第9話 2日目 昼 急展開

 ――午後2時――


 再びゲームが始まってしまった。

その時にはもう、みんな覚悟を決めていた。

美里「まず始めに聞いておきます。占い師さん、もし人狼を見つけたのならCOして下さい」

 しかし、誰も発言するものはいなかった。まだ誰も見つけていないようだ。もしくは警戒しているのかもしれない。人狼に狙われることを。

 本物の占い師とバレてしまえば1番に人狼に狙われることは間違いない。それは死に直結する。


 良夫 「鈴木さんが人狼だった可能性はとうかな?」


 舞「それはないんじゃないかな?人狼がわざわざ自殺する訳ないし、役職持ってたらふりになるだけだし」


 彩賀「だからきっと市民ですね!」


 美里「イタコだったら解るんじゃない?」 


 平一「少なくとも荒木は市民側だな」


 美里「それは間違いないですね」


 良夫「夜の行動もしたことだし、誰か名乗り出ても良いと思うけど」


織花 「でもそれって意味あるんですか?人狼を見つけた訳じゃないですよね?」


 良夫「そ、そうだね……」


 順也「でも少なくとも情報は得られるんじゃないかな?誰々は市民だったーみたいな」


 良夫「七瀬くんは何かないのかな?発言しないのは人狼だってボロが出るからかな?」


 (なんで俺に突っかかってくるんだよ)

 七瀬は多少ムッとしたもののすぐに反発。

 七瀬 「俺は、騎士がいるなら占い師が出てきても良いかなって。守ってくれればいいと思うし」


 美里「そうたね、騎士が守るだろうから死ぬこともないし情報も得られる」


 彩賀「でも下手したら荒木くんが騎士、もしくは占い師の可能性もありますね?」


 その発言を最後に全員が考え込んだ。



 しばらくして美里がボソッと何か言った。

 美里「12→10→8→6→4……」


 沙耶「なんの数字?」

 沙耶が首を傾げながら聞く。


 美里「朝の時点での残りの人数よ。減った回数が処刑できる数よ。4で止まっているのは、決着のつく可能性があるから」


 平一「つまり、計4回処刑がある訳か」


 美里「まぁ人狼が2人だから、ストレートに処刑出来れば2回で終わるんだけど」


 舞「逆に言うと、失敗できるのは2回までって事ね」


 美里「そして鈴木さんは市民の可能性が高いから、失敗できるのは後1回……」


 順也「そうすると、ゆっくりしている時間はないですね」


 良夫「となると、やっぱり早めにCOした方が良いんじゃないですか?」


 織花「でも今の時点だとリスクの方が高い気もしますけど……」


 良夫「そう言えば相沢さん、あまり発言しませんね」

と、唐突に名前を呼ばれた沙耶は、「えっあたし!?」とびっくりした。


 沙耶「あたしは市民ですよぅ」

と言うが、「誰だってそう言います」とさらに突っ込まれる。

 沙耶「そんな事言い出したら、佐藤さんの大好きな織花ちゃんだって発言多いとは言えないんじゃない?」


 織花「わっ私ですか!?」


 良夫「織花ちゃんは人狼じゃないっ」


 彩賀「そんな事解らないでしょ?それとも、人狼同士だからかばい合うのかな?」


 良夫「違う違う!織花ちゃんは人狼じゃないっボクだって違う!」


 彩賀「そうやって織花ちゃん織花ちゃんうるさいんだよ!アイドルだからってゲーム関係なくちやほやしやがって!」


 周りが一気にシーン、となる。

 彩賀「私だってアイドルに戻るために頑張ってんだ……」


 美里「……と、とりあえず今の事考えましょ?」

と、空気を変えようとする。


 順也「向井さんと佐藤さんが人狼…」


 良夫「そうか田中さん。アナタが人狼なんですね?ボクたち2人に人狼を押し付けて」


 彩賀「は!?何でそうなるの!」


 良夫「そうじゃなかったらこんなに強引に押し付けないですよ」


 彩賀「佐藤さんが織花ちゃんばかり市民市民言うからでしょ!お互い解ってるとしか思えない!」


 沙耶「ちょちょっと少し落ち着いて!1回落ち着きましょ?」



 彩賀が落ち着くのを待って、話し合いは再び再開した。


 順也「さて、向井さんと佐藤さんが人狼説。これは、どうかな?」


 平一「少なくとも佐藤と田中の嬢ちゃんは人狼同士でも恋人同士でもないって事だな」


 順也「そうか、恋人ってのもありましたね」

 唯「じゃあ、佐藤さんと織花ちゃんは恋人、ってことなのかな?」


 沙耶「なーんか、聞きたくない言葉ね」


 順也「どうなんでしょうか?」

 順也は2人を交互に見て聞いた。


 織花「まだ、私は何も言いません」


 良夫「まだ発言してないと言えば、七瀬くんもそんなに話してないね?」


 (今度は俺かよっ)

