第503話 ギルド作戦会議
灰燼の焔ギルドにて。
「アイツは前回同様必ずリスクを追ってでも動いてくる」
ギルド長――リュークの言葉に息を呑み込む【灰燼の焔】ギルド幹部と支部幹部メンバー。
当然ながら【ラグナロク】【雷撃の閃光】に次ぐ第三位の実力を持つとされている強豪ギルドであり優勝候補の一角である。
本来であれば【ラグナロク】と【雷撃の閃光】の二ギルドを警戒すれば良かったのだが、朱音と言うある意味天敵を味方に付けた男が率いるとあるギルドも二ギルド同様に警戒していた。正確には最も警戒しているギルドである。かつて、ギルド対抗イベントでは常軌を逸した存在だけに苦戦させられた。
「先日【異次元の神災者】から【神炎の神災者】(しんえんのしんさいしゃ)となった紅のことですか?」
神炎の神災者。
それは神すら恐れる災いの炎にして敵対する存在に恐怖を与える名である。
彼に手を出し、生還した者は両手の指で数えるほど。
それも、トッププレイヤーと呼ばれる選ばれし者たちがギルドの枠を超え手を取り合ってようやく手にした生。その者たちが再び手を組めばあるいはまた倒せるかもしれないが、残念ながらそれはなさそうだ。
「あぁ。噂では
ただし
神の中の神はどこまで彼が期待に応えてくれるかをその目で見たいからだ。
「あの噂ですか……」
「そうだ。そこで今回は戦力を適切に分配し、的確に全ての状況へと対処していく。当然本部は此処になりメインにもなるが、支部も当然入賞を狙う。まずは集めた情報の共有を頼む」
ギルド長の言葉に灰燼の焔ギルド幹部メンバーが説明を始めた。
雷撃の閃光ギルドにて。
「正直に言おう。我々の敵は【ラグナロク】と【灰塵の焔】の二つ。【ラグナロク】とは拠点が近くすぐに交戦することになると思うが我々は必ず勝つ!」
その言葉に頷く一同。
本部と支部合わせて二百名近いギルドの長となったソフィの力強い言葉は幹部メンバーたちの心に響き渡る。
だが、今ではゲスト枠でありながら本部副ギルド長として所属している綾香だけはソフィに棘がある言葉を送る。
「まずは【ラグナロク】?」
その言葉に全員の視線が綾香へと向けられる。
「そうだ! 確かに【神炎の神災者】は脅威だ。だが純粋な戦力的な話しに限って言えば最も脅威なのは【ラグナロク】おいて他にいない。後は……そうだな、【灰燼の焔】ぐらいだが、幸い向こうとは拠点は遠そうだ」
上空へと飛ばした偵察アイテムを使い周囲を確認したソフィ。
運が良いのか悪いのかラグナロクギルドメンバーが周囲を散開し捜索している姿がチラホラと見えた。
「ルフラン……か。勝てるの?」
綾香は最大の疑問を投げかける。
プロを除いた最強プレイヤーとも呼ばれるルフラン相手に誰が勝てるのかという純粋な疑問。
「……わからない。だが、びびっていては」
言葉にするか迷うソフィの顔色を伺いながら、
「――【ラグナロク】【灰燼の焔】二つから同時に狙われたら終わる?」
と、綾香が言った。
綾香はソフィの考えをここにいる誰よりも早く理解し、試した。
今回の対抗イベントは間違いなく過去最高難易度なのは間違いない。
そうなれば現時点で優勝候補と呼ばれていても入賞すらできない可能性が大いにあるからだ。
正にがん細胞のような――ある男が率いる今イベント唯一の小規模ギルドの存在が全ての常識や可能性を不確実なものとしているからだ。
「あぁ」
だから最悪を想定した場合、ある一つの解がでてくる。
「こちらに余力があるうちに全力で最も厄介な相手を叩き、向こうの戦力を削れるだけ削り弱体化。その後【灰燼の焔】も同じってわけ?」
「そうだ。疲弊した状態での戦闘は出来るだけお互いに避けたいと思うからな」
二人の会話に幹部の一人が疑問を投げかける。
「待ってください! なぜでしょうか? 今のお二人の会話からは【神炎の神災者】をしばらく放置すると言っているようなもの。むしろ【神炎の神災者】こそが一番我々の――」
すると、ニヤリと不敵な笑みを向けたギルド長と副ギルド長は声を合わせて。
「「あの男は私たちの予測を確実に超えてくる。それに嫌でも後半戦全ギルドに狙われる。その時に便乗して倒せば問題ない」」
と、まるで未来が見えているかのように確信めいた言葉を言い放つ。
その言葉を聞いた幹部たちは一斉にゴクリと息を呑み込んだ。
(間違いない……この方々は【ラグナロク】【灰燼の焔】そして【深紅の美】全てを倒して最強への頂にいこうとしている)
(あのソフィ様が闘争心を燃やしている?)
