第11話 2日目 夜 アピールは露骨に?それともさりげなく?
――午後10時――
風呂から上がった七瀬は部屋の中にいた。風呂中で、七瀬は覚悟を決めた。
(何としても生き残る。そして、皆で外に出るんだ)
ベットでごろんとしていると、コンコンっとドアがノックされた。
「はいどうぞ」
横たわっていた身体を軽やかに起こす。
ガチャリ、とドアが開くと、そこには恐ろしい人狼が!!
いる訳もなく、それどころか可愛い女の子が部屋に入ってきた。風呂上がり姿の唯だった。
唯はいつものポニーテールをおろし、Tシャツにスウェット地のショートパンツで、頬がほんのり火照っていた。
この洋館には銭湯のようなでっかい浴場がある。もちろん広さは比じゃないが。
「女の武器を使いに来たよー」
と七瀬の隣に座った。”隣”という事は、すなわちベットに座っているという事である。
(女の武器と言えば涙━━か。え、俺泣かれるの?)
と思っていたら、
「少し火照ってると、私でも少しは色っぽくなるでしょ?沙耶さんや織花ちゃんとどっちが良い?」
と首を傾げて無邪気な笑顔を見せた。
「さ…さぁね」
とごまかしていると、
「私胸ちっさいからなー」
と両手を胸に持っていき、
「沙耶さんが羨ましい!」
と言った。そう、沙耶はわがままボディなのだ。
七瀬は、
「胸は大きさじゃなくて形と感度だよ」
と訳の分からないフォローをした。
唯は「ぷっ」と吹き出し、
「何それー七瀬さんのえっち~」
と言って七瀬の肩をバンバンッと叩いた。
その直後、突然唯は七瀬の肩にもたれかかってきて、「甘い香りがするぅ」とスリスリし始めた。
「彼女さんとはどうしてケンカしたの?」
「え?あぁそれが訳わかんなくてさ。誰にでも優しいって言われてさ。困ってたら助けるの普通じゃん?」
「その、困ってる人って女の人?」
「うん、仕事場の後輩なんだけど、泣いて電話してきたから何事かと思ってすっ飛んでった」
「あぁ…」
唯は意味ありげに頷いた。
「七瀬さんは女心がまるで解ってないんだねぇ」
「そ、そんな事ないでしょー少しは解ってるよ」
「いいえ、全然解ってません」
「そうかなー?」
「そうです。で?」
「ん?」
「別れるの?」
「わかんない」
「ふーん…。でも沙耶さんが好きなんでしょ?」
「はぁ?どうしてそうなる━━」
「だってちゅーしたじゃん」
「アレは事故でしょうが」
唯は「ふーん」と言って、
「まぁいっか、そういう事にしといてあげる」
と言った。
「そう言えば、舞さんも村田さんといい感じよね」
「えッそうなの?」
「…そういうトコ」
とジト目で七瀬を見た。
唯はパッと立ち上がり、
「そろそろ戻るね。いつまでもこんな狼の所にいたら何をされるか」
と両手で自分の体を抱きしめた。
唯はドアまで行くと立ち止まり、ドアノブに手をかけたかと思ったら七瀬の方を振り返り、
「生き残ってここから出られたら、デート、しようね」
「え?」
「だ・か・ら、デート、しよーうね?」
と言ってそそくさと部屋を出ていった。
そのまま少しだけ唯の出ていったドアを眺めていると、またノックの音が鳴った。「どうぞ」と答えると入ってきたのは織花だった。
「どうしたんですか?」
と七瀬が聞くと、
「すいませんこんな時間に…なんかちょっとだけ顔が見たくなってしまって…ご迷惑ですか?」
と申し訳なさそうに言った。
「大丈夫ですよ、ちょうど暇してたので」
「そうですか、じゃあ失礼します。あっジュース、持ってきました」
と差し出してくれた。
「おっありがとう」
ジュースを渡した後、織花は椅子に座った。が、しゃべるでもなくしばらく黙ったままジュースを口につけてるだけだった。
「向井さんはテレビとか出てるんでさよね?すごいなー」
七瀬は沈黙に耐えきれず、おずおずとしゃべりだした。
「そんな事ないです。私なんかまだまだで」
「俺なんかテレビ出ちゃったら何もしゃべれなくなっちゃうよ」
「テレビ、どんなの見ます?」
「んーそうだなー。バラエティも見るけど、ドラマとかも割と見るかなぁ」
「どんなドラマですか?」
「恋愛モノが多いかも」
「そうなんですねッ」
「ヒロインにはキュンキュンしてしまうよ」
と話していると、ジッと見られていることに七瀬は気づいた。
「ど、どうしたの?」
とドギマギしながら聞くと、「ふふっ」と笑って、
「なんか意外。そーゆーの見なさそうなのに」
と言われた。可愛すぎる笑顔に七瀬はドキッとした。
「そう?」
「はい」
「あはは、やっぱりそうか」
「あの、1つ聞いても良いですか?」
「どうぞ」
「男は狼って、どういう事ですか?」
(ぶっ!)