 噛みつきたくなるのを堪えて冷静に発言しようとする。

 七瀬「俺は、まだ色々考えてるだけです」


 良夫「ふん、どうだか。きっと七瀬くんと田中さんが人狼だと思う」


 美里「その根拠は?」


 良夫「人狼をボク達に押し付けようとしている事がその証拠だと思うんだ。そして、七瀬くんはボロを出さないようにほとんど発言していない。1人がゲームを支配して1人は傍観する。決して結託しているとは悟られないけど裏では手を合わせている」


 美里「言いたいことは分かるけども」


 沙耶「人狼同士は解るはずですよね?でもこの2人がかばいあってると言うか、結託しているようには感じられないんだけどなぁ」


 良夫「表立って庇っていたらすぐにバレますからね。そういうのも計算してるんじゃないかな」


 彩賀「違うっ私は人狼じゃないもん……」


 唯「そうね、私は七瀬さんは人狼じゃないと思うなー。あ、彩賀ちゃんも」


 織花「私もそう思います」


 平一「ワシも佐藤の小僧と同じ意見だ、人狼だと思う。やっぱりしゃべらなさすぎるし、夜には襲われないという自信が感じられるな」


 美里「うーん言われてみるとそんな気がしないでもないけど…」

 美里は右手を顎に当て考えにふける。


 舞「そうかなー?」


 順也「そう言われればそんな感じはなくもないか…」


 (まずいな、俺に傾きかけている。何とか……、何とかしないとっくそっ時間が欲しい……)


 七瀬「分かりました良いでしょう。でも、俺に時間を下さい。明日。明日、COします、だからっ」


 良夫「今は見逃せって?そんな事できる訳ないだろう?もう1回しか失敗出来ないんだ」


 平一「人狼が時間稼ぎか。今日乗り切れば俄然有利になるからな?」


 織花「待って下さい、七瀬さんは違うよきっと!」


 良夫「織花ちゃん、騙されちゃダメだ。こいつはそうやって何人も女を騙してきたに違いないんだ!」


 七瀬「ちょっと待てっ。今そんな話じゃないじゃないですか!」


 良夫「ふんっ偽善者めっ。織花ちゃんや他の子に話しかけたのだって、下心がないと言えるのかい?」


 七瀬「はぁ?あんたさっきから何言ってんだ!」


 良夫「図星かい?答えてみろよ正直にっ」


 七瀬「あーはいはいっそーですよ!下心ない訳ないじゃないかっこーんな可愛い子達にかこまれてるんだ、ない方がおかしいだろぉおおおおぉぉぉ!」


 シーン……


 七瀬以外の全員は呆気にとられていた。突っかかった本人の良夫でさえ、ポカンとしている。七瀬はハッと我にかえった。

 (な……何を言ってるんだ俺は……。つい勢いで変な事言ってしまった……)


 沙耶「ま……まぁ七瀬さんも男だからね!むしろおメガネにかなって!女としては嬉しいくらいだよー」

 と沙耶が変なフォローをする。

 まぁ女子達からすれば、「俺は狼ですよ(人狼ゲームではなくて)、下心があって近づいてますよ」と言われているのだから。

 男子からの視線は「そんな正直に言わなくても」という視線だろう。


 良夫「…ほ、ほらみろ。そんな奴誰が信用するもんか」

と吐き捨てられた。


 美里「と…とりあえず整理しましょうか」

 美里が戸惑いながらも進行を始める。

 美里「えっと、今の状況からすると、こんな感じ」


 【佐藤良夫】と【田中彩賀】は【互いが分かり合う役職同士】ではない


 【佐藤良夫】と【向井織花】は互いをかばいあっている


 【七瀬魅夜】と【田中彩賀】に【人狼の可能性あり】


 【荒木浩司】は【市民側】


 【佐藤良夫】と【向井織花】が人狼だと言い出したのは【田中彩賀】


 順也「これは……」


 美里「こうしてみると、1つの流れが見えてこない?」


 舞「えー?ど、どういう事??」


 平一「あぁ、そういう事か。上手いな」


 沙耶「ぜんっぜん分かんないんだけど」


 良夫「ボクも織花ちゃんも人狼じゃないぞ!」


 彩賀「私だって違うっ!」


 沙耶「あーもう訳わかんないっ!」


 唯「どゆこと?」


 (確かにこうしてみると…でも、本当に?だがこの事実から見ると――)


