舞「じゃあやっぱり緑川さんと向井さんが人狼?」


 沙耶「そうは言ってるけど大塚さんこそ人狼だったりして。あたしは唯さんが人狼だって見つけただけで、織花ちゃんも人狼だなんて一言も言ってないでしょ?」


 唯「確かに最初に言い出したのは大塚さんだったね」


 舞「なッ」


 沙耶「それになんだかんだ1回も白出てないしね」


 織花「ここぞとばかりに急に押し付けてきましたもんね」


 舞「2人が人狼だって言い出したのは相沢さんでしょ!?私もそうかなって思ったから手助けしてるのにそういう事言う訳!?」


 沙耶「さっきも言ったけど、あたしは一言も2人が人狼だなんて言ってない。唯さんが人狼でしたって言っただけよ。あたしからしたら唯さんは人狼で確定だけど、織花ちゃんはまだ分からないもん」


 美里「まぁ確かにいきなりっちゃいきなりよね。押し付けてるととれなくもないけど、そもそもまだグレー状態だし」


 舞「石橋さんまでッ」


 順也「でもちょっと極端じゃないですか?」


 舞「順也さん」

 舞は少し涙を浮かべながら順也を見つめた。


 順也「確かに舞ちゃんはまだ占われた訳じゃないから白かどうかなんてわからないけど、だからって人狼などうかは…」


 魅夜「確かにそうですけど……」


 順也「俺は舞ちゃんを信じてみる。舞ちゃんは誰が怪しいと思う?」

 順也は舞の方に向き直り言った。


 舞「私は……私はやっぱり向井さんと緑川さんが……」


 唯「だったら私は、大塚さんに入れる。私のことを信じてくれないのなら、そうするしか……」


 織花「私もです。人狼を押し付けられるのは嫌ですから」


 美里「私は織花ちゃんを本物だと信じてるから、織花ちゃんに合わせようかな」


 魅夜「まだ結論付けるのは早いですよ。時間だってまだ……」


 織花「それもそうですね」


 順也「占い師が3人ってことはそこを早めになんとかしないとまずいかもね」


 美里「そうね、まず間違いなく誰かは人狼だもの」


 唯「またそこに戻るの?」


 順也「現段階で1番重要だからね」


 唯「でもそう言えば結局他の役職はどうなったの?」


 魅夜「言われてみれば騎士もまだ誰か分からないですもんね」


 順也「みんな自称でしかないしね」


 美里「1つ言えるのはもう騎士はいないって事かしら」


 順也「ここまできたらCOしても良いですからね」


 織花「せめて人狼があと何人なのか解ればいいのに」


 美里「【村長】の役職があれば解ったのにね」


 織花「そんなのもあるんですか?」


 美里「上級役職でね。まぁ今そんな事言ってもしょうがないけど」


 順也「話を戻しましょうか。俺の意見を言わせてもらうと、ここで占い師を1人はじいてしまうかどうかをまず決めた方が良いと思うんだけどどうですか?」


 美里「確かにそこが今重要でしょうからね」


 舞「これ以上偽物がいるのも大変になるだけだもの」


 唯「良いけど私は偽物じゃないから」


 織花「私だって同じですッ」


 沙耶「せっかくあたしが人狼見つけたんだから、いかしてよ?」


 魅夜「俺には…まだ何をどうしたらいいのか……」


 美里「緑川さんと織花ちゃんが相沢さんを占ってみるって手もあると思うけど」


 魅夜「そしたらまたグレーから…?」


 舞「え…それって……」


 順也「…舞ちゃんって事ですか?」


 舞「そんなッ!待ってよッ!」


 美里「占い師に機会を与えるとしたら、白が出ている私と七瀬さん、そして彩賀ちゃんから市民の役職をもらった村田さんは処刑できないから――」


 舞「だったらやっぱり緑川さんを処刑すべきよッだって黒出でるんでしょ!?」


 美里「ここの判断は、とても難しいね」


 織花「どう…しよう……」


 順也「俺も分からなくなってきた……」


 唯「そろそろ時間……」


 舞「…やめて…ッ私じゃないッ」


 順也「…では、せーの、で」

 

 「「せー…の!」」


 皆は一斉に投票をした。その結果、処刑される事になったのは――。


 相沢沙耶 → 大塚舞

 石橋美里 → 大塚舞

 緑川 唯 → 相沢沙耶

 村田順也 → 大塚舞

 大塚 舞 → 緑川唯

 向井織花 → 大塚舞

 七瀬魅夜 → 大塚舞


 ――投票の結果、大塚舞様が処刑されることになりました。皆様すみやかに自室へお戻りください――



 テレビが消えた。しばしの沈黙があったが、最初に立ち上がったのは舞だった。

 「…みんな、さようなら。でも気に病んだりしないでね。順也さん。絶対、生きてね」

そう言って舞は涙も見せずにそっと応接室を出ていった。

 それから1人、また1人と応接室から出ていった。


 七瀬が最後に出ると、ロビーには順也が悔しさに満ちた顔で女子の部屋がある方、大塚舞の部屋がある方をじっと見ていた。

 七瀬はかける言葉も見つからず、ただ黙って通り過ぎるよりなかった。



 部屋に戻った七瀬は、もう怒りという感情は通り越し、消えていた。それよりもゲームのことに頭は働いていた。

 もし本田平一が人狼であるならば人狼はあと一人。明日、ゲームは終わる可能性もある。ただ終わらなかった時――。人狼が残り1人ならば、まだチャンスはある。

 (そのチャンスをいかせるのか…?)

 ただ何も出来ないまま時間は過ぎていく。その間ずっとベッドの上に横になり、天井のシミを眺めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る