第4話 変わる兆し 2

「おっはよう成美」


後ろから肩をポンとされた。


「ああ、良美かぁ」


「あら、どうした? 今日はやけに受け入れてくれているじゃない私の事」


「そうかぁ―」


「熱でもあるか?」


道端で、しかもほかの生徒がわんさか登校中の中、良美は俺のおでこに自分のおでこをくっつけた


額と額が触れ合う。


それよりも良美の顔が、目が……唇が。触れ合いそうになるほど近づいている。


「熱はないなぁ」

いや、これはかえって熱が上がりそうだ。


朝から亜里沙の裸を目の当たりに見て、今良美と顔が密着しそうになった。



……密着した!



人とは関わるのを避けている俺でも、一応健全なる18歳の男子だ。


これで何も反応しないとしたら俺は、男として、いや、人間として感情や欲望というものをすべて失ったただの抜け殻だ。


胸がドキドキと高鳴り、顔が熱くなるという事は、まだ抜け殻ではないという事だろう。


しかしどうしたらいいんだ。


いきなり押しかけて来た亜里沙。いやロイドだ。


外見は亜里沙そのものだ。見れば見るほど、俺が知る亜里沙が4年間成長した姿だ。


姿はいい? それよりもあの性格だ。


亜里沙はあんなに活発と言うか羞恥心のない女だったか?

もっと、こう……なんだ、おしとやかな感の子じゃなかったのか?


俺の所に押しかけてきて、いきなり服を脱ぎ始め、俺の寝床に入り素っ裸で寝てしまった。


自由奔放といいう言葉がそのままの性格だ。


しかし、ロイドとしての感情機能は今の第5世代AIよりはるかに優れている。


次世代AI。


もし本当に次世代AIが稼働しているのなら、いったいどこで誰が開発したというんだ。


それよりもだ。

彼奴、着る物無いって言っていたよな。


どうすんだよ。俺、女の着るもんなんて分かんねぇ。


「……、あのさぁ良美。今日時間とれるか?」


「おッと! 成美からこんなこと言われるの初めて! そうか、そうか、ようやく私に気が向き始めたか?」


「ばぁ―か! そんなんじゃねぇよ。ちょっと俺に付き合ってもらいたいんだ」


「何がばぁーかよ。そのままじゃん。いいよ、今日学校サボってあんたに付き合ってあげる」


「はぁ、わりぃなぁ」


「いいってことよ。で、このままホテルに直行でいいの?」


「はぁ? お前何考えてんだ?」


「そのままだよ。だってするんでしょ。今日は安全日だから大丈夫! それにもし出来たとしても、成美の子なら私ちゃんと育て上げるから。心配しないで」


……良美なんかすげぇ勘違いしてるぞ。


でも、この状態で女物の着るもん買うの付き合ってくれなんて言ったら、よけいに話がややこしくなりそうだ。


まぁ、良美も亜里沙の事は知っているからな。実際に会わせた方がいいかもしれない。


「うっ、と。そ、それじゃ俺のマンションにまずは行く……」


「えええっ、いいのぉ? ほんとに? 成美のマンションで。ははは、今までしつこくまとわりついて来てようやく報われたよ」


にんまりとした笑顔で良美は顔を赤くさせる。


やっぱり此奴に相談するのはやめた方がいいのか?


でも相談できる奴は此奴しかいねぇ。


諦めモードでマンションに戻った。


ドアを開けると


「あ、成美ぃ! 早かったね」

「お前何やってんだ!」


亜里沙、いやロイドだ。でも亜里沙だ……ええいもうこの際、亜里沙でいい。


「だってさぁ成美私を縄で縛るって言ってたから、縛り方検索してたらこんなの見つけて実際にやってみてるの。でもこれ物凄くいろんなところに食い込むんだけど」


かろうじてパンティーは履いていた。


でもよう、亜里沙。それってあのSMの亀甲結びて言うやつじゃねぇのか?

しかし一人でここまでやるとは器用なものだ。


って感心している場合じゃねぇか。


で、俺と一緒に入って来た良美が亜里沙のその姿を見て



「え、だ、誰……嘘! 亜里沙。あ、え、何それ、お化け?……あっ!」


ドタ!



良美は混乱しすぎてしまったんだろう。その場に倒れちまいやがった。

無理もねぇな……。


亜里沙ロボット3原則、第一条違反な!


「ええ、そんなぁ。私人間に危害なんか与えてないよ!」

ほう、3原則は理解しているんだ。


「ま、今回は適応外か」


「そうだよ! 私は第二条を適応していただけだよ」


「それって、俺の命令に服従していたってことか?」


「そうそう、その服従って言うの。成美が言っていたことやっていたんだから成美の命令に服従していたんじゃん」


減らず口は大したもんだ。


「大丈夫? その子、倒れちゃってるけど」


「ああ、多分大丈夫だ。一気に混乱しすぎて倒れちまったんだろ。なにせ、死んだはずのお前が、あんな姿でいたらそりゃ、此奴は気失うわな」


「はぁ、この子私の事知ってるんだ」


「過去の記憶はないのか?」


「んー、成美の事ならインストールされているんだろうけど、その他の事は何にもないなぁ」


「はぁ、そうか。此奴は東良美あずまよしみ。俺たちとは小学校から一緒だった奴だ。覚えておけ」


「わかった。東良美あずまよしみちゃんね。そうか小学校から一緒だったんだ。て、ことはそうよねぇ私の事知ってるよねそうなると」


「ああ、だからお化けって言って気絶してしまったんだ」


「お化けはひどいなぁ」


「おい良美、しっかりしろ」


あ……う、うん……


「気が付いたか良美」


「ああああああああ! 亜里沙の幽霊が……」



「こんにちは良美ちゃん!」

「ぎゃやぁああああっ! で、出たぁ、亜里沙の幽霊」



「驚くな! 良美、此奴はロイドだ」


「ロイド?」


「ああ、外見は亜里沙そっくりのロイドだ」


そう言われてすぐに、はいそうですかと現実を受け入れられるほど、人間の脳は柔軟には出来ていない。


信じられない。いや信じたくないという顔をする良美だった。


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