 彩賀「解った……じゃあ言う!私は【狂人】なの!だから私をここで処刑すると、もう後がなくなりますよっ!」

 ここで彩賀がCO。全員が目を見張った。


 順也「だとしたら厄介ですね」


 美里「そうね、もし狂人だとしたら処刑しても”市民側”のカウントが減るだけ。そして人狼は生き残り、勝つチャンスは増大。だからこのCOは、人狼側からしたら生かしておきたい。そして市民側からしたら、みすみす処刑できるチャンスをここでふいには出来ない」


 順也「つまり、どちら側からも処刑の票は集まらない」


 彩賀「さぁどう?これが私が市民だという証拠よ」


 良夫「ほんとうに”狂人なら”ね」


 彩賀「ッ!?」

 彩賀が鋭い形相で良夫を睨む。


 七瀬「そうですね、確かに本人が言ってるだけであくまで”可能性”の域を出ない」


 良夫「ふん、珍しく意見が合いましたね」


 舞「どうしようついてけない……」


 順也「でも狂人なら説明もつきますね」


 唯「どういう事?」


 七瀬「つまり、【狂人】の自分が周りから"自分は人狼だ"と思わせることで、人狼は"こいつが狂人だ"と分かることが出来、手を組める可能性を高めていた、という事か?」


 順也「そしてここでCOしたことでより人狼は確信を深め、さらに処刑さえも免れようとしている」


 平一「頭のいい娘だ」


 美里「一応他の人にも聞いておきましょう。自分が本当の狂人だと対抗する人はいますか?」


 またシーンとなった。ここで誰かが対抗で出てきたらもう一波乱ありそうだったが、幸か不幸か名乗り出る人物は居なかった。だが――。


 唯「でも狂人だったら普通占い師とかそういうのを騙るんじゃないの?」


 美里「確かにそれがセオリーではあるんだけど」


 沙耶「それって?」


 順也「つまり、狂人が占い師を騙れば、ほぼ本物が名乗り出てくる可能性が高い。そしてその本物を人狼は狙う」


 七瀬「それが基本ですかね」


 良夫「でも田中さんのやり方は随分トリッキーですね」


 彩賀「でも混乱したでしょ?人狼も私が狂人だって分かってくれたはず。万々歳って訳」


 順也「でもおかしい所もあるんですよね」


 彩賀「おかしい所?」


 順也「もし佐藤さんや向井さんが本当に人狼だったら?君は君が人狼として処刑されそうになったからCOしたよね?でもその前に2人を人狼として陥れようとしていた。自分が人狼として処刑されそうにならなかったらCOしたかな?」


