第502話 情報収集部隊


 瑠香と朱音の頑張りが実り蓮見が拠点を必然的に守る役目を引き受けた。

 次の議題は誰がどう動くかと言うことだ。

 むやみやたらに人員を動かせるほどの余裕はない【深紅の美】ギルドが今回のイベントで勝ち残るためにはまずギルド長である蓮見と副ギルド長である美紀を失わないことが絶対条件だ。一人でも失えば他ギルドがチャンスと思い必要以上に攻めくることになるかもしれない。だからこそまずは二人が負けないことが絶対条件だ。次に入賞までを考えるとここから攻撃もしていかなければならないというわけだ。だけど第三回イベントと比べると朱音が仲間になってくれていることは数以上に心強いと皆が感じている。当の本人は蓮見がいるから一緒に参加みたいになっているが、今はそんなことは関係ない。


「それよりダーリン? まずは情報収集部隊を作って近隣の把握した方がいいと思うんだけどしないの?」


「たしかに、それはある……!」


 蓮見は朱音の言葉に納得する。

 腕を組んで誰を出せばいいかを考えてみるも、正直言って誰にお願いすればいいのかがわからない。

 そんなわけで蓮見は誰に情報収集をお願いするかではなく、誰に聞けば最良の答えが出るかを考え始める。

 それを見た一同は。


「う~ん、そうだなー。ここは誰に任せるかな……」


「す、すごい、紅が頭を使ってる」


「珍しいこともあるものねー」


「これも成長かしら」


「少しばかり信じられませんがこれが現実なのでしょう」


「ダーリンにしては意外ね」


 と、勘違いの声が静寂な拠点に響き渡る結果となったわけだが真剣に色々と考える蓮見は気にした素振りを見せることなく思いのままに結論を出す。


「ここはエリカさんにお願いします!」


「「「「「えっ!?」」」」」


 蓮見の言葉に一斉に驚く。

 それはそうだろう。

 よりにもよって一番戦闘能力がないメンバーを選んだのだから女性陣からしてみれば一体どういう考えがあって!? と思うのは仕方がないこと。

 だけど蓮見は誰がするではなく誰にまず相談するかと言う趣旨で物事を考えていたために今回蓮見の思惑に女性陣が困惑することになったのだ。

 そんな紛らわしいことをしたために蓮見も「えっ!?」と予想外の返事が返ってきたと驚きの表情を見せる。


「もしかして俺おかしいこと言った?」


 慌てて皆に確認を取るも皆も困惑した表情を見せてくるため、言葉に困る蓮見。


「えっと……はすぅ……じゃなく紅君?」


 こちらも困惑を隠し切れない様子のエリカ。


「なんでしょう」


「どうして私を選んだのか理由を聞いてもいいかしら?」


「えっと……俺バカなんでエリカさんに決めて貰おうかなと思いまして」


 その言葉に少し間を開けてエリカが確認をする。


「それは私が行くって意味じゃなくて私に相談をするって意味でさっき私を選んだって解釈でいいのかしら?」


 首を傾けるエリカ。


「そうですけど?」


 まるで鏡のように蓮見も首を傾ける。

 二人の動きがシンクロするも心の方は点でバラバラ。


「なら一応確認ね。私は行かなくていいのよね?」


 念には念を入れるエリカ。

 そうだ。

 蓮見の場合たまに誰もが理解不能な超解釈をして結論を出す時があるので、それはないと言う確認である。


「はい。エリカさんが自身が私は適任じゃないと判断されればそうですし、第三回イベントの時みたく偵察に行った方が良いと思われたらお願いしたいです」


 その言葉にようやくエリカ、美紀、朱音、七瀬、瑠香の順で蓮見の言いたいことをなんとなく理解した。その感なんとも言えない静かな空間の中で蓮見が「あれ?」と呟いたが残念ながら誰も反応すらできなかった。要は思考回路を反応に回すほど、意識を分散させれなかったのである。それだけ蓮見の言葉の解釈に脳がリソースを振り分けていたのだ。


「うん、わかったわ。なら私が決めていいのね?」


「はい」


「なら情報収集は里美にお願いしましょう。里美なら単独行動も慣れているだろうし実力もある。それに尾行に関してもかなり上手いと思うことから適任だと思うの。なにより目が早く早くってさっきから訴えてるからたまにはイベントを楽しませてあげましょう?」


「ならそれで!」


「やった!!! なら私が責任を持って情報収集してくるわ! ってことで皆! これはギルド長命令なのだから文句はなしよ! ってことで行ってきまーす!」


 一人ガッツポーズをしたかと思いきや、槍を手に持ち元気満タンで拠点を出て行った美紀の背中を五人は静かに見送った。


「さて何人死人がでるかしら?」


 しばらくして美紀の背中が見えなくなったタイミングでボソッとエリカが呟く。


「えっ?」


 蓮見は頭の中で情報収集とは? と疑問に思ったが、きっと襲ってきた敵を倒すって意味なのだろうと解釈し何も聞かないことにした。これ以上知性に欠けると思われてはギルド長としての威厳がさらになくなる気がしたと今さらの問題に気付いてしまったからだ。


 その頃――大型ギルドの代表格とも呼ばれる【ラグナロク】【雷撃の閃光】【灰燼の焔】ギルドでも作戦会議が行われていた。

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