第14話 3日目 夕 生と死と
――午後5時半――
――それでは投票の時間となりました。各自この方だという人に投票してください――
皆はゆっくりと、この人だと思う人に指を指した。
――投票が終了しました。それでは皆様は速やかに自室へ戻ってください――
処刑が決定した者はとても震えていた。無理もない。裁判で死刑判決を受けたのとおなじなのだから。ただ違うのは、ここには誰一人、罪人はいないということ。
皆は仮面の人物に言われた通り、部屋に向かおうとした。
「待てッ待ってくれ!ワシを助けてくれ!」
さっきまで震えていた本田平一は、その場に這いつくばりながら必死に周りに助けを求めた。だが、七瀬たちにはどうする事も出来なかった。
(生き残るために、仕方ないんだ)
と言い聞かせるしかなかった。
「おッお前らッ!」
「決まった……事だから……」
と後ろを振り返らず、美里は言った。
部屋戻る足取りは重かった。18時半には、もう平一は生きてはいないだろう。ほんの数日、一緒に居ただけだが、心がとても痛む。
部屋の中では静かな時間だけが流れた。
――午後6時半――
皆が一斉に部屋を出る音がした。向かう場所は1つ。
平一の部屋に入ると、その奥にあるベットの上には平一が無惨な姿になり横たわっていた。ただの塊となって――。
応接室に戻った七瀬達。七瀬はそっと抜け出し、ロビーへ出た。
ガンッガンッガンッ!
七瀬は応接室のドアを力一杯何度も何度もなぐりつけた。
(くそっ!くそっ!!)
殴りつけたままの拳から血が流れ出る。
(いつまで……いつまでこんな事を……)
七瀬は応接室のドアに背を向けた。
ガチャッ
その時応接室のドアが開き、織花が出てきた。織花が七瀬に向かって歩き始めたかと思うと、
トンッ
と背中に温もりを感じた。それは織花なりの、精一杯の慰めだった。
――大丈夫だよ――
と。
応接室に戻った時、まだ重い空気が流れていた。今まで幾度も経験したこれは、この後もまだ続くだろう。そう思うだけで、七瀬はとても辛かった。
そんな時動き出したのは沙耶だった。棚の中を次から次に開けては閉め、何か探しているようだった。
「何探してるんですか?」
と七瀬が尋ねると、
「……魅夜さん、本当自分の事に鈍感だよねぇ」
とクスッと笑った。
「あ、あった」
と取り出したのは救急箱だった。
「ほら、そこ座って」
と促されるままイスに座る。向いに沙耶も座り、面接を受けるかのような形に。ただ違うのは、面接ではこんなに近くない。膝同士がほぼ当たっていた。
沙耶は少し前かがみになり、七瀬の手をとった。チューブトップが沙耶の豊満な胸を包み込んではいるが、ぴっちり胸のラインが分かるほどのデザインな為、余計にえっちに強調されていた。
思わず目を背けると、ジト目で見ている織花と唯に目が合った。
沙耶はそんな事とはつゆしらず、テキパキと手当をこなしていった。
「とりあえず、これでよし!お風呂あがったらもっかいやったげるから、ちゃんとあたしの所来なさいね」
と言って立ち上がった。
「だっ大丈夫ですよ。1日くらい風呂入らなくたって」
七瀬は、風呂で流れてしまった消毒液を再度またやってもらうのは悪いし、これくらいは放っておけば治ると思うタイプなので、丁重にお断りしたのだが、
「魅夜さんお風呂嫌いな人?ダメだよ女の子の部屋に来るのに身綺麗にしとかなくちゃ。それとも一緒なら入る?背中ながしたげよっか?」
「えぇ!?いやっ大丈夫自分で出来るからッ」
「ちゃんとキレイに洗って来るんだよ?」
「はい……」
「よろしい!」
と言って救急箱を持って離れていった。
(てか、風呂入って部屋に行くのはまずいだろ。)
考えたあげく思いついたのは、
「…風呂入ってきまーす」
そう、夜に風呂上がりで女子の部屋に行くのはまずいと思った七瀬が考えた策は、今のうちに風呂に入ってしまい、応接室で手当を受けてしまえば部屋に行く事もない。
(どうだ!この天才軍師も脱帽するだろう俺の策!!)
「今入ったらさっきの手当、無意味じゃん」
と一蹴され笑われてしまった。
「はい、その通りです」
と七瀬は観念した。
食事が終わったあと、七瀬は1人風呂へ向った。風呂場でゆっくりゲームの事を考える。
(平一はまず間違いなく人狼――。そしてきっとまだ、人狼は生きている。つまり今日の夜、さらなる犠牲者が出る。占い師の誰かが狙われる可能性が1番大きいか。だが騎士がいることを考えると、他の人を狙うとしたら?それをふまえると占い師の誰かか佐藤良夫。佐藤良夫は自称占い師の2人から白を出されている。まず間違いなく市民側。狙われても不思議ではない。)
七瀬は1度目湯船を両手ですくい、顔を洗う。
(占い師から狙うのは人狼のセオリー。あと一人、あと一人さえわかれば。…あれ?なんだろう、このしっくりこない感じ……何か見逃しているような……)
風呂を出た七瀬は応接室へと向った。目的はもちろん――。
「あれ?もう入ってきたの?しょうがないなー」
と救急箱から消毒液を取り出す沙耶。ガーゼに液を染み込ませ、「トンットンッ」と言いながら傷口に当てていく。わざわざ擬音を口にする沙耶を見て七瀬は思わず笑ってしまった。
「なにぃ?」
と不思議そうに首を傾げる。
「いや、トンットンッって」
と言うと、
「べっ別に良いでしょッ」
と顔を真っ赤にした。
「ごめん、可愛くてつい」
と言うとまた、
「ばッバカッ」
と言ってさらに赤くなった。
いくらキャバ嬢として男を手玉にとっていたとしても、素は1人の女の子なのだ。この状況でも表では気丈に振舞っていても、本当は怖くて仕方ないだろう。
沙耶だけじゃない、ここにいる全員がそうだ。一刻も早くこのゲームを終わらせたいと、誰もがそう思っていた。
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