第5話 思いを告げる  その1

「成美あなたそこまでして亜里沙の事を思っていたの?」


ええッと、どこから話をすればいいんだお前には……。


「わかってるって。どうしても我慢できなかったんでしょ。あなたの頭脳があればロイドを自作するくらい容易いことよね。ふぅ―、やっぱり亜里沙かぁ。ようやく私に心開いてくれたのかなぁって思ったんだけど。少し残念だなぁ」


なんだ良美の奴、勝手に俺が自作したロイドだと思い込んでいるぞ。


それならそれでいい。いやその方がかえって好都合だ。


「そ、そうなんだ。亜里沙恋しさに作ってしまったんだ」


「成美あなた病ってる。で、私にこのロイドを見せるために今日誘った訳じゃないんでしょ。正直に話してごらん」


「実は、此奴に着せる服がないんだ。それでお前にこのロイドに合いそうな服を選んでもらいたかったんだ」


「はぁ、そういう事だったのね。それならそうと早く言えばよかったのに!」


「す、すまん……」


一応は低姿勢。ここで良美をすねらせたら後がない。


「わかったわ。協力してあげる。でも私にもちゃんとご褒美くれなきゃヤダ」


「分かったよ。お前にも好きな服買ってやるよ」


「ん―服かぁ。まぁご褒美の品は後で考えておくよ」


そう言いながら彼女は亜里沙の体をじっくりと見始めた。


「んー、でもほんとよく出来てるよね。うちのロイドとは格が違うと言うのかな、こりゃ高級ロイドだね」


亜里沙の胸をプルンとはじいた。


「わぁ、ほんと柔らかい。私の胸より形いいし、亜里沙こんなに胸大きくなってたかなぁ。この部分は成美の趣味と妄想が作り上げた部分だね」


そして下半身をじっくりと見つめると


「あれぁ、ちょっと成美、このロイドから血が出ているよ」


え、血? まさか……ロイドから血が出ているなんて。


亜里沙が自分で縄を巻き付けた部分がこすれ、その部分から血が少し出ていた。


通常ロイドから血が出ることはない。外皮はたんぱく結合人工皮膚で覆われている。多少の擦り傷は補修剤で綺麗に跡形もなく修正できる。ましてロイドは人間の様に血液は流れていない。体温を感じさせられるように循環液は確かに全身に流れてはいるが、色は無色透明のはずだ。


それなのに、このロイドは赤い液体が流れている。


赤い色をした循環液を使用しているためなのか?


いや違う、すでに擦れて出血? だろうとしている部分は、その体液が凝固し始めている。これは血が固まるのと同じような感じだ。



まるで人間そのもの。



「亜里沙、この部分痛みは感じるのか?」


「ああこれぇ、うん、さっきからチクチクするなぁって思ってたんだけど、こんなことになっていたんだ。でも大丈夫、この程度なら時期に自動修復されるから」


「自動修復? 補修材とかはいらないのか?」


「うん大丈夫みたいだよ。治るんだって、だからそんなに気にすることはないみたいだよ」


構造自体がまるで違う。まして痛みをも感じる感覚器官をもっているとは……。


もうすでにロイドの域を超えているのではないのか?


バイオロイド


まさか? 現在の工業医学ではまだ実現されていない。


それなのに、今目の前にいるロイドは多分バイオロイドとして蘇生された人体を持っている。


「この程度の傷治るんだったらいいじゃん。それよりさ、服買うんだったら体のサイズ図らないと」


「私のサイズの事?」


「そうだよ、まぁ見た目いいからだしてるよね。まぁ作り物だからどうにでもなるんでしょうけど」


ちょっと嫌味気味に言う良美。


「あのね、私のサイズはね。身長が155㎝、体重55㎏、バストが86㎝、ウエスト60㎝、ヒップ84cm、だよ」


「よっしゃー! バストは勝った。ふふぅん、私バスト92なんだぁ」


得意げに言う良美。


この際俺はそんなのどうでもいいんだが。


「どうしようかなぁ、ネットで買うかそれともお店に直接言って合わせて買うかだよね。でもさぁ、まずは何にもないんだったら外にも出れないんじゃない、とりあえずネットで注文がいいかもしれない。あとはおしゃれさせたいなら、専門店に行って好みとかもろもろ合わせてみるのもいいんじゃない」


確かに、冷静に考えれば、サイズは此奴の中にインプットされている。それに合わせてネットで注文すれば何のことはない。


まったくほんと冷静さにかけていた。


「さぁてと、それじゃまずは適当にラフなものから行きますかぁ」


さすがは女子。この時ばかりは良美の事を本気で尊敬した。


「まっ、ざっとこんなもんじゃない。お急ぎ便だから3時間ほどで配送されてくると思うよ」


「あ、ありがとう」


「ああ、成美から礼のお言葉を頂きましたよ。ついでに『愛してるよ良美』なんていう言葉はつかないかなぁ」


「調子に乗るな!」


「はぁい、私の気持ちは知ってるくせに。これって私も他の女子同様フラれたってことなのかなぁ」


「……さぁな。俺は今まで俺に来た女子を俺から振った覚えはないんだけどな」


「はぁ、何言ってんのよ! この魔王何人の乙女の涙を流させたと思っているの」


「ただ興味ねぇと言っただけだ。それの何が悪い」


「ねぇねぇ、成美って女の子にもてるんだぁ」


「そうなのよ。このルックスにどことなく影のある面影。しかも校内切っての優秀男子ときたらほっとかない方が変よ」


「ふぅ―ん。そうなんだ……じゃぁ私なんか太刀打ちできないよね。それとさぁ、良美ちゃんとはなんか成美いい雰囲気なんだよね」


「あらそう! 亜里沙ありがとうあなたからそんなこと言われるなんてなんか嬉しいなぁ」


「でもね、成美は私のものだから渡さないよ」


「へっ! あのう亜里沙さん、言っていることが逆転しているような気がするんですけど」


「だって昨夜は裸で私成美のベッドで一緒に寝たんだもん」


「裸で……ベッド……イン! なぁ―るぅみぃ。本当なのか? お前はロイドとやったのか? ここにいやずっとまとわりついている生身の女がいるのにあえてロイドと……。ああああっ! 決めた!」


何か良美から『ブチッ』と音がしたように感じたが……。


「決めた! 私とことん成美に付きまとてってやる。成美がなんと言おうが私は成美から離れない。私もここで暮らすわ!」


「マジ! ちょっと待て良美。そんな勝手俺が許さん。ゼッ――――タイにゆるさねぇ」


「なら私今ここで死んでやる! 死んであんたを一生呪いながらまとわりついてやる」


「おいおいマジかよぉ」


「おおマジ!」


涙を浮かべてギッと俺を目をにらむ良美。その目は本気だ!


此奴言い出したら本当に訊かねぇ奴だ。


「はぁ~、もう勝手にしろよ。どうなったて俺は知らねぇぞ」


「いいのぉ? 本当に」


ぺたんと床に座り俯きながらボソッとした声で良美は言う。


「ああ、だからお前の気のすむようにしたらいいだろ」


「マジでいいのぉ?」

「だからいいって言ってんだろ」

「やったぁ―――!」


すくっと立ち上がりにっこりとした笑顔で俺に抱き着いた。


「お前、もしかして今のは演技だったのか?」


「え、なんの事? もう知らない。私もここに住んでいいっていう事しか私知らないもん」


や、やられた……。


「ちょっとぉ、良美ちゃん。成美は私のものぉ! そんなに抱き着かないで」



はぁ~、俺の生活はここから……どうなるんだよこれから!


物凄く不安だ!


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