人狼ゲーム~パーフェクトアクターズ~

みや

プロローグ

 「この前の人狼ゲーム楽しかったぁ」

  そんな声がどこからか聞こえてきた。声の主の方に思わず視線が動く。

  「私、人狼ゲームで知り合った人と今度デートする事になっちゃった!めっちゃ楽しみ!」

 電車の吊革を握って立っている七瀬の右前に声の主は座っていた。学校帰りらしい女子高生2人組はスマホを手に持ち、キャッキャと騒いでいた。2人とも今どきの女子高生らしく髪が緩く波打ち、薄く化粧している。



  ──人狼ゲーム──

 七瀬も友人たちと何度かやった事がある。集まった人達を住人と呼び、その中から市民チームと人狼チームに分かれ、市民チームは昼のターン住人に紛れた人狼を探し出し処刑していき全滅させる。

 人狼チームは市民になりすまし、夜のターンには市民を1人づつ喰い殺していく。これを交互に繰り返し勝利条件を満たしたチームの勝ちというトークゲーム。

  市民チームにはさまざまな能力を持つ【役職】があり、チームが有利になるように働けるかがこのゲームのミソでもある。



 「なんですか?」

 七瀬に気がついた女子高生の1人が怪訝な顔で上目遣いに睨みつけてくる。「いや何も…」と内心焦りながらもクールを装い視線を外した。女子高生達はヒソヒソと話をしていたが、「…でもちょっとイケメン…」というセリフが聞こえてきたので、少し嬉しくなってしまった。



  ほどなくして駅に着いた。電車を降りゆっくりと改札に向かう。電子マネーで支払い久留米駅と高々に書かれている看板の下の階段を降りていく。

 この駅から歩いて15分に住んでいるマンションがある。途中コンビニで晩御飯となる弁当と唐揚げを2個、そして切らしていた牛乳を買う。それが七瀬の日課だった。

  本来であればたまに来てくれる彼女が食事を作ってくれることもあるのだが、数日前ケンカをしてしまいその望みは薄かった。毎日弁当を買うのは痛い出費だが、料理が出来ないので仕方がない。

 食べたい弁当を手に取り牛乳片手にレジへ向かう。

  「いらっしゃいませ、弁当は温めますか?」

  「お願いします」

 いつもの店員が元気に挨拶をしてくれた。何気ないことだが、こういう所で元気をもらっている。支払いを済ませると、「いつもありがとうございます」と元気に送り出してくれた。



 七瀬はコンビニの裏手にあるせまい道を進み、住んでいるマンションにたどり着く。新しくもなく古くもない何処にでもありそうなワンルーム。ロビーとはとても呼べない広間で郵便物を取りそのままエレベーターのボタンを押す。エレベーターに乗ると壁に寄りかかるようにして立った。

 目的の階に着くと204号室の鍵を開ける。郵便物を適当にテーブルに置き着替えを始めた。

 弁当をもう一度温めようとレンジに投げ込み、その間に郵便物を手に取る。そこでひとつの封筒に目を留めた。

表も裏も真っ白なその封筒には宛名も差出人も書かれていない。

 不思議に思ったがとりあえず封を開けてみる。その中には【招待状】と書かれた紙が入っていた。



 ――この度の当選、誠におめでとうございます。あなたは【人狼ゲーム】に参加出来る権利を得ることが出来ました。参加される場合以下の日程で行いますので時間厳守でお願い致します。尚、勝利したチームの方には賞金をご用意していますので、是非ともご参加ください――


  (なんだこれ?当選?何も応募した覚えはないんだけど。何かのイタズラ?でもちゃんと日時も指定されているし、宛名も何も無いという事はわざわざここまで持ってきたということだよな)

 それからしばらく考えていたが何も心当たりはなかった。

 (でもなんか面白そうだな、しかも勝てば賞金も貰えるんだ。それはちょっと魅力的だな)

 そんな軽い気持ちで七瀬は参加を決めた時、部屋に電話が鳴り響いた。



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