第576話 【神紅の神炎者】 VS 神槍の使い手朱音 手合わせ


 この程度の奇策では朱音の集中力を乱すことはできない。

 そんなことは百も承知の蓮見は走る。

 だけど万にひとつでも可能性があるのなら、やってみる価値はあると考えたわけだ。


「まずは俺様全力シリーズ、全力で全速ダッシュ!」


 朱音の突き刺さるような視線は真っ直ぐに蓮見だけを追いかける。


「スキルなしでも相変わらず速いのね」


 視線を外しなんとか視界と聴覚を奪い奇襲を仕掛けたい蓮見の思惑はどうやら簡単にはいかないようだ。ならば、と蓮見強引に仕掛ける。脳の中で流れる音楽が蓮見に勇気と自信を与えてくれる。


 ――この戦いが二人の運命なら~

 貴女の隣に立ちたい~臆病な僕でも

 貴女が望むのなら~どんな試練でも立ち向かえる~♪

 この世界を火の海に変えて~♪


 今度は聖水瓶ver1と一緒に閃光弾と音響爆弾を朱音に向かって投げる蓮見は笑う。眩しい光と思わず耳を塞ぎたくなるような音が、闘技場を包み込む。


 その一瞬で蓮見は自らの手で攻撃のチャンスを作る。


「スキル『水振の陣』『罰と救済』『虚像の発火』!」


 眩しい光の中、記憶を頼りに背後にまわり放つ一撃。

矢が空気を切り裂く音は既に音響爆弾の音が邪魔して聞こえない。

そこにタイミングを図ったように朱音の後頭部付近に落ちてくる聖水瓶に矢が突き刺さり爆発のエネルギーを得る。


「うーん、甘いわね 」


 予定だった。

 槍の側面で瓶を割らないように絶妙な力加減で弾き飛んできた矢を槍の切っ先で真っ二つにし爆発そのものを簡単に防いだ朱音は目を閉じている。


「これくらいなら打ち落とせばなにも恐くないわ」


 目を開け、気配と読みだけで蓮見の行動を把握した朱音は表情一つ変えず余裕が伺える。


「ま、ま、ま、マジかよ‥‥‥‥うそ~ん、、、いや俺ちってたもんね、これは、、、その、、、えっと‥‥‥‥腕試しだもんね」


 これなら少しは驚いてくれると思っていただけに予想外の結果に逆に思わず驚いて動揺してしまう蓮見の表情は苦笑い。


「だったらやっぱり火の海しかねぇ!」


 歌の力を借りて、歌の可能性を信じて。

 素材アイテムを一つ取り出して聖水瓶ver2と一緒に幾つか両手で投げる。

 それは金属製で武器等の加工に使われるなんの変哲もない塊。


 朱音はそれに興味すら見せず「ふーん。それで次はどうくるのかしら?」


 まだ攻撃の姿勢を見せずただ蓮見の動きを待つ朱音はなにかを待っているようにも見える。


「俺に時間を与えたこと後悔させてやるぜ!」


 強がっては見るもののやはり強いとしか言いようがない。


「スキル『大洪水』!」


 試合前にエリカのスキルを複製しておいたスキルを使う。

 蓮見を中心に水が出現し、ひざ下あたりまでの波を作りながら闘技場全体に広がっていく。


「スキル『冷たい吹雪』!」


 続けてここに来る前にエリカに頼み複製させてもらったスキル。


 だけどそんなのはお構いなしと朱音はただ立っているだけ。


「芸がないわね。それじゃ前と同じじゃない」


「ここまではな!」


「ん!?」


蓮見の頭の中で流れる曲がサビに突入し、アドレナリンが分泌され最高潮に一人盛り上がる。


 ――今から過去を乗り越えていく~♪

 貴女なら俺の全てを受け止めてくれると信じて~♪

 奇跡の業火が燃え広がる~その瞬間眩い光が新しい世界を照らす~♪


「スキル『猛毒の捌き』『虚像の発火』!」


 武器素材の塊に虚像の発火ではなく、宙を舞う瓶に向けて放たれる。同時に紫色の魔方陣から出現する毒矢が朱音へと向けられる。


 表面が融解を始める。


「ふふっ、あははははははは! ここから始まる俺様超全力ワールドとくと受けて味わうがいい! 俺様こそが最強に今こそなるんだ!」


 準備を終えた蓮見が高々に笑う。

 ここまで念入りに準備ができたことなど過去にあっただろうか?

 いや、ない。

 テンションが高い蓮見は迷うことなく最後の引き金を引いた。

 これで朱音を倒せる。そう思って。


「ワールド? ふ~ん、ならちょっとだけ遊んであげるわ」


 ニヤリと微笑む朱音。

 槍を持つ右手に力が入る。

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