第5話 1日目 夕 不安

 ――午後9時――

 食事が終わったあとも誰一人自室に戻るものはいなかった。みんなこれからどうするのか、どうするべきなのか判断できなかった。

これがドラマか小説ならば、登場する主人公が犯人をあばくこともあっただろう。しかし七瀬はドラマの主人公でもなければ、どこかの探偵の孫でもなかった。



 平一達はずっと酒を飲み続け、織花や唯、沙耶達もソファから動かない。そしてそんな織花を見つめる良夫。美里は窓から外を眺めているし、荒木は空のグラスを持ったまま。

 重い沈黙の中、平一はスっと立ち上がり口を開いた。

 「ワシは、このゲームに勝って……生き残る!」

 そう言い残すと応接室から立ち去っていった。

 「ゲームを…続けるしかない…」

と順也も言い残し、舞と一緒に出ていった。良夫も「織花ちゃんはボクが守るからね」と言い残して部屋に戻った。

 「七瀬さん」

 振り返ると織花がいた。

 「私たち、どうなるんでしょうか……」

 「分からない。でも、他のみんなはゲームを続けようとしている。少なくとも、ゲームで勝てば生き残れるなら」

 (本当にそれしかないのなら、俺もゲームにかつしかない!)

 もう後には引き返せない。七瀬達はゲームを続けることを選ぶしか道がなかった。

 「七瀬さん、ニューシングルのタイトル、覚えておいてくださいね」

 「え?」

 「きっと歌ってみせますから」

 「うん、楽しみにしてる」

 「違います。ちゃんと聞いてください」

 「え?うんちゃんと聞くよ」

 「そうじゃありません。しっかり、聞いてください」

 「???」

 「もう良いです」

 「ごめん」

 「良いですよ、七瀬さんはそのままで」

 「ありがとう」

 「じゃあ、私も行きますね」

 「うん」

 織花はまた昨日と同じようにタッタッとかけていった。

  (ニューシングルのタイトル?なんだっけ、『アナタの思う通りに好きにして』だったっけ?)

 おしい!最後だけちょっと違う。七瀬はこういうのを覚えるのが苦手だった。


 ガチャ


 その時ドアが開いた。応接室に入ってきたのは沙耶。その顔は、やはり不安で一杯といった感じに青ざめている。

 「どうしたんですか?」

 「ちょっと、1人が怖くて。誰か残ってるかなって…」

 「そう…」

 「ちょっとだけ話してい?」

 「俺でよければ」

 「良かった、ほんの少しだけで良いの」

 「うん」

 沙耶は七瀬の隣に腰掛け「んー!」と両手で伸びをした。

 「七瀬さんは仕事なにしてるの?」

 「え?うん、アパレルの仕事してる」

 「そっかぁ…ねえ、キャバ嬢って、どう思う?」

 「え?うーん。どうって言われてもなぁ」

 「やっぱりチョロそうとかって、思う?」

 「そんな事はないですけど」

 「七瀬さんは優しいからなぁ」

 「別に優しくなんかないですよ、俺は」

 「織花ちゃん助けてあげてたじゃん」

 「あれは、ただのどかわいたなーって言っただけですよ」

 「ふふっしかも棒読みでね」

 「笑わなくたっていいじゃないですか」

 「えへへっごめんごめん」

 「たくぅ…」

 「絶対、生き残ろうね」

 「うん、もちろん」

 「じゃあもう行くね!ありがと!」

と言ってサッと立ち上がった。

 「じゃあおやすみ!」

 「うん、おやすみ」

 沙耶も立ち去り、七瀬も部屋に戻ることにした。そして、夜のターンがやってくる。

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