 彩賀「それは……」


 七瀬「つまりは、最初から狂人として人狼を探すつもりは無かった」


 美里 「それに、狂人として誰かを陥れるなら本物の人狼を知ってないとリスクがあるよね」


 平一「言われてみればそうだな」


 彩賀「…ッ」


 唯「つまりは…」


 沙耶「そういう事ね…」


 美里「でもだとしたら、佐藤さんや織花ちゃんの人狼説もまた残ってくるわね」


 平一「そうか、田中の嬢ちゃんは本当に市民目線で発言していた事になるのか。危うく信じてしまう所だった」


 美里「ただ、狂人としてはウソかもしれないけれど、人狼として、という事なら話は変わってくる」


 彩賀「えっ!?」


 順也「確かに。人狼であるなら佐藤さんと向井さんを躊躇なく陥れる事は出来る」


 彩賀「ちょっとまっ――」


 良夫「もしそうだとしたら1番納得できるな」


 彩賀「違う違う違う!!」


 唯「教えて。もう1人は誰なの?」


 彩賀「だから違うっつってんじゃん!」


 良夫「もう1人が解ればゲームを終わらせられるんだ!」


 彩賀「あんたバカなの!?違うって言ってるでしょ!」

 彩賀は立ち上がって猛抗議。

 美里「そろそろ時間ね」


 唯「……やならいといけないのかな」


 良夫「ボッボクも織花ちゃんも人狼じゃないからね!」


 彩賀「……違う……私じゃない……」

 彩賀は立ち尽くしながら涙が溢れ、震えていた。


 織花「七瀬さん……」

 織花が不安そうに七瀬を見た。七瀬はじっと、織花を見て微笑んだ。

 ――大丈夫だよ――と。


 彩賀「私じゃない……私は……人狼じゃない……」

 彩賀はずっとそう呟いていた。


 そしてまた、静寂が訪れた。



 ――午後5時半――

テレビがまた写り、仮面の人物が現れた。


 ――それでは皆様、投票の時間となりました。各自、この方だという人に投票してください――


 美里「……いきますよ……」

 「「せーのっ」」

 それを合図に一斉に指がさされる。結果は――


大塚 舞→佐藤良夫

田中彩賀→佐藤良夫

緑川 唯→田中彩賀

相沢沙耶→佐藤良夫

本田平一→佐藤良夫

村田順也→田中彩賀

石橋美里→田中彩賀

佐藤良夫→田中彩賀


 七瀬と織花が投票したのは――



 ――投票が終わりました。それでは皆様は速やかに自室へお戻りください。部屋から出れるのは午後6時半以降です。では――


そう言い残し、仮面の人物は画面から消えた。



 1番多く票を集めた者は、処刑が決定された者はそのばに崩れ落ち、嗚咽をもらしていた。

 その者を応接室に残し、皆自室へとゆっくり戻って行った。


カチャリ


 部屋に戻った七瀬はベッドに雪崩込む。

辛い、決断だった。誰に投票してもすごく辛い。こんな事を明日も続けるのか、こんなことになんの意味があるのか。七瀬がいくら考え込んでも答えが出るはずもなかった。



 あっという間に1時間が過ぎ、七瀬は重い体を引きずるように部屋を出た。



 応接室には続々と集まってきていた。だが、そこに処刑が決定した者の姿はやはりなかった。

 「見に……行こうか……」

 順也が先陣を切って歩いていった。行き先は決まっている。目的地のドアをゆっくりと開ける。

 ギギィ、と音を立てて開くドアがより一層空気を暗くしていた。

 部屋の中央にはその住人の人影がいた。

 その頭上にはロープが伸び、天井に続いていた。


 そのロープは住人の首、田中彩賀の首に繋がっていたのだった。その手には、しっかりとマイクが握られていた。

 いつかアイドルとして再起出来ることを夢見て頑張っていたに違いない。

 七瀬はロープを外して降ろしてやり、ベットに寝かせた。



 ――応接室――

 誰も喋る者はいなかった。そしてまた、テレビがついた。


 ――皆様の投票により、田中彩賀様が処刑されました。残り9名です。只今から午前1時まで自由時間となります――



 テレビが消えたあと、またしばらく誰も話せなかったが、意外にも最初に沈黙を破ったのは良夫だった。

 「大丈夫だよ、ボクが織花ちゃんを守ってあけるから、安心してっ」

 織花はそれに答えず、たたじっと、七瀬の横に座っていた。

 「一途だよねぇ、佐藤さん」

と言って七瀬に近づいてきたのは沙耶だった。

 「私もめっちゃ一途なんだけどなぁ」

と唯も近づいてくる。少し上目遣いチックに横目で見てくる。

 「わっ私も一途なんですッ!」

と織花も声を張り上げた。

 (何故だろう、俺に言われている訳じゃないのにドキドキする)

と七瀬は思っていた。周りのみんなは何故かクスクスと笑ってたが、美里だけは腹も抱えて笑っていた。

 「私もそれに参加しよっかなー」

と美里が言うと、

 「ダメですぅ七瀬さんの本命は、あたしなんですよ?もうちゅーもしちゃったし☆」

と沙耶が言い出した。少し離れた所で、順也と舞が楽しそうに笑っていた。

 「で?七瀬さんは誰を選ぶのかな?」

と美里が聞いてきた。その顔はものすごくニヤついている。

 「えぇ!?俺ですか!?」

とうろたえていると、

 「逆に誰のことだと思ったの?七瀬さんて実は結構バカ??」

 「いやいや、今の俺の話じゃなかったじゃないですか!」

 「…なんでそーなるかなー」

と沙耶は呆れていた。

 「だって1度だって俺の話題出てないですよね?」


 ……ぷっ

 あははははははー!

 何それー!!

 と、周囲は爆笑に包まれた。



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