第4話 1日目 夕 最初の犠牲者

 きゃーーーっ!!

 誰かの悲鳴で七瀬は目が覚めた。何事かとベットから飛び起きる。部屋を出ると声のした方を探し目線を動かす。

 「七瀬さんこっち!」

と荒木が通路の奥の方で手招きした。直後には1階から登ってきた織花と唯、沙耶も「どうしたの!?」とやってきた。



 男性陣が集まっていたのは【鈴木栄作の部屋】。七瀬は荒木と良夫、平一達を押しのけ部屋に入る。そこには部屋の真ん中で立ち尽くしている舞と――。

 「どうしたんですか!?」

  織花が中に入ってくる。

 「きゃあー!!」

 「見ちゃダメだっ!!」

 七瀬は咄嗟に抱き寄せ視界を塞いだ。再び視線を中に向けると舞の向こうには無惨な姿になった【鈴木栄作】の姿がそこにあった。


 その顔はえぐれており、腕や脚の関節はあらぬ方向に曲がっており、無数の引っ掻き傷のようなものがあった。

 そう、まるで狼にでも襲われたかのように。


 「とりあえず、部屋を出ましょう」

 七瀬はみんなを促した。順也も舞を支えながら部屋を出る。そして中が見えないようにそっと静かにドアを閉めた。


 「どうしたの?すごい悲鳴が聞こえてきたんだけど、何かあった?」

 と部屋の外にいた沙耶が尋ねてくる。しかし、応接室に行くまで誰も口を開かなかった。


 唯が「ねぇ…」と言ったところで平一が答えた。

 「鈴木栄作が死んでいたんだよ。」

 「は?」

 沙耶はその意味を理解出来ていなかった。あまりに突然の事で。

 「血まみれだったんだよ、無数に切り刻まれていてな」

と平一は続けた。

 「はぁ?何言ってんの?そんなことある訳……」

 沙耶は顔をひきつらせながら言った。

 「ほんとのことだ。」

 「そんな、いったいどうして…」

 唯は手で口をおさえる。その時また、テレビがついた。


 ――皆様の投票により、【鈴木栄作】様が処刑されました。残り11名となります。只今から午前1時まで自由時間となります――


 「おいっ!これはどういうことだよっ!」

 良夫が1番に声を荒らげて前に出た。


 ――どう、とは?――


 「鈴木さんが死んでいたんだ!それも普通じゃない!警察を呼んでくれ!」


 ――投票で選んだのは皆様です。処刑されるのですからなくなって当然だとおもいますが?――


 と、仮面の人物は淡々と言う。一同は声を失った。


 ――それでは、午前1時よりゲームを再開いたします。それまでに自室へ戻ってください。夜のターンが始まります。ゲームを妨害、あるいはルール違反などの行為があれば皆様も鈴木様と同じ道を辿る事になりますよ――


 そこまで言うと、また画面派消えてしまった。



 しばらく誰も動けずにいた。

 (このままでいる訳にはいかないな、何か助かる方法はないのか)

 七瀬は比較的冷静だった。別にこんな状況に慣れている訳では無い。もちろん初めてのことだ。それでも冷静にいられたのは、周りの女子達がかすかに震えていたからかもしれない。

 「けっ警察に電話だっ!」

 最初に行動したのは、本田平一だった。

 「ダメだっそんなことしたらどんな事されるか!」

 「このままだってそうだろう!」

 「ダメっここ圏外…」

 「電話探せ!」

 混乱の中、声が飛び交う。そして一斉に応接室から飛びたした。ロビー、部屋。応接室。様々な場所を探すにはかなりの時間がかかったが、結局電話の類は見つからなかった。



 「外に呼びに行こう!時間はかかるが、そうするしかない!」

 順也がそういうなり、応接室を出ようとした。

 「……私も行く!」

 震えた声で舞も動き出す。それに続くように全員が応接室を出ると――。


ガガガッゴゴゴゴゴゴー!