(初めてみた綾香様の静かな闘志……だけど確実に【神炎の神災者】狙い……)
(ッ!? ありえない。ソフィ様がとても嬉しそうだ。なによりここまで感情を表に出されるとは)
(なんなんだ……あの男は……このお二方にここまでさせるとは)
それぞれが心の中であの男を早くも意識し始める。
ラグナロクギルドにて。
「全員よく聞け。俺たちは【雷撃の閃光】【灰燼の焔】そして【深紅の美】ギルド全てを倒し最強ギルドとして名を轟かせる!」
その言葉にイベント開始後すぐに集まった幹部メンバーたちが声をあげて称賛する。まるで最強が誰かを証明するかのように力強く心に響く声は闘争心を乗せてある拠点の一室で響き渡る。
「本部と支部のメンバー構成はイベント前話した通りだ。予定通り
「「「「「了解しました!!!」」」」」
一部隊十から二十名で構成された部隊の幹部メンバーが命令を受託。
その様子を見てルフランは微笑む。
「だが、忘れるな。朱音さんは別格として、里見、ソフィ、綾香、リュークこの四人は俺と対等だと思え。この五人に出会った時は決して無理はするな! これはチーム戦であり個人戦ではない!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
「それと【深紅の美】ギルドを見つけた際は必ず俺に最優先で報告しろ。それと指示があるまでは出来るだけ戦闘を控えろ。アイツらは間違いなく後半戦弱る。それまでは例え逃げる形になっても泳がせておけ。特に【神炎の神災者】は高火力低燃費な所が致命的な点だからな」
「つまり私たちはルフラン様の指示があるまではそれ以外のギルドを叩くと言うわけですね?」
「そうだ。まずは先ほど近くに拠点がある可能性が高いと報告があった【雷撃の閃光】。そして可能ならば【灰燼の焔】に攻撃を仕掛ける。この二大ギルドは俺たちと同じ優勝候補。できるだけこちらの戦力が潤っている間に向こうの戦力を枯渇させてイベントの主導権を握る。いいな?」
コクり、と頷く一同。
「葉子!」
「はい!」
「偵察隊を出せ! 【神炎の神災者】と朱音さん。この二人は特に徹底マークして逐一報告させろ! あの二人は例えるなら好奇心旺盛な動く最恐兵器。絶対にノーマークにするな!!!」
「は、はいッ!」
ルフランの気迫に思わず驚いてしまった葉子はどこかあたふたしながらも敬礼をする。だが、葉子以外のメンバーはあまりの気迫に思わずビビッて指一本すら動かせなくなっていた。これだけでもルフランの右腕として活躍する葉子の凄さがわかる。
(よりにもよって昔から仲良しこよしで群れることを嫌う朱音さんがアイツと手を組むとはとんだ誤算もいいところだ。そもそもあの気に入りようはどう見ても
ギルド長として決して弱みを見せない最強の男の中では早くも過去の記憶からある男とある女がなにもしてこないわけがないと確信していた。
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