第3話 1日目 昼 ゲームスタート
――午後12時半――
少し遅く目が覚めた七瀬はあくびをしながら応接室へ向かった。部屋にはすでに全員が集まっており朝食どころか昼食さえも終わっていた。
「ずいぶん寝ぼけなんですね」
と沙耶が近づいてきた。甘い香りが鼻をくすぐる。
「寝ぐせ、ついてるよ。子供みたいでカワイイ」
七瀬はクスクス笑われてしまった。
「もうみんなごはん食べてしまったんですね。コレ持ってきて良かった」
と昨日食べるつもりだったカップラーメンを取り出した。七瀬の得意料理(?)、必殺カップラーメン。
調理場に向かおうとすると、織花が手を後ろにやったまま小走りにやって来た。
「あの、まだ残ってますから。コレ食べてください」
そう言って後ろにあった手をサッと差し出した。差し出されたのはサンドイッチ。タマゴにツナマヨ、メンチカツまである。それぞれにチーズもはさんであり、とても美味しそう。
4個づつ残っていたサンドイッチに加え、サイドメニューには七瀬の大好物の唐揚げもあり、一気に七瀬の目が輝いた。
「い、良いの!?」
「はい、残り物ですけど捨てるのもったいないですから」
と言いながらテーブルに広げてくれた。
「おいしそー!!いただきまーす!」
パクっモグモグ。
その味はとても美味しかった。タマゴが口の中にとろける。ツナマヨが身体中に広がる。メンチカツが身にしみる。チーズとのハーモニーがとても素晴らしい。唐揚げなんか涙ものだった。
七瀬が勢いよく食べていると、美里が横に来てこう言った。
「それ、残ってたんじゃなくて、残しておいてくれたのよ、織花ちゃんと唯ちゃんが。どっちが渡すか取り合いだったんだから。荒木くんなんか食い意地はっちゃって、全部食べようとしてたのよ?2人が阻止してなかったらなくなっちゃってたんだから」
(そうか、危うく食い逃す所だったのか。荒木のやつめー)
「もうっ美里さん変なこと言わないでくださいっ」
「取り合いなんてしてませんっ」
ズバリ暴露された2人は必死に猛抗議をした。美里は「はいはい、こじらせ女子だわねー2人とも」と言いながらその場を離れていった。
そんな様子をほっぺたをリスのように口一杯にもぐもぐさせながら七瀬は見ていた。その後ろでは良夫が恨めしそうにこちらを見ていた。
「ここは良いな。こんな高級なワインがなん十本とあるとは」
平一がボトルを眺めながらグラスを傾けている。
(昼間っから酒か、社長ともなると違うな。一体何の会社をすればそうなれるのか)
その平一のそばでは荒木浩司と村田順也も一緒にお酒を飲んでいる。荒木は少し酔っているのか、顔も赤く声もでかい。
「おや、そろそろ午後2時だね」
時計をみるとあと五分ほどで午後2時。その場にいた全員がソファに座った。
そして時間がやってきて例のTVがついた。
――みなさん、お集まりですね。これより、ゲームを開始いたします――
――ゲーム開始――
七瀬達は静かにスタートを向かえた。十秒ほどは誰も話し出さなかった。そんな中まず話し始めたのは唯だった。
唯(アパレル)「あの、この中に人狼ゲームをしたことある人はいますか?」
それに対し答えたのは美里。
美里(管理職)「私、何度かしたこたありますよ」
唯「じゃあ、まずどこから話していけばいんですかね?」
美里「最初は何も情報が無いから、ほぼカンからのスタートになるんですけど、一番良いのは白確、つまり完全に市民側だと証明していくことが先決かな?」
唯「そうですかぁ…」
唯はイマイチピンときていなかった。
美里「黒確、これは人狼だと証明されることね。これが解ると流れもぐっと変わるかも」
順也(ブライダル)「ふむふむ、しかしどうやって?」
美里「そこで!重要になるのが役職です。」
美里は右手の人差し指を立ててピッとやった。
美里「占い師なんかは夜に誰か1人占うと、人狼かどうか解るから」
荒木(フリーター)「じゃあそうしようよ!誰が占い師?」
荒木が前のめりになり住人を見渡す。
美里「だっダメダメっここで占い師がCO、カミングアウトしたら真っ先に人狼に狙われちゃうっ」
美里は慌てて荒木を止める。そしてそのまま続けていった。
美里「人狼を見つけたあとか、最低でも2回は占った後でならそれもありだと思うけど、まぁ騎士もいるにはいるんだけど、いまはまだ人狼側に極力情報を渡したくないの」
七瀬「なるほど、人狼は正体を暴かれたくないからすぐに占い師を狙うわけですね」
荒木「じゃあどーするんだよー話進まないよー」
(もっともだ。このままでは何も進まない)
美里「そうやって探しだそうとするのは荒木君が人狼だからかな?」
(おっと、いきなりぶっこんできたな。動揺を誘う作戦なのか?)
