第2話 来訪者は彼女だった 2

現在稼働しているHumanoid android人類型アンドロイド型は第5世代。バージョン8のプログラムが稼働している。


第2世代までは、リモートによるコントロールと倫理管理が必要であったが、第3世代のHumanoid android人類型アンドロイドから新たな制御プログラムがインストールされた。


これによりリモート管理も公的な倫理管理も不要となった。


つまりは第3世代からのHumanoid android人類型アンドロイドは全く別なロボット。いや、自我を持ち、その自我をコントロールできるように設定された新たなシステムを備えたHumanoid android人類型アンドロイドへと進化した。


外見も、第5世代はほとんど生身の人間と見分けがつかないほど皮膚の質感やしぐさ、顔の表情も向上した。


すれ違う人がHumanoid android人類型アンドロイドであるかどうかさえも今は見分けがつかないくらいだ。


しかし、いくら自我を持つようになったとは言え、アイザック・アシモフ氏が唱えた。ロボット3原則は絶対の権限を持っている。


それにより生身の人間の様に感情をむき出しにする様なことはない。これが唯一我々人間とロイドとの違いであろう。


無論、ロイドは作り物だ。


人と同じ骨格を持つが内臓器まで同じとは言えない。その中身はおよそ70%が機械であり、残りの30%は我々人間と同じ体内器官を持つ。


これにより、より人間らしさを表現できるようになったと言われている。

そして最も発達したのが高度AI機能による循環プログラムだ。


このプログラムが稼働することにより、より人間の脳の働きに近づいてきた。


俺は今高度AI機能に次ぐ、次世代型のシステムを構築する研究するプロジェクトを学内で進めている。


これは中学の時からの俺と亜里沙の目標であり夢だった。


その夢を俺は亜里沙の分も受け継いで実現の物にしたい。


しかし、基本理念は現行のままだ。


しかも次世代AIを搭載したロイドを稼働させるには、現在の個体では対応できない。


Humanoid android人類型アンドロイド自体の構造を根本から見直さなければいけい。


そして最大の問題が。


ロボット倫理の根源であり、絶対に変えてはならぬ事項。


そう、アイザック・アシモフ氏が唱えた。ロボット3原則である。


この3原則が俺の研究を阻み始めていた。


そんなある日。

俺の端末にあるメールが送信されてきた。


サブジェクト

「今を生きる穗田成美ほだなるみへ」


送信者は……。

唯奈亜里沙ゆいなありさ


嘘だ! そんなはずはない。なぜ? 詐欺か? それとも誰かの嫌がらせか? だとしたらこの名を使う事は俺にとって許されないことだ。


恐る恐るメールを開く。


そこには


「ナルちゃんお誕生日ちょっとすぎちゃったけど、おめでとう。ナルちゃんも18歳、もう成人だね。


一緒に成人式出たかったなぁ。でもごめんね、このメールナルちゃんの所に送信されている頃は私がいなくなって4年も経っているんだよね。


悲しい思いさせちゃったね、ごめんなさい。でもどうしようも出来ない事だった。もう私は死ぬことが決まっていた。


ナルちゃんに隠していてごめんなさい。今、なるちゃんはどんなことをしているのかなぁ。覚えている? 私との約束。一緒に次世代のロイドを作ろうって約束したの? ナルちゃんはきっと約束守ってくれるよね。


私たちの夢だったから。これから、あなたのもとにロイドを送ります。まだ未完成だけどナルちゃんならきっと次世代ロイドにしてくれると信じているよ。それじゃね。さようなら……愛する穗田成美ほだなるみへ」


嘘だろ! こんなメール。


送信アドレス……、嘘だ亜里沙のアカウント。

送信サーバー、亜里沙のクラウドサーバーだ。


4年間もずっとこのメールを保存していたというのか。


「ナルちゃん」亜里沙は俺の事そう呼んでいた。

懐かしさがこみあげてくる……。


あの時の亜里沙の最後の言葉が湧き出てくる。

俺は、俺は……また会いたい亜里沙。



俺には亜里沙しかいないんだ。



流れる涙をぬぐい、端末のメール画面を閉じようとした時、俺はあることに気が付いた。


今日の日は……。


4年前の今日、亜里沙は息を引き取った。そう、今日は亜里沙の命日だ。


偶然の一致なのか? それとも亜里沙は自分がこの日に死ぬことを知っていたのか。


多分このメールは亜里沙が入院する前にクラウドに送信したものだ。


亜里沙のクラウドサーバーのアカウント……駄目だ、パスワードが分からない。いくら仲がよくてもクラウドまで全て共有する事なんか出来ない。


共有? それでも一部の共有エリアはある。


目の前のスクリーンに手を伸ばそうとして止めた。


学内の機器はすべてアクセスログが記憶されている。


ここから自分のクラウドサーバーにログインは出来るが、その記録は克明に残される。何かそのログを残すことに違和感を感じた。


「すいません。今日は俺帰ります」

「お、珍しいな穗田、体調でも悪いのか?」


「あ、いいえちょっと用事を思い出しまして」


まぁ理由はなんとでもなる。それにここにいる連中は自分の事しか考えない奴らばかりだ。他人の事なんか気に留めることもない。


人と関わりたくない今の俺にとっては、いい環境であることは確かだ。


学内の建物を出て、ちらっと高等部の校舎を目にする。


そう言えば良美の奴、たまにはクラスに顔出せって言っていたな。


そんなことをふと思い出しながら、自分の今住んでいるマンションに向かった。


今はこのマンションに一人住まい。

親は二人そろって海外へ赴任した。


俺と亜里沙がロイドに興味を持ち、AIプログラミングを始めたのも、双方の親がロイドに関わる研究者であったからだろう。


亜里沙が亡くなって、唯奈家の両親は悲しみから逃れるように日本を離れた。その後、俺の両親も新たな研究のため日本から離れることになった。


俺はここ日本にとどまり、今を生きている。


俺はなぜかこの地から離れることを拒んだ。亜里沙との思い出が詰まったこの街から離れたくなかった。


マンションに着きすぐにサーバーにアクセスした。


亜里沙との共有エリアにログインする。


無数のファイルフォルダーが表示された。


今までこの共有エリアのファイルを何度も開いては閉じ開いては閉じて来た。


今ではどこにどんなファイルがあるのかさえ把握できている。


何か思い当たる様なファイルは記憶の中にはないはずだ。


それでも思い当たるところは全て確認しようとしたその時。


ニューファイルのアラートが出ていることに気が付いた。


新たなファイル?

この共有サーバーにアクセスできるのは俺と亜里沙しかいないはずだ。


それなのにファイルが新たにアップされていた。


そのファイルを開くと


別のサーバーへのアクセスURLが記載さている。


初期ユーザーと仮パスワード。

これでログインしろという事だろう。


しかし得体のしれないサーバーへのログインは抵抗がある。もしかしたらこれはウイルスを呼び込むための罠か?


一か八かアクセスしてログインをした。


6th generation AI第6世代AI.

Humanoid android人類型アンドロイド.

Individual certification number《個体認証番号》 xgh1xxxxxxxxxxxx


Do you want to start it?《起動させますか?》


Installインストール


その3日後、俺は信じがたい事実と遭遇した。

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