第2話 序日目 自由時間

 自由時間になり持ってきた荷物を部屋におこうかと応接室を出た、時間は既に22時を過ぎていた。部屋の番号も手紙に書いてあり、204号室。マンションと同じだった。


 階段を上がろうとすると後ろから呼び止められた。

 (今日はよく後ろから声をかけられるな)

と振り返ると、あのアイドルがそこに立っていた。

 「えっと…向井さん、でしたっけ?」

 「はいっさっきはありがとうのざいましたっ」

と、ぴょこっと頭を下げる。

 「さっき?」

 「はい。ジュースの…」

思い出して恥ずかしくなる。セリフは棒読み、顔はひきっている。スマートさのかけらもない。

 「あぁ俺はただノド乾いただけっスから」

不器用な七瀬はこういう助け方しか思いつかなかった。

 「はい!ありがとうのざいました!」

  またぴょこっと頭を下げ、女の子は戻っていった。

 「誰かにありがとうなんて言われたのいつぶりかなぁ…」

 彼女に言われたのもずいぶん前だった。今じゃ「余計なことしないで」と言われる。


 はぁ、とため息つきながら部屋のドアを開ける。ここもかなり豪華だった。七瀬の部屋の10倍はあるしベッドも巨大。中央にある装飾の施されたテーブルにはパソコンが置いてあった。

 荷物をすみに置き、スマホを取り出す。圏外。山の中では当然とも言えた。

 パソコンを立ち上げてみる。デスクトップにはさまざまなフォルダがあった。


 【役職について】【ルールについて】。その中から【あなたの役職】をクリック。出てきた画面には2人の人物のシルエット。

 ――あなたの役職は【恋人】です。もう一人の恋人は……――


 ひととおり読み終えると、いよいよ始まるのだとドキドキしてきた。



 ――午後11時――

 部屋でまったり過ごしていたが少しお腹が減ってきた。食事の心配はないと書いてはあったが、一応カップ麺類を持ってきていた。備えあれば、だ。

 荷物の中から1つを取り出す。

 (うん、これが良い。やっぱラーメンと言えばトンコツだ。しょうゆや味噌も嫌いじゃないがトンコツには勝てない。

 トンコツラーメンを片手に応接室を通り調理場へ向かう。応接室にはまだ何人かが残っていた。

 「どうしたの?」

緑川唯が話しかけてきた。

 「あ、腹へったんでちょっと作ろうかと思って」

と七瀬が話すと唯が近づいてきて、

 「料理できるの?」

と聞かれた。七瀬は自信たっぷりに手に持ったカップ麺を見せる。

 「……それ、カップラーメンじゃん!!」

  (ん、やっぱそう見えるか)

 七瀬は料理はほとんどしたことがなかった。たまにチャーハンぽいものを作ってはみたが、とても人様に出してあげれるものではなかった。

 「そんなの料理のうちに入りません。ちょっと待ってて、なんか作ったげる」

 そう言うとそそくさと調理場に入っていった。


 しばらく待っているとある料理を持って戻ってきた。

 「ささっと簡単に作ったけどこれで良いよね?どーぞ!」

 と出てきたのはオムライス。

 「いただきまーす」

 と一言添えて一口。向かいに座った唯は頬杖ついてじっとみている。感想が欲しいのか。

 「うん、美味しい!すごく美味しいですよ!」

 それを聞いたとたん、ニッと笑顔になった。

 「うん、良い奥さんになれますね!」

等と食べては言い、言っては食べた。

 「もしかして、カップラーメンばかり食べてた?」

 「ちゃんと焼きそばも食べてた」

 「そーゆーことじゃなくて」

とクスっと笑った。

 「そんなんじゃ身体壊しちゃうよ。彼女さんはつくってくれないワケ?」

と真剣に心配してくれた。

 「彼女とはしばらく会ってなくて。ケンカしちゃったから」

 「ふぅん、そうなんだ」

 何故か嬉しそうにニヤリとされた。

 そのあとも七瀬が食事をしている間、ずっと付き合ってくれていた。時折他愛もない話を腹を抱えて笑ってくれた。こんなに楽しい食事をしたのはひさしぶりだった。

 「ごちそうさま、ありがとう」

 「いえいえどーいたしまして」

 唯は立ち上がり、食器も持っていってくれた。その後ろ姿はポニーテールが右へ左へと揺れていた。

  (さて、飯も食ったことだし部屋に戻ろう)

 部屋に戻った七瀬はそのままベッドにダイブ。結構な長旅だったせいか、急激な眠気が七瀬を襲ってきた。七瀬はそのまま身を委ね、すぐに落ちた。





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