第575話 集結&観戦
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――翌日。
お昼を過ぎた頃蓮見と朱音は第二層にある闘技場へとやって来た。
普段なら人が少なく人で溢れかえることは滅多にない場所。
ここは普段から戦いに慣れていないプレイヤーが仲間との交流を通して修行し基礎を学ぶ場でもある。その為プレイヤー同士の対人戦もルールを決めて戦うことが出来たりと模擬戦を行うにはもってこいの場所だ。
それに他のプレイヤーは戦いを観戦できる観客席も用意されている。
観客席には破壊不能オブジェクトとなっている結界で守られており物理ダメージは全て遮断されるため、攻撃が逸れて飛んできても安全な作りとなっている。
そんな観客席に美紀、エリカ、七瀬、瑠香の四人の姿があった。
「ねぇ……なんでこうなったのかしら?」
蓮見と朱音の戦いを昨日聞いた四人は誰にも他言はしていない。
だがエリカは疑問で仕方なかった。
どこからか騒ぎを聞きつけた野次馬が沢山集まり、まるで満員電車のように観客席がパンパンになっているからだ。
イベント終わりで皆のモチベーションが一旦下がりログイン率が普通なら多少は落ちるはずの翌日。
幾ら学生が夏休み期間とは言え、これは人が多すぎるだろうと。
ましてや社会人であろうプレイヤーも結構沢山いてエリカはこの人混みができた理由が謎で仕方がなかった。
「さぁ……?」
「う~ん私たちはなにも言ってませんし、なぜでしょう?」
「お姉ちゃんの言う通りです。紅さんは板とかそう言ったので発信も受信もしませんからね……んっ?」
瑠香が途中で何かに気付いたように言葉を詰まらせた。
それに続き三人も何かに気付いた様子。
「もしかして……」
「確かに一人だけこの状況を作ったあげく楽しんでいる人物が一人いたわね」
「里美の言う通りね。今私たちの目の前で対峙しようとしてる二人のうち一人ね」
四人の謎は口にすることですぐに解けた。
朱音がどこからか蓮見と闘うことをリークしたのだろうと。
その予想は正解で。
朱音はわざとこの状況を作りだしたのだ。
目撃者を沢山作ることで同情で蓮見に勝ちが行かないように。
それとある理由で。
時に優しく、時に厳しく。
なんだかんだ、本当は心の奥底で疑いを抱きながらも信じているからこその思いで。
そこまでは気付かなくても朱音が理由もなしにリークしたのではなく裏があるのだろうと考えた美紀が口を開く。
「勝つための一手。それが今の紅にあればいいけど、どうなるかしらね」
美紀はあることを懸念していた。
それは今まで朱音がこのゲームで使用していた武器は七瀬と瑠香が主に使用しているレイピアと杖なのだが、今日はいつもと違い。小さい頃からよく見慣れ、最もプレイヤーとして憧れ尊敬し目標にしてきた姿の朱音が蓮見の前に立っていたのだ。いつ自分たちと同じ最高ランクの破壊不能の武器を手に入れたのか知らない。ただ言えることは一番槍を持たせてはいけない人物に槍を持たせてしまったことだ。
「紅の人気と朱音さんの人気。二人が対峙するなら例え一時間前に情報が洩れてもかなりの人が集まる。そう考えればこの観客にも納得ができる。ましてや【神紅の神炎者】と呼ばれるまでになった紅と槍で戦う朱音さん。注目はこのゲームでは一番あること間違いないわ。だけどこれだけの人の前で紅をボコボコにして負け様を見せる理由は一体……なんなのかしら」
普通に考えれば蓮見に勝ち目など万に一つの可能性があるかないか。
冷静に考えれば考えるほど朱音の考えがわからない。
■■■
蓮見の前に立つ朱音。
それは初めて見る姿――メインの武器は槍。サブの武器は杖。
近接、遠距離、どちらも対応可能なその姿は正に神と思えるほどに蓮見から見た朱音は迫力があった。
ただでさえ杖だけでも七瀬のような近接戦闘も出来そうな化物が本来の武器をメインにして持ったという事実は極めて厄介としか言いようがない。
「へへっ、今日は静かですね」
周りの目などいつも通り全て無視して目の前の朱音だけを見る蓮見は周りの目から放たれる期待のプレッシャーなど微塵も感じていないように見える。
それにはちゃんと理由があり。
「そうね。ちょっと今集中してるからね」
ただ立っているだけで押し潰れてしまうほどの圧はきっと自分が強いなどと言う自信からくるものではなく、まるで獲物を見つけ今から全力で倒しに行く時の獣のように全神経を蓮見に向けているからなのではないか。全く油断も隙もない。
「はぁ~」
ため息しかでない蓮見。
朱音の集中は美紀のそれにどこか似ていた。
目の前に立っているからこそなんとなくそれがわかる蓮見。
「しょうがねぇ。今からテンションあげて下剋上でもするか!」
――貴女に伝えたいメッセージ~♪
ここにあります~いつまでも臆病な僕は今こそ大空に羽ばたくでしょう~♪
この世界で暴れて~♪
試合開始のカウントダウンが始まる。
空中に浮かぶ大きなディスプレイの数字が三、二、一、と減っていく。
「ついに始まる。彗星の如くゲームに舞い降りた型破りのオンリーワンプレイヤー【神紅の神炎者】と親会社のゲームで世界ランカーのパーフェクトプレイヤー【神槍の使い手】の一騎打ちが」
「あぁ。今から誰もが忘れられない戦いが遂に始まるぞ! 誰も止めることができない進化する神災と神殺しの礼装シリーズの一つ龍神殺しの槍を持ちどんなプレイヤーでも勝てない相手の戦いが。ある意味神の名を持つ二人の戦い。これは目が離せねぇぞ!」
いよいよ始まる、という期待感から観客席のボルテージも最高潮へ上がっていく。
「そうね!!! ってちょっとあれ見て!!!」
「なっ!? マジか!?」
「おいおい。アイツどんだけ名が広がってるんだよ……朱音との対戦ってのもあるだろうけど、やっぱりやべぇよ【神紅の神炎者】の名前は。ネームバリューあり過ぎだろ……まじで」
観客席にいた男女三人組の近くには朱音の同僚や七瀬や瑠香の父親などプロと呼ばれるプレイヤーまでチラホラと見受けられた。
それだけこの戦いに注目しているプレイヤーが多いと言うわけだ。
そんな観客にいる全員に見せつけるようにカウントがゼロになると同時に鼻歌を歌う蓮見が動き、放り投げられた閃光弾と音響爆弾が空中で爆発する。
【神紅の神炎者】VS【神槍の使い手】の戦いがついに開幕。
もう後には退けない蓮見の狙いは一体。
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