ガタンガタンッ


 突然大きな音と振動が洋館に鳴り響いた。

 「なっ何だ!?」

 周りを見ると窓の外には鉄格子が降りてきた。

 「なんだこれ!ドアが…開かない!!」

 「何だって!?」

 ドアを開けようとしていた良夫にみんに駆け寄る。人が入れ替わり立ち代り、締め切られたドアを開けようとするも、頑なに閉ざされたままだった。

  「くそっダメだ!別のところを探そう!」

順也が走り出す他の人たちも出口を探して散らばっていった。



 ――数十分後――

 一同は応接室に集まっていた。結局どれだけ探しても出口は見つからず、連絡を取る手段さえなかった。脱出は出来なかったのだ。

 「ねぇ…どうするの…?」

 唯が七瀬の袖口を掴む。織花も七瀬の横で立ち尽くしていた。舞は順也の胸で泣いている。

 「……ゲーム……続けないとみんな死ぬって言ってたよ……」

 沙耶が泣きそうな声を出した。

 (続けるしか……ないのか??)

 「ふんっそんなの決まっている」

 平一が喋り始めた。

 「良いか?ここにはワシ達しかいない。外から人が入った形跡はなかった。ここに閉じ込められたあとも人が死ぬと言うのなら…」

 「な…なんだよぅ」

 良夫が情けない声を出す。

  「犯人はこの中にいるということだ。鈴木栄作を殺した犯人はがなっ!」

 「そんなまさか!?」

 「それしか考えられんだろう?」

 「仮面の人物がいるだろう!!」

 「ほぉ?じゃあそいつはどこにいるんだ?」

 「そ、それは……」

 「あれだけ屋敷の中を探し回っても怪しい所なんか無かったんだ。この中に犯人がいるとしか思えん」

 「そんな…私たちの中に犯人がいるなんて…」

  「全員にアリバイがないんだ。誰だって可能だろう?犯人を見つけられれば、ゲームをする必要なんかないじゃないか」

 「でもっゲームをしないとみんな殺されちゃう!」

 舞がまた泣き出してしまった。順也が優しく抱き寄せる。

 「ゲームを……するしかない……」

  順也がポツリと呟いた。

 「俺たちは閉じ込められたんです。電話も通じない。でもゲームさえやってれば、少なくとも生き残れる可能性はある」

 「生き残れなかったら……?」

 「……それでも……やるしかない。いつか何かのチャンスはやってくる……きっと」

 「それは、自分が生き残る、自分は死なないと解っているからか?自分が犯人だから」

 平一が順也につっかかっていく。

 「どうしてそうなるんですかっ」

 「やめてっもうやめてください!!」

 織花が目に涙をためながら2人の間に割ってはいる。

 「……そもそも、なんでその女は鈴木栄作の部屋にいたんだ?」

 舞がはっとした。

 「あ…ご飯。作ったから、みんなを呼んできてって言われて…」

 「そう、女子達でご飯を作ったんです。それで出来上がりそうだったから…」

 「そう言えばいい匂いしてたね」

 荒木が目を輝かせた。

 「一応もう出来てるけど……食べますか……?」

 「……そうだね、こんな時に食欲あるかわからないけど食べておこう。せっかく作ってくれたんだ」

 順也がみんなに言った。



 女性陣はせっせと支度を始めた。七瀬も何か手伝おうかとしたが、「男がする事じゃないよ」と、沙耶に追い出されてしまった。

 (意外と古風な考えの人なんだな)

と思っていたら、

 「今、意外と古風なんだな、こんな娘をお嫁さんにしたいなーって、思ったでしょ」

 「え!?いや、そこまでは……」

 「思わないの?」

 「いや、そう言う事では……」

と口ごもってしまうと、ケラケラと笑われてしまった。



 数分後、料理がテーブルに並べられた。

 「おー!美味しそうなオムライス!」

 「おかわりもあるから、沢山食べて!」

 「こんな時に飯なんぞ…」

 「こんな時だからですよ」

 「いらないなら食べても良いスか?」

 「誰も食べないなんぞいっとらんっ」

 そう言って平一もみんなと同様、席について食べ始めた。こんな時でも何故か腹は減るもんだ。

 (オムライスと言えば、彼女が最初に作ってくれたのもそうだったな。もし、俺がここで死んでしまったらどんな顔をするだろうか?少しは悲しんでくれるのかな)

