第1話 序日目 集合

 夜9時、七瀬は指定されていた洋館の前に着いていた。電車とバスを乗り継ぎ、バス停から歩いて1時間、深い山の中にそれはあった。山の中にはとても似つかわしくないそれは西洋風の洋館で、玄関の両脇にはドラゴンの像が今にも来客者目掛けて飛んできそうに鎮座していた。

 その館はとても古いようで、いつの時代に建てられたのか解らないが、所々ツタのようなものが巻きついている。窓の隅には蜘蛛の巣まで張っていた。

 「あなたも参加者ですか?」

 不意に後ろから声をかけられた。振り向くとそこには20代前半くらいのほっそりとした体格だが元気のありそうな、グレーのパーカーを着た男がいた。短い髪が清潔感を感じさせる。

 「はい、今着いたばかりで」

おずおずと答えていると、「早く入ろう」と言われ奥に誘われる。


 中に入るとロビーはかなり広かった。

 (ここだけで俺の部屋いくつ分だろう?軽く百は入るんじゃないか?)

 天井には高そうなシャンデリアがギラギラ輝き、正面には通路が続いているようだった。左手方には2階、3階への螺旋階段が伸びている。

 (ゲームなんかでもこういう所ではなんか事件が起きるよなぁ)

 なんて思っていると、さっきの青年は右手の方に歩いて行った。七瀬も青年の後を追い、扉の中に入る。そこは応接室のようで、既に何人かが思い思いの場所で寛いでいた。


 「また来ましたね、これで全員のようだ」

 七瀬を含め12人。どうやらこの人数でゲームをするらしい。

 ここ、応接室もかなり広く、11人がいてもかなり持て余していた。七瀬の部屋で言うと、40は入るだろう。奥には調理場もあるようで、食材も用意してあると書いてあった。これだけの豪華な洋館だ、食べ物もたくさんあるだろう。


 そうこうしていると突然、真ん中にある長いテーブルの先にある大画面のテレビがついた。そこに写っているのは白い仮面をつけたピエロ姿の人物。一同はそれぞれテレビが見える場所に集まった。



 ――みなさん、お集まりのようですね。全員の参加ありがとうございます。これより、ゲームの内容をご説明させていただきます――


  一同は無言で画面を見つめていた。


 ――まず、皆さん全員のことを、【住人】と呼びます。その住人の中に市民になりすました人狼が潜んでいます。市民チームの皆さんはその人狼を探し出し、全滅させれば市民チームの勝ち。人狼チームは市民チームと人狼チームの人数が同数、もしくはそれ以下にすれば勝ちとなります。

 ゲームには昼のターンと夜のターンがあり、昼は住人全員で誰が人狼なのか話し合いをし、処刑する人間を1人それぞれ投票します。そして票が1番集まった人物は処刑され、今後ゲームには参加出来ません。

 投票数集まった場合は決戦投票をし、処刑者を決めます――


 聞いている間、誰一人動くことなく耳をかたむけていた。


 ――夜のターンには人狼は本性を現し、住人を1人喰い殺す人を選びます。さらに役職持ちの人はその能力を使い、話し合いなどを有利に進めることも出来るでしょう。この昼と夜を繰り返し、決着が着くまで続けます。続いてその役職についてですが……


 画面が変わり役職名や能力が書かれた一覧が映し出される。


 ――市民チーム――

 市民  4名     能力なし


 騎士  1名     人狼の襲撃から1名を守る(自身は守れない)


 占い師 1名     住人の中から1名を人狼かどうか知ることが出来る(その人の役職は判明しない)


 イタコ 1名     昼に処刑された人間の役職を知り、その役職になる(発動は1度きり)


 恋人 2名      恋人同士の名前がわかる


 ――人狼チーム――


 人狼 2名     夜に1名襲撃する。人狼同士は名前が分かる


 狂人 1名     能力なし



 ――話し合いは午後2時から午後5時半まで、ここの応接室で行って頂きます。午後5時半から処刑したい人を投票で決めてください。

 その後、速やかに自分の部屋に戻ってください。午後6時半まで部屋から出ることはできません。その後夜のターンが始まるまでは自由時間となりますが、自由時間での話し合いやゲームに関する駆け引きなどは一切認めません。

 そして午前1時より夜のターンを開始しますので、その時間までには部屋に戻ってください。

 夜のターンが始まると役職持ちの方は部屋にあるパソコンを使い、能力を使用することが出来ます。やり方はパソコンで見ることができますし、自分の役職やルールの確認などもできます。

 たたし、他人のパソコンを見て不正を働いたり、ゲーム時間外での話し合いやそれに準ずる行為は一切禁止とし、ルール違反をした場合、ペナルティを与えます。また、ゲームを妨害したり、ゲームをしなかった場合も同等のペナルティが課せられます。

 以上で説明は終了となります。ゲーム開始は明日の午後2時からスタートします。

 では健闘をお祈り致します――



 そこで画面は黒くなり、電源は切れてしまった。

 「簡単なゲームだな、これに勝つだけで賞金が手に入るのか」

 年配の男が言い放つ。

 「なんかめっちゃ楽しそうじゃない?」

とセクシーな格好をした女性が言う。それと同時にみながそれぞれ散らばっていく。


 七瀬もテレビから離れていこうとすると、2人の男女が話しているのが目に入った。いや、話しているというよりは、男の方が一方的に話していると言ったほうがよさそうだった。その証拠に、女性の方はジリジリ後ずさりしていた。