七瀬は危うくジュースを吹き出してしまうところだった。
「唯さんが言ってましたよね?」
「あぁ、そうでしたね」
「どういう意味なんですか?」
と真剣に聞いてくる。
「さっきはあんな感じで言いましたけどよく分からなくて。なんとなく危険?っぽいって事は分かるんですけど」
(え、それを俺が説明するの?)
「えと、なんて言うか。男の人は表向きは優しい顔して優しい事言ったりしてるんだけど、本心では下心がある人もいるから気をつけなさいよ、って言う…教訓、かな?」
(そう言えばこんな歌があったよね。~男はーみんなー狼なのっよー下心ないようにーみえーてもー牙を隠してるー♪みたいな)
「へーそういう事ですかー。七瀬さんも、そう?」
「えっ!?いやまぁ全くない訳じゃ、ないけど……」
「ふふっ大声で言ってましたもんね」
「あ、あれはその場の勢いと言うか、その……」
「ふふっ冗談です」
「あはは…」
「でも、七瀬さんなら狼でも良いかも」
「え?」
「昔、こんな映画を見たことあるんですけど」
「どんなの?」
「中世のとあるまずしい主人公が、ひょんなことから大富豪の娘さんと結婚するんですど、ある日突然その娘がヴァンパイアになり主人公を襲おうとするんです」
「それで?」
「主人公は抵抗しようとするんですが、結局抵抗するのをやめて刺されてしまうんです」
「ホントに?」
「その時、娘は我に返って自分のしている事にショックをうけるんですが」
「うんうん」
「主人公は刺されたままの姿で、娘をそっと抱きしめるんです。そして主人公の最後の言葉を聞いた娘は自分の、自分である意識があるうちに、死んでしまった主人公の隣でそっと死を選ぶんです」
「そんな映画があったのか」
「さっきの狼の話とはちょっと違うけど、つまりは愛する人からならば自分を手にかけられても本望だってことですね」
「辛い結末だな」
そして織花はイスから立ち上がり、七瀬の隣に腰掛けた。そして七瀬を顔を見るとまた、ジッと見つめてきた。
「え?俺の顔、なんかついてる?」
「はい、目と鼻と口が」
といってクスッと笑った。
直後、織花はゆっくりと目を閉じ、少し顎をあげた。
(え?これは…そういう事なの?良いの?良いのかな?良いんだよね?イヤイヤダメでしょ!でもこんな事されたら狼さんになっちゃうよ?ホントだよ?)
七瀬がゆっくりと顔を近づけると、織花の目がパッと開いた。
七瀬はバッと離れて、
「だー!!ゴメンッ違うんだ!これは…」
「んふふふっ」
と織花はニッコリ笑った。
「私も自信持ってよさそう!」
と七瀬には訳分からない事を言った。
「それじゃ、そろそろ戻ろうかな」
と言ってスっと立ち上がった。
「え?あぁおやすみなさい」
「私のCDのタイトル、覚えてます?」
「え、あぁうん。【アナタの思う通りに…】なんだっけ?」
「もーぅ。【アナタの思う通りに私を愛して】です」
「ゴメンゴメン、ちゃんと覚える」
「絶対ですよ?この意味ちゃんと解ってください」
「うん、分かった」
織花は立ち上がり、ドアまで歩いていくと、
「また明日、唐揚げつくるね!」
と言って部屋を出ていった。
(明日……か。きっとまた、誰かが襲われている。そして、それは俺の可能性だってある)
七瀬は恐怖を感じながらもなんとか眠りについた。
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