第12話 3日目 朝 エプロンには…?

 夜が明けた。

 七瀬はまだ生きている。という事は、誰かが死んでいるということでもある。


 七瀬はそそくさと着替えを済ませ部屋を出ようとドアノブに手を伸ばすと、急にドアが近づいてきた。


 ゴッチーンッ!!


とドアが顔にぶつかった。

 「……ッいったぁ……」

 顔を押さえ、その場に塞ぎ込む。

 「……何なんだ一体……」

 涙目で顔を上げると、そこには目に涙をいっぱい貯めた織花が息をきらせ立っていた。

 「どッどうしたのッ!?」

と聞くと、織花はその場にヘナヘナと座り込み、泣きじゃくった。

 「ちょッ向井さんどうしたの!?」

 「……良かった……よかったぁ……」

 織花は泣き続けた。七瀬は訳が分からなかったが、とにかく”良かった”らしい。気がつくと他の人たちも集まっていた。



 ――朝8時――

 七瀬達”9人”は応接室に集まっていた。夜のターンの直前までと同じ人数。つまり、昨夜の犠牲者はいなかった事になる。

 早い時間に集まった七瀬以外の8人はその時点で察し、いち早く織花が駆け出して行った、との事だった。


 織花は目を腫らし、顔を真っ赤にして「……ごめんなさい、痛かった?」

と言った。

 「もう大丈夫だよ、ありがとう」

と七瀬は笑ってあげた。


 犠牲者がいなかったとはどういう事か。考えられるのは、【鈴木栄作】と【田中彩賀】が人狼だった場合。この場合人狼全滅で市民側の勝利となる。そしてもう1つ――。

 そしてまたテレビがついた。



 ――皆様、おはようございます。おや?今日は死者がでていないようです。どうやら人狼は襲撃に失敗したようです。が、まだ息を潜めています。残り9名です――



 少しの沈黙の後、美里が口を開いた。

 「何となく分かってたけど、そういう事ね」

 皆は納得した。


 七瀬達はとりあえず朝食を食べる事にした。

 昨日織花が言った通り、テーブルの上には唐揚げが運ばれてきた。いただきますの前に、また1つつまみ食いをする。

 「あーまたつまみ食いをしてー」

と織花に注意されてしまった。

 そんな所に沙耶が現れた。それはもう思わず2度見してしまう程の姿で。

 それはエプロンに――沙耶の肌だけが露出した姿。。

 「ちょっと相沢さんッそれッ」

 「ふっふっふー。どぉかなこれ?そそる??」

 「何やってんスか!?皆見てますよ!」

 「え?ダメー??」

 「当たり前じゃないスか!」

 「えー?でも後ろから見ても可愛いんだけど?」

 とくるりと回転しようとする。七瀬は咄嗟に目を手で隠す。

 一瞬の沈黙ののち、うっすらと目を開けると沙耶の艶々した肌が――ある訳もなく、しっかりと服は来ていた。


 「やだもー何考えてたのー?七瀬さんのえっちー」

 沙耶の来ていた服とはチューブトップにデニムのショートパンツ。ちょうどエプロンで隠れるものだった。沙耶はそれを解っててわざと七瀬に裸エプロンだと思わせていたのだった。

 「もぅすぐそうやって……」

 「でも彼女さんにもさせてたでしょ?」

 「させてませんッてか”にも”ってなんですか。俺が相沢さんにさせてるみたいじゃないですか」

 「あれ?違った??ていうかさ、そろそろ沙耶って呼んでくれないかな?あたしたちの仲でしょ?」

 「どんな仲ですか」

 「それを女から言わせるの?結構ドSなのね」

 というやりとりを皆は、特に美里はこういうのがツボであるらしく、大爆笑していた。

 「相沢さん」

 「沙耶」

 「沙耶さん」

 「なぁに?」

 「いつもそんな感じなんですか?」

 「いつもって?」

 「キャバ嬢ってみんなそんな感じなんですか?」

 「敬語やめてくれる?」

 「……いつもそんな感じなの?」

 「まぁここだから言うけど気を引くためになんでもする子はいるかなー。あたしはしないけどさ」

 「まっ金を稼ぐ為のいわば手段だからな」

と平一が口をはさんだ。

 「実際はシビアな世界ですからね」

と順也も中に入る。

 「そ。あたしにはお金が必要なの。1人で生きていく為にね。1人で生きていくって……決めたはずだったんだけどなぁ……」

と沙耶は遠くを見つめた。



 人は誰しも心の闇を抱えて生きている。背負うものも様々。鈴木栄作も、荒木浩司も、田中彩賀も――。

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