荒木「おっ俺は市民だよっ何の取り柄もないいっぱんしみん!」
(こらこら荒木さん。発言がひらがなになってるぞ)
そしてそこにさらにぶっこんできた人物が。
彩賀(元アイドル)「ほんとかな?なんか動揺してない?」
荒木「ほんとにそうなの!」
彩賀「ふーん…」
(振り出しに戻ったかな?次はどうなる?)
栄作(会社員)「他の役職はどうですか?言いたい人なんかいれば言ってください」
全員が黙ってしまう。話が進む気配はまるでなかった。まぁ初日なんてこんなものなのだ。
順也「一体どうすれば良いんですかねー」
美里「さっき言ったように、白確を出すことが先決です。それには役職を言ってもらうのも1つの手ではあるんですけど」
順也「悪循環ですね」
美里「そうなんです。だから時にはリスクをおかすことも必要なんです。例えば人狼が『自分が占い師です』なんて発言することもありますし」
平一(社長)「つまり、本当の事を言っていると鵜呑みには出来ない訳か」
美里「そう言うことです」
良夫(オタク)「織花ちゃんは市民だよね?」
と、唐突に良夫が言った。
織花(アイドル)「え!?あ、はい市民です」
いきなり話を振られた織花はびくっとしながら言った。
栄作「それって、市民側だって解ってるってこと?」
(もしそうなら良夫は占い師ってことなのか?いや、まだ占っていないのだからまだ分からないはずだ)
良夫「織花ちゃんはボクが守るからね」
(ボクが守る?騎士なのか?いやそう見せかけているだけなのかもしれない)
美里「そうやって混乱させるってことは狂人かもね」
唯「狂人は何する人なの?」
美里「狂人は人狼に味方する市民なの。つまり、裏切り者。狂人は人狼を勝たせるために有利になるように、こうやって市民を混乱させるのが役割なの」
平一「とすると、この小僧は狂人か」
順也「でも、それが本当のことなのかは分からないですよ?」
荒木は「もう訳わかんねー!」と頭を抱えていた。
唯「まだ発言していない人は何かあります?」
彩賀「わっ私は市民側だよっ」
沙耶(キャバ嬢)「あたしもー」
2人がつなげるように慌てて言った。
(俺もなんか言っとかないと)
七瀬は発言しないとまずいかなと思い、とりあえず何か言うことにしたのだが何も思い浮かばず結局、
七瀬「俺も市民側です」
と言うのだけで精一杯だった。
唯「七瀬さん、男は優しい顔しててもみんな狼なんだよ?」
(一体何の話しをしているんだこの子は)
と思っていると、
沙耶「こわいこわい。織花ちゃん気をつけよーねぇ」
とちゃちゃを入れつつ織花にも変な話を振った。
織花「そうですね!こういう人ほど何されるかー!」
と言いながら、両手で身体を抱きしめるようなしぐさをした。
七瀬「ちょっ今はそんな話をしてるんじゃ…」
……ぷっ
誰かが吹いた。
……くくくくっ
別の誰かも必死に笑いをこらえている。
……ぷー!あはははははははははっ!!
