第577話 【神紅の神炎者】 VS 神槍の使い手朱音 絶望


「無駄だぜ! もう俺の超全力シリーズのカウントダウンは始まってる。後数秒でその時がくるんだからな」


「まだわからない? 私がここまで待った理由。なにもしなくても溶けた金属が足場の水に落ちたら今まで通り凄い連鎖になるのだろうけどダーリンの弱点を今教えてあげるわ。スキル『竜巻』『圧縮』」


 朱音を中心とした竜巻が水を巻き上げ渦を作りながら出現するも、スキル『圧縮』の効果を受け朱音の左手のひらに小さな球体として形を変え集まっていく。その間も竜巻の効果で蓮見が用意した水はどんどん吸い上げられていく。


「ま、まさか――!?」


「ダーリンは無駄が多いのよ。スキルの複合なら単純な物どうしでもこうやって相手の切り札を阻止することだってできるわ」


 第一発目を阻止された蓮見は第二発目へと移る。


「喰らえ! 第二波! スキル『水振の陣』『罰と救済』『虚像の発火』!」


 簡易的な分威力が落ちるも狙うは水爆による一撃。

 蓮見の矢と同じタイミングで朱音が「まだまだね。スキル『デスボルグ』」と呟いては槍を投げる。

 矢が落下する瓶に被弾し爆発するよりも速く槍が矢を打ち落とす。

 それも矢先に触れることなく、側面から矢柄をへし折るようにして。

 それによって蓮見の水爆は不発に終わるもまだ諦めない蓮見。


「俺様超全力ワールド第三波!スキル『猛毒の捌き』による黒ひげ危機一髪!」


 三十の毒矢が四方八方から同時に朱音を襲う。


「なるほどね~スキル『解放』『凍結』!」


 左手に圧縮された水が勢いよく弾け飛び水しぶきを撒き散らす。それを凍らせて盾にすることで毒矢の一部を無力化し後はスキルを使い槍を回収しながら最小限の動きで飛んできた矢を回避し、回収した槍の切っ先で真っ二つにしていく。


 本来であれば海底火山の噴火を想像させる二回の連続大爆発と間髪入れない毒矢による攻撃のコンボを決める予定だった。


 しかし全て簡単に防がれてしまった蓮見の額には冷や汗が流れる。


 そして男は心の中で囁く。


 ――勝てないかもしれない。


 圧倒的な実力差に会場も静まりかえっていつもの活気はどこにもない。ここまで蓮見の動きを完璧に見切り完璧に全てをふさいだプレイヤーは過去誰もいないからだ。


 皆が蓮見が勝つ可能性を諦め始めた。


 ■■■

 

 観覧席で七瀬が呟いた。


「神槍の使い手……お母さんの通り名であり賞金稼ぎの名前。美紀の比じゃない精度で放たれる一撃は鋭く重くなにより速い。相手を倒すのではなく仕留める、そんな覚悟が一撃一撃に込められている……だけどその足元にすら今の紅じゃやっぱり立つことができないか……」


 朱音の実力を知っている七瀬から見れば二人の実力差は圧倒的。

 今まで仕事で槍を使う姿は何度も見てきたが、戦いを楽しむ時に槍を使う姿は一度も見たことがなかった。

 それだけ蓮見を強者と認めたのかあるいは本当に決別をする気なのか。

 それがわからない。

 だけど七瀬から見た朱音はただ槍を持っている、と言うだけでも自分たちからしてみれば充分過ぎるぐらいに本気と思えるほどだった。


 自分だったら諦める。

 つい自分が蓮見の立場だったら勝つことを諦めると考えていると、目の前で蓮見が「ふっふふふ、あははは~やべぇなにもかもが通じねぇし効かね~いいね~最高にいいね~」と頭に手を当て空に視線を向けて笑い始めたのだった。

 まるで頭のネジが外れなにもかもが吹っ切れたような蓮見の姿が七瀬に少しばかりの希望を与える。


「もしかして……この状況で絶望してないの? 今までの……ううん、自分の全てが正面から否定されたこの状況で?」


 自分の攻撃全てが通じない相手に勝てるわけがないと七瀬の教科書にはあった。


 ■■■


 今まで自分の攻撃が通じないことが多かった男の教科書にはあることが書かれている。


 ――勝てないなら、限界を超え進化!


 今までどんな絶望や逆境にも煩悩と閃きそして度胸で進化し成長し乗り越えてきた蓮見はまだ勝負を諦めていなかった。


「やっぱり超全力シリーズじゃ初動の火すらおきねぇか。やっぱりお母さんは凄いぜ!!!」


「…………ん?」


「だったらやるしかねぇよな!!! 完璧な究極全力シリーズ!!!」


 その言葉に朱音が心の底から微笑む。

 まるでそれを待ってたと言わんばかりに朱音の目が大きく見開れる。


 それは朱音だけに留まらない。

 観客席にいたほぼ全員が何かを期待した眼差しを蓮見に向け始める。

 多くの者がソレを待っていた。


 そしてとある一室でも。

「ふふっ。既にその程度予想済み! お前一人が暴れた程度ではこの世界は滅びん! よって今回の勝負は俺の勝ちだああああ!」

 と、ある男がガッツポーズをしながら叫び謎の勝負に勝った気でいた。




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