 「あの…もしかして織花ちゃん?アイドルグループの。そうでしょ?」

 「え、あの…そうですけど」

 「やっぱり!!ボクファンなんですよ!!握手して貰えませんか!?お願いします!」

男はそう言って手を差し出す。少し小太りで脂ぎっているなが遠目でも分かった。

 女性の方は小柄で、清楚と言う言葉が相応しい。

 「ごめんなさい、今はプライベートなので」

 「そんな事言わないでさっお願いだよ!」

 男はグイグイ迫っていく。周りの女子は明らかにドン引きしていた。

 当の女の子は笑顔で対応していたが、その笑顔は明らかに引きつっており、完全に嫌がっていた。

 アイドルに限らず、タレントに属する人であれば握手に応じてもおかしくないし、応じた方が普通はイメージが良い。それが給料に直結するならなおさらの事だ。にも関わらず、この女の子が握手を断ったのは、身の危険を感じたからなのかもしれない。それくらい、その男はある意味怖かった。

 (まぁここには沢山人がいるから、何かできる訳でもないが、この状況を黙って見ておくほど俺は薄情な人間でもない)

 七瀬はズカズカと2人に近づき、大きな声でセリフを吐く。

 「あー喉乾いたなー。あ、あっちにジュースあるみたいスよ?君も喉かわいてるんじゃない??」

 セリフが棒読みになった。その場はシーンと静まり返り皆が七瀬をポカーンとした表情で見ている。

 (か……帰りたい……)

 そんな沈黙を破ったのは当の女の子の方で、

 「は、はいっ喉がカラカラでー」

 どうやらやった意図を察してくれたようだ。女の子は笑顔でセリフに答えてくれた。

 (か…可愛い…)

 今までアイドルなんて気にしたことなかったけど、こんなに可愛い笑顔を見せてくれるならそりゃ、ファンも嬉しいだろう。

 (俺の彼女も最初は笑顔だったんだがなぁ……)


 そんなこと考えているうちに女の子はタッタッと子猫のように行ってしまった。アイドルに話しかけていた男もいつの間にかどこかへ行ってしまい、気まずい感じがした。どうしようかと考えていると、

 「ふーんやりますね。困っている女の子を助けるなーんて」

 後ろを振り向くと巻き髪をしたセクシーな女の子がそこにいた。妙に色っぽく、甘い香りが七瀬を包んだ。

 「今どきそんな人いないよ?」

と顔を近づける。

 (ち、近い…これがキャバクラでよくある必殺テクか!!1度も行ったことないけど、こりゃ男がままいる訳だ)

 「別にそんなんじゃないスよ。ただ喉乾いたなーと思っただけで」

 七瀬は照れくさくなりそそくさと女性から離れた。



 それからホントにノドが乾いてしまったので、ジュースでも飲もうかと奥の調理場へ行く。冷蔵庫からカルピスを見つけガラスに注いだ。さっきのアイドルは見当たらない。出入口が数箇所あるので行き違ったのだろう。

 そのままカルピス片手に応接室に戻ると、全員が集まっていた。七瀬が来るのを見計らってか、1人が喋り始めた。


 「じゃあちょっと良いですか?全員集まったので自己紹介しましょう。名前分からないと不便だし」

 ということで全員がソファに座り、自己紹介することになった。

 「じゃあまず俺から」

と、言い出しっぺの男が口を開いた。

 「村田順也と言います。32歳、ブライダル関係の仕事をしています。よろしく」

 村田と言う男はTシャツにベストを着て、細身のスラックスをはいていた。頭の良さそうな人だ。

 「次は俺、荒木浩司21歳フリーターです」

入口であったパーカーの男だった。思った通りの若者だった。

 「次はあたし、相沢沙耶22歳。キャバ嬢やってるよ!」

 (やっぱりキャバ嬢だったのか)

デニムのショートパンツから覗く生脚がとてもえっちに感じられた。

 「次は私ね。田中彩賀。元アイドルです、仲良くしてね?」

ふわっとしたシフォンのトップスにデニムのミニスカートの女がキャピ☆として言った。

 「本田平一だ。社長をしている」

60過ぎくらいの男は腕に高そうな時計をしていた。

 「鈴木栄作です、会社員です」

40半ばくらいだろうか。スーツがヨレヨレで少し頼りなさそう。

 「緑川唯です。アパレルやっています」

クマのキャラクターがプリントされた細身のTシャツにデニムのショートパンツの女の子がポニーテールをピョコピョコさせて笑顔で言った。20歳くらいでこの子もなかなか可愛い。

 「大塚舞です、フリーターです」

少しひかえめに言う女の子は、黒の半袖のパーカーにデニムパンツのラフな格好。さっきの女の子とは対照的だ。可愛い。

 「佐藤良夫、37歳です」

 さっきの小太りの男。メガネの奥からアイドルの子をチラチラと見ている。

 「石橋美里。管理職をしています。ヨロシクね」

 Tシャツに赤のロングスカートの女。可愛い。

 「向井織花です。アイドルです」

 ふわっとした白の、オフショルのトップスにデニムのパンツ。うん、可愛い。

 「七瀬魅夜です。ヨロシクです」

 全ての自己紹介が終わり、どうするか話した結果、また自由時間となった。

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