ついに全員は全力で笑いだした。
(…たくぅ、ほんとに狼になってやろうか!怖いんだぞぉ)
美里「ふふふっあー面白かった!お腹痛い!……ふぅ。さって、でも少し重要なワードがでましたね」
美里が涙を右手でぬぐいながら話し出した。しかし他の人たちには何が何だか分からなかった。「では説明しましょう」と美里は続ける。
美里「さっき彩賀ちゃんと七瀬くんは『市民側』というような言い方をしました。という事は、すなわち市民チームのそれも役職持ちの可能性があるという事だと思うの」
「おー!」とみんなが頷く。それから「ただし」と付け加え、
美里「そう思わせようとして、わざと言った可能性もあるけど」
美里は【わざと】の部分をあえて大きく強調して言った。
平一「言い出したらキリがないな」
美里「初日はそんなもんですから。とりあえず、ここまでの話をまとめてみましょう。
まず限りなく市民っぽいのは【七瀬くん】、【彩賀ちゃん】、そして【佐藤さん】。私の印象ではこんな感じかな?どう?」
順也「そうですね、僕も同意見です」
荒木「おれだって市民だよっ」
舞(フリーター)「でもそれはみんなそう言うよ」
荒木「そう言えば大塚さんも発言してないけど?」
舞「何言えば良いかわかんないんだもん」
荒木「ほんとにぃ?」
舞「そうやって人を人狼に仕立てようとするのはあなたが人狼だからじゃないの?」
荒木「違う俺じゃないっ」
美里「まぁまぁ2人とも落ち着いて?」
七瀬「まだまだ時間がありますね」
順也「夜の行動の事でも決めておきませんか?」
美里「そうですね。この役職の人はこうしておいた方が良いとか決めていた方が、後からやりやすいかも」
彩賀「占い師にはここまでで怪しい人を占ってもらおうよ」
平一「それが良い。ワシはそこの小僧が気になるな」
そう言って平一は指したのは良夫だった。
確かにこの時点でよく分からない動きをしているのは良夫のみだ。
良夫「どっどうしてボクなんですかっ!」
平一「混乱させてくるのが狂人とやらとは限らんからな。人狼の可能性もあると思った、それだけだ」
舞「私は荒木くんが怪しいと思うけど」
舞はジト目で荒木を睨む。
荒木「いっぱんしみんだっつーの!」
と精一杯の抵抗を見せる。
美里「他には…そうね、織花ちゃんなんか全く発言してないし、気になるところね」
織花「えっわっ私は市民だっつーなんです」
突然名前が上がり、変な日本語になりながら手をばたばたとしている。
良夫「織花ちゃんは市民です!」
何故か良夫が強く反発を見せた。
順也「この2人は【恋人】なのかもね。もしくは【人狼】。どっちかであれば互いの名前が分かるわけだから佐藤くんの行動にも納得出来るね」
七瀬には少なくとも2人が【恋人】同士でない事だけは分かっていた。【恋人】のうちの1人は七瀬なのだから。だがだからといって【人狼】であるかと言ったらそんな気も今はしなかった。
美里「2人は恋人なの?」
良夫「そんな…恋人なんて、ねぇ?」
と良夫は何故か照れていた。
良夫「今は、何も言いません」
良夫は織花をチラっと見たあとそう告げた。
彩賀「話戻そうよー。誰を占うかなんだけど、私を占っても良いよそしたら市民だって分かってもらえるし」
美里「それも有りなんだけど、出来れば怪しいと思う人物を占って欲しいかなー」
沙耶「怪しい人かー。みんな怪しく見えるー。誰を占おう?」
栄作「占い師さんのセンスに任せますか?」
美里「そうしようか。今の時点で誰が怪しいかなんてわかんないもの」
順也「じゃあ占う相手は占い師さんに任せるということで、占い師さんお願いします」