 「どうしたんですか?」

織花が心配そうに顔を覗き込んでくる。隣に座っているから顔がとても近い。ただでさえ可愛いのに、さらに可愛く見える。

 「あ、いやなんでもないよ」

 「手料理食べるの久しぶりだ〜って顔してますよ」

 順也がからかってくる。図星である。正確には、昨日唯に作ってもらっているのだが、それとこれとでは意味合いが違う。

 「俺も久しぶりですよ、こんな美味しい手料理は」

 「じゃあまた作ってあげますね」

 と舞が順也に言った。舞は何とか落ち着いているようだった。表面上は。

 「織花ちゃんボクにも作ってよ」

などと良夫が言っていたが、織花はニコッとしただけだった。



 食事の最中、平一は恐怖から逃れようと、酒をグイグイと飲んでいた。たまたま近くに座っていた沙耶達女の子と平一が同じ視界に入るだけで、まるでそこはキャバクラにでも居るんじゃないかと錯覚する。現状はそこまで楽しいものでもなかったけれど。

 順也も近くに座り、その隣に舞は座している。良夫と荒木は隅っこに座り、彩賀と美里は七瀬の対面に座っていた。

 「はい、あーん」

と舞が順也にやっているのを見て、唯は七瀬の肩をポンポンった叩いてきた。

 「あの二人、良い雰囲気だね」

と言った。栄作の1件で距離が近づいたのかもしれない。吊り橋効果というやつだ。

 「七瀬さん、あーん」

唯が残っていたポテトを七瀬の口に運んできた。順也には視線が集まらないのに、何故か七瀬には集まってくる。七瀬は戸惑っていたが、唯は無言で「ほれほれ」という仕草をしてくるのでそのままにしておく訳にもいかず、ついにぱくっと食べた。

 「クスクス」

彩賀はそれを見て笑いだし、同じように「あーん」と差し出してきた。

 それを見た良夫は「織花ちゃん、ボクにもあれして!」と言っていたが、

 「イヤです」

とニッコリ笑った。

 「七瀬さんモテモテね、どっちのが美味しい?」

と美里が意地悪な質問をしてくる。味なんて変わらないのに。

 「あの…いや、どっちも美味しいです」

 その様子にみんなが笑った。

 食事が終盤に差し掛かった頃、七瀬は織花に話しかけた。

 「向井さんは、人狼ゲームしたことあるの?」

 「番組で1度だけ」

 「ちょっと、そんな話して大丈夫なの?」

と、唯が慌てて止めに入る。

 「ただの世間話だから大丈夫だよきっと。あ、でも怖かったら話さなくてもいいからね。別の話でも良いし」

 「大丈夫ですよ、七瀬さんと一緒なら、なんだか怖くない」

 織花はニッと笑ってみせた。

 「良かった。他の人もそんなに詳しい訳じゃないみたいだね」

 「そうですね」

 「あー!また織花ちゃんを口説いてる」

 沙耶が突然茶化しに入った。

 「なっ違いますよ!」

 「じょーだんですよー。そうだ、今度うちの店に遊びに来てね?サービスしますよ」

 「あっ楽しそうだね、俺も行ってもいいかな」

と順也が言った途端、舞が思いっきり順也のほっぺをつねった。順也は「イタタタタッ」ともがいた。

 順也は涙目になりながら、

 「君はアイドルをしてるんだったね。CDなんかも出てるんだろ?」

 「はい、今度またニューシングルが出るんです」

 「へぇータイトルは?」

 「【アナタの思う通りに私を愛して】です」

 「ちょっと怖そうなタイトル」

と沙耶が眉をひそめた。

 「確かに歌詞もちょっと怖くて、どんなことされてもそれでも良いよっていう女の子の心情を表したらしいです」

 「織花ちゃんはグループの中でも人気が高いんですよ!20人くらいいるのに」

 何故か良夫が誇らしげに言った。

 「そんなにいたんじゃ覚えらんないや」

 荒木は諦め肩を落とした。

 「佐藤さんはなんでも知ってそうだね」

と言われると、突然目の奥が怪しく光り、

 「当然ですよ!グッズも全部持ってる」

と胸を張って言う。

 七瀬はあまりアイドルに詳しくはないが、グールプの上位者ともなればバラエティやドラマなんかにも出ていたと思う。

 「あのー…私も一応アイドルなんですけど。元だけど」

 と彩賀がジト目になって言った。そう言えば自己紹介の時に言っていた。

 「そ、そうでしたね!いや、流石に可愛いだけあります!」

 七瀬が不器用に取り繕う。

「……誤魔化しが下手くそですね。まぁいいです、グループ自体は社長の不祥事で解散しましたし」

 「そうだったのか」

と順也が言う。ニュースにでもなっていたのか、心当たりがありそうだった。

 「でも今別の事務所で頑張ってますから」

 「そう、成功するとイイネ!」

と美里が励ました。

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