第581話 一万度を超えるプラズマなら
プラズマ。
それは気体を構成する分子が電離し陽イオンと電子に分かれて運動している状態であり、火は燃料の酸化によって高温になると燃料の一部が電離してプラズマ状態になる。そう言った意味ではこの技は蓮見の進化した果てに手に入れた力とも言える。例えば炎に高電圧をかけるとその電極に引き寄せられることとか蓮見にとってプラズマは昔からとても身近な物であり友達のような存在。ただその力が日々成長しどんどん目に見える危険な形に姿を変えているだけ。
「お兄ちゃん……それ……本当に大丈夫だよね?」
とても熱く危険なソレを人に向けて放てば普通の人ならまず間違いなく即死するだろう。
そんなことは少し考えれば誰でもわかる。
だが――メールの近くにいる男は呟く。
「まだだ。もっと激しく熱くなれ」
圧縮された空気がプラズマ化した時点でとても高温どころか危険な温度域に入っているのだがそれに気付かない男は純粋な心でそれを願っていた。
そこに悪意はなく、あるのは純粋な勝利への欲望。
その欲望が生み出す力は白い稲妻のムチのような物を何本も放ち、それが特殊障壁の壁を伝い闘技場全体へと広がっていく。障壁の最高地点まで届いたプラズマはそのまま空気中を伝い薄暗い空を照らしながら消えていく。
「な、なによ……あれ……」
さっきの一撃など比ではない威力を秘めた球体に警戒心を見せる朱音。
それは先ほど朱音が感じ思った前兆で蓮見の手のひらには既に高温の空気ではなくプラズマがあった。その先に待つのは……生物のみならず全てを呑み込む力。だとするならこのまま黙って見ているわけにはいかないと朱音の足に自然と力が入る。
それを目視した蓮見は、
「チッ、流石に待ってはくれないか」
と、舌打ちをする。
絶対零度の護りを捨てた朱音へと降り注ぐ霰がまるで彼女を避けるかのように軌道を変えていく。地面から生える巨大な氷柱は絶対零度が形を変えた姿でまるで朱音を護るように後を追うようにして無数に枝分かれしながら伸びていく。
「お兄ちゃん!」
「わかってる! メールはそのまま霰を防いでいてくれ! お母さんは俺がなんとかする!」
「了解! それと足場は任せて」
指示に従うメールと頷く蓮見。
お互いの信頼関係の元各々が自分の役目に集中。
「もしこの一撃でもダメならもう俺に勝ち目はない。そうなれば‥‥‥‥」
蓮見の脳内に大切な仲間の姿が浮かぶ。
皆の笑顔を護るためにも、
皆の絆を護るためにも、
なによりいつも助けてくれる仲間に恩返しするためにも、
蓮見はこんなところで負けられないと覚悟を決める。
「できるできないじゃない。やるかやらないかだ。だからここで奇跡を起こす!」
空いてる方の手で鏡面の短剣を複製しては心臓に突き刺す蓮見。
それによって満タンだったHPゲージが赤色になり水色のオーラを纏う。
通称神災モード。
朱音にプラズマ球体をぶつけるために、防御を捨てる。
唯一朱音に勝ってるもの。
それはスピード。
ならば、そのアドバンテージを最大限に利用する以外にやはりパーフェクトプレイヤーに勝てる要素などない、と再度覚悟を決める。
一万度を超えるプラズマは既に蓮見の制御を離れ白い鞭のような雷が勝手に飛来し触れた霰を瞬間的に溶かし蒸発させている。
覚悟を決め珍しく真剣な表情の蓮見と飛んできた朱音の視線が空中で交差する。
「ソレをどうするつもりかしら?」
「え? そんなの決まってるじゃないですか! お母さんの身体に打ち込む以外に何があるんですか!」
観客は唖然。
「あら? か弱い女性に向かって容赦がないのね」
しかし二人は違った。
ふふっ、と不気味に笑い始める。
二人の脳内では既に最後の攻防戦が行われていた。
しばらくして二人同時にソレが終わった瞬間。
目にも止まらぬ速さで蓮見が動き始める。
メールが水の塊を散布させて作った足場を利用して右手に宿ったプラズマが蓮見の軌跡を残す。
「面白い」
(追い込めば追い込むほど逆にこちらが追い込まれる。控えめに言って最高ね♪)
それを見た朱音が杖から槍に武器を持ち変え静かに呟く。僅かな音や気配も逃さないレベルで集中した朱音の目は追えるはずのない蓮見をしっかりと見ているような感じが漂い始めた。
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