第580話 全てが通じない相手がいた
「ふふっ。お見事よダーリン。なんだ‥‥‥‥私の期待になんだかんだ応えられるじゃない。僅か数十秒で逆転の一手を考案し躊躇いなく放つその度胸と発想力素晴らしいわ。だからね‥‥‥‥ごめんなさい、私のために絶望しなさい」
一瞬躊躇いが見えた表情は気付けば溢れる笑みで満ちている。蓮見が朱音の期待に応えた証拠だ。それは朱音のスイッチを入れるに十分に値し、そのスイッチは今まで以上の実力差を蓮見に見せてしまう物でもあった。まるでブレーカーが落ちた時のようにパチンと朱音の中でなにかが切り替わる。
「スキル『覚醒』。まだあの一撃を耐えるには足りない。スキル『絶対零度』『硬化』『補強』」
絶対零度。
氷属性最強クラスのスキル。
杖に持ち変えた朱音が地面を叩くとそこから氷の壁が朱音を包み込むようにして出現。補助スキルの効果を受けて氷はさらに硬く強固な物へと変貌する。それは白い冷気を纏う最強クラスの盾であり、どんな攻撃も無力化してしまうほどに分厚い。
「にししッ。そうきたか!」
それでも蓮見は止まらない。
不敵に笑いながら正面から突撃する。
「喰らえ! これが俺の天地灼熱地獄だー!!!」
手を伸ばし氷の表面に反射するもう一人の自分に向けた空気の弾が爆発。名前の通り、一呼吸でもすれば死に直結する熱風が辺り一面に拡散。瞬時に観客席までも広がった死の風は氷の表面を溶かしていく。
「無駄よ。ダーリンのそれが空気を圧縮して作られた一撃なら逆に氷点下で急激に冷やせばその力は大幅に失われるわ」
氷の内側にいる朱音が呼吸困難で苦しむ蓮見に語りかける。
その後絶対零度で消耗したMPをポーションで回復する。
「まだ終わらないわよ! 私の一撃は! スキル『氷点氷雪』!」
突如暗くなる闘技場。
「やばっ!? メールカモーン!!!」
黒い雲が太陽の陽を遮り、氷の霰をどしゃ降りの雨の如く地上へ向けて放ち始める。それによって観客席を含めた二人が立つ闘技場全体で急激な温度変化が起きる。
例えるなら太陽が照りつける砂漠のど真ん中にいるような熱さから北極のど真ん中に立っているような寒さ。
だけど朱音は氷の中にいるため常に一定の温度を保っている。蓮見の一撃が急激な温度変化の影響を受けて威力を失い闘技場を瞬時に殺人現場へと変えた一撃はその力を失い手から消え、分身もまた空から降り注ぐ氷の一撃を何発も受け消えていく。
ここまでしてなにもかもが通じない相手。
それが朱音。
例え今の一撃で百人近いプレイヤーを秒殺する一撃でも朱音のHPは一ミリも減らない。ただし朱音の絶体零度の盾を半分溶かし、霰を一部溶かすなど、目に見える形では蓮見の一撃は有効だったとも言えた。もし朱音が絶体零度を単体で使っていたらあるいは‥‥‥‥通じたのかもしれない。
「地面の炎も霰を溶かし切れずに徐々に弱くなってきたし再利用はもう無理そうね。いよいよ終わりかしら♪ そんなわけないわよね? もっと私を驚かせて頂戴マイダーリン♪」
どしゃ降りとも言える霰からスキルを使い蓮見を護るメール。二人を覆い護るのは球体の水。だがそれも徐々に霰によって削られていく。
「お兄ちゃんこのままじゃ」
弱気に語りかけるメールに蓮見が答える。
「いや! まだだ!!!
「でもそれをどうやってあの人に当てるの? あの氷の盾はたぶん私の水の盾の倍以上の耐久性があると思うよ? それにもう回復も始めてるし」
「そんなの決まってる! 天地灼熱地獄を超えればいいだけだ! あの冷気でも冷やせないぐらい特大のな!!! 」
ゴクリ。
その言葉にメールは息を呑み込んだ。
自分はもしやとんでもない殺人犯を護っているのではないか、と一瞬思ってしまうほどに近くで不敵に微笑む蓮見が恐ろしく見えた。
そして。
一言で言えば、、、
まだ、、、
先が見えない、、、
最恐はまだ何かを企んでいると確信した。
なにより目の前でバチバチと放電を始めたソレは既に蓮見の制御限界を越えているようにしかメールには見えなかった。ソレをさらに成長させたら一体どうなるのかそれがわからないでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます