第四十章 第二弾 夏休みイベント 第五回イベント 衝突

第504話 情報収集――美紀の勘(前編)


「らんらんら~~~~~ん♪ いっ、イっ、イベント~私が待ってた~イ~ベ~ン~ト~♪」


 大きく太い木々が等間隔で並ぶ通りで膝丈ぐらいの高さにまで伸びた植物が両サイドにあり、その間に生えた芝道。

 鼻歌を歌い優雅に一人の少女が深紅の美ギルド拠点から少し離れた所でスキップしている。一見隙だらけにしか見えない美紀。だがここに来るまで開始早々油断大敵と潜伏スキルを使い静かに背後から不意打ちしてきた二人を見向きもせずに返り討ちにkillヒットしたトッププレイヤーの一人。


「里美ちゃんセンサーによるとなにか嫌な予感がするんだよな~♪」


 一旦足を止めてキョロキョロと周囲を見渡す美紀。

 ご機嫌な美紀ちゃんセンサーの勘は侮れない。

 このセンサーは世界で唯一蓮見の逃亡先や潜伏先を高確率で当てられる性能を有しているのだ。そう、誰もが予測不能と諦めるなか、このセンサーだけは高確率で蓮見の次の一手を素早く推測できる。つまり蓮見の行動より推測が簡単な相手には……。


「んっ? 今微かに音が聞こえたような……気のせい?」


 高性能ハイスペックと、些細な違和感ですら見過ごすことはない。

 そして、「ははぁ~ん、なるほどね♪」と近くの茂みに巧みに隠れているプレイヤーをただの気配だけで感知した美紀は悪い笑みを浮かべる。

 世間から【神炎の神災者】の一番の理解者にして一番の抑止力とも裏では呼ばれている美紀を知らないプレイヤーはイベント参加者ではいない。そう呼ばれるぐらいに美紀は有名人。そんな美紀が悪い顔を浮かべてスキップをしながら「ら~ら~ら~ら~♪」と鼻歌を歌いながら茂みに隠れたプレイヤーへと近づいて行く。


「そ~こ~に~い~る~ひ~と~あ~そ~び~ま~しょ♪」


 確信めいたその声に茂みに隠れていた黒髪短髪で少し小柄な女プレイヤーは慌てて飛び出しては逃げる。


「ひぃ!? す、す、スキル『アクセル』!」


 中堅プレイヤーの一人が逃げだした。

 その事実に美紀は首を捻って。


「なにしてるんだろ? 遅い……よね?」


 と呟いた。

 普段修行の度に全プレイヤー断トツで最速の男とイチャイチャ一方的な鬼ごっこをしている美紀からすれば女プレイヤーが幾ら物理的に速かろうと遅く見える。実は蓮見との修行は美紀の動体視力を気付けば養っていたなんてオチが……。


「まぁ、いいや。あっちになにかありそうだし♪」


 美紀は背中のブースターを起動して空から女プレイヤーを追いかける。

 一定の距離を保ちながら、逃げる側にもしかしたらと勘違いさせる最適な距離で。

 蓮見同様に油断した一瞬で手に持っている槍で一殺できるように獲物を泳がせる小悪魔は「自分から仲間の元に逃げたら情報が逆に流れるんだよ?」と小声で囁く。

 だが逃げることに全力の女プレイヤーにその言葉は届かない。


「ま、まずい。里美はマズイ。里美に狙われたら間違いなく【神炎の神災者】が動く。それだけは……」


 【神炎の神災者】の異名を持つ紅。そして紅率いる【深紅の美】ギルドメンバーの一人を偶然見かけた三人プレイヤーは今ならと思い奇襲を仕掛けた。その時点で中堅プレイヤーが多く集まる【エール】ギルドメンバーは美紀に目を付けられてしまう。


「あとちょっとが……引き離せない……。こうなったら賭けにでるしか……頼むから動いてこないでよ」


 女プレイヤーは引き離せそうで中々引き離せない美紀から全力で逃げる。

 そして願掛けをしてやってはいけないことをしてしまう。


 追いかけてくる美紀に反撃をせずに、逃げることだけに集中したことは百点満点。

 しかし美紀を自ら拠点に招き入れたことはマイナス百点である。



 女からの連絡を受け待機していた七十二名のプレイヤーが女プレイヤーと美紀の到着を待ち受けていた。


「わぉ~里美ちゃんセンサー大当たりだね♪ さぁ、紅より骨がある奴はいるかな?」


 しかし、美紀の顔色はとても良い。

 むしろとても嬉しそう。


「へっ、この数相手に何言ってるんだお前」


「なにって? かんたんかんたん。私は紅の命令でここに来たんだから♪」


 全ての罪を責任転嫁した美紀は大きく背伸びをして槍をブンブンとその場で振り回す。まるでショーが始まる前の準備運動。


「違うな。お前はここに誘導されたんだ!」


 次の瞬間、辺り一面が強い光に包まれた。


「これは……!?」


 慌てて目を覆い隠す美紀は見逃さなかった。

 一瞬でソレが地面に埋め込まれた閃光弾の光であることを確認。

 同時に脳が既に【エール】が用意した罠へと落ちていたと判断。

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