荒木「騎士はどうするの?」
順也「そこも騎士さんに任せましょう。今の段階では何も分かっていない訳だし」
彩賀「恋人くらい名乗り出ても良いんじゃない?」
唯「んーどうなんだろう?人狼達も言い出したら変な事にならないかな?」
彩賀「それはそれで、その4人を順番に処刑していけばそれでOKじゃない?」
栄作「でも狂人なんかも恋人って言い出したらもっとややこしくなりそうじゃないかな?」
舞「まだ出ない方が良さそうだね」
栄作「じゃあさ、もうちょっとで時間だし投票する人の事なんだけど、最初に投票する人を僕にするってのはどうかな?」
全員が栄作に視線を向けた。
栄作「夜のターンが終わって明日になれば何か動きがあるかもしれないし」
美里「でも鈴木さん、それで良いんですか?次からゲームに参加出来ないんですよ?」
このゲームでは、処刑されたり人狼から襲撃さるとそれ以降ゲームには参加出来なくなってしまう。まぁ物語としては死んでいる訳だから当然と言えば当然だ。
栄作「良いよ、最後に市民チームが勝ってくれればいんだから。だから俺の犠牲を役立ててくれよ。横でワインでも飲みながら見てるから」
と笑いながら言った。
美里「時間も無くなってきたし、皆はそれでもいい?」
全員は他にいい案がある訳でもなかったので、栄作の案の通りに初日は投票することになった。
――午後5時半――
せーの、で全員が栄作に指を指し、投票は終了した。するとまたテレビがつき、あの人物が現れた。
――全ての投票が終了いたしました。投票の結果、【鈴木栄作】さんが処刑されることになりました。皆さんは速やかに自室に戻り、午後6時半まで部屋から決して出ないで下さい――
そしてテレビが消えた。それを合図にそれぞれがバラけて部屋に向かう。応接室から出た所で七瀬は背中をポンッと叩かれた。
振り返るとそこには唯がいた。「じゃあまた後でね」とウインクしてすり抜け、1階の通路の奥に消えていった。
唯を見届け、七瀬も部屋に戻ろうと階段を登る。
2階には男性陣の部屋がある。つまり、【七瀬】【荒木】【佐藤】【村田】【本田】【鈴木】だ。
部屋に入るとベットにごろんと転がった。
(少し話の整理でもしようかな。まず市民ぽいのは【村田さん】かな。あの人は市民の様な気がする。別に何か根拠がある訳でもないけど。【荒木さん】はどうだろう。パッと見職業を探ってそうな感じはあったけど、人狼だとしたらあんなあからさまに探りをいれてくるかな?何も考え無しってほうがしっくりくる)
仰向けな状態から右に左にごろごろ繰り返す。
(狂人だったら?有り得るかもしれない。だが狂人と言えば【佐藤良夫】。騎士かのような、とり方によっては占い師かのような発言が気になる。ただそれすらも罠の可能性があるから完全に白とは言い切れない。そういう意味では荒木さんは……アホだなきっと。本田さんは?結構決めつけが過ぎる傾向があるけど、年配の人ってそんな人が多いイメージがあるし、ほんとにそんな人もいるからな。そう言えば本田さん自身は自分のこと何も話してないな。それは俺も同じか。)
また仰向けになり、そしてうつ伏せになった。
(緑川さんは?ただ聞いてるって感じだったな。そうそう、緑川さんと言えばあの発言。)
――優しい顔して狼なんだよ?――
(俺ってそんな風に見えるのかな?誠実の塊みたいなのに。いや、そんなこと言ってる場合じゃないな。ま、今考えても何も判断出来ないか)
そうこうしているうちにいつの間にか七瀬は眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます