第501話 第五回イベント開始
眩しい光が消えるとイベント開始時に与えられたギルド拠点の中にいた。
蓮見が周囲に視線を泳がせる。
広さは八畳あまりとそんなに広くない。
だけど、木製の椅子やテーブルなどもあり、作戦会議や少しの休息程度に使うだけならなんら問題はない。窓から見える景色は絶景だった。
まさか崖際の拠点とは……。
「「ならちょっと周囲の確認に出かけてくるわね」」
そう言って美紀と七瀬が拠点を出ていく。
――。
――――。
それからすぐに戻って来る。
「拠点に対しては特に何も仕掛けがなかったわ」
「ただ前回と同じでこの拠点障壁が張られているわ。多分障壁を破壊されると破壊が可能になりそうね」
「あら? 二人共知らないの? 拠点を全部失うと全ステータスが三パーセントダウンってちゃんと案内きてたわよ?」
朱音の言葉に美紀と七瀬が大きく驚く。
「えっ!?」
「うそっ!?」
昨日は最後の追い込みで蓮見が自力では解けない夏休みの宿題に全力を注いでいた二人は目先のことに集中し過ぎてあろうことか大事な運営からの案内を見落としていたのだ。そんなことは絶対にあってはならないのに。
「マジで!?」
と、同じく自力では解けない夏休み宿題に昨日まで全エネルギーを集中していた蓮見も初めて知りましたと顔で見せて驚く。
「三人とも本当ですよ。今回はお母さんの冗談じゃありません」
「冗談って。いつも私が冗談ばっかり言ってる風に言うの止めてよね?」
「ん? 昨日冗談で妊娠したって言って蓮見さんを驚かしたのは誰だっけ?」
「私ね」
「ほら、冗談言ってる自覚あるじゃん」
「あはは~」
最後は笑って誤魔化す朱音。
そんな朱音を無視して瑠香は蓮見、美紀、七瀬に視線を戻して言葉を続ける。
「昨日お姉ちゃんと里美さんが頭を使い過ぎてお風呂でのんびりしている時に来てましたよ。結構時間に追われていたのかお風呂上がってすぐに蓮見さんの部屋に行ってたので見逃してたみたいですけど」
美紀と七瀬は文法が苦手な蓮見に全力で文法を理解させようとあの時はかなり頑張っていた。ただでさえ現代文が苦手な人間に古典や漢文の文法を理解させようとすると結構骨が折れるのだ。これにはエリカですらお手上げと白旗をあげたことで白羽の矢が七瀬に立ったわけなのだが、安易な気持ちで引き受けた七瀬は地獄を見ることとなった。だがなんとか二人がかりで時間はかかりこそしたが基本的なことだけは教えることができた。後は補助につく事で蓮見が主体で問題を解く事も出来たのだが、その時には二人共精神的にクタクタでイベントの告知のことは完全に忘れていた。
そんなわけで、全ての事情を察していた瑠香が美紀と七瀬に今説明している。それを一緒に聞く蓮見。そんな蓮見を見て瑠香は相変わらず心に余裕があると言うかないと言うかと心の中でクスッと笑ってしまった。だけど説明は蓮見用に分かりやすく端的に要点を纏めて伝えていく。でないと、蓮見から質問の嵐が来ても瑠香としては困るからだ。
「――ってなわけで以上が三人が勉強会をしている時に運営から告知された内容です。少しは理解できましたか紅さん?」
一番心配な人物に心配の眼差しと声を投げかける瑠香。
美紀と七瀬に関しては表情を見ただけで納得し理解したことがわかるのだが、蓮見だけは瑠香から見たら心配でしかないのだ。
「ふっ。余裕だな!」
「そうですか。それは良かったです」
胸に手を当てて一安心の瑠香に追い打ちをかけるバカ一名。
「俺にかかれば八割ぐらいの理解なら余裕だぜ! そして一つ疑問がある。なぜ俺は自由に動けないんだ?」
瑠香の根絶丁寧な説明を聞いても八割だという蓮見に瑠香はもう自分では無理だと思ったのか朱音に助けを求める。
すると、今度は朱音が蓮見に瑠香の説明の補足をしていく。
要はお前は勝手に動くな! ということを一番伝えたいのだが、そこが一番中々伝わっていないらしい。朱音は上手く蓮見を説得し、ギルド長の役目を果たすように訴えていく。
すると、蓮見の表情が柔らかくなっていく。
「なるほど! つまり俺様は最後の最後で派手に暴れないといけないから最初は私たちに任せて欲しい! そういうことですね!?」
「そうよ。うふふっ」
(本当に素直だし単純で可愛いわね♪)
まんまと朱音の口車に乗ってしまった蓮見は何も知らずに満面の笑みを浮かべた。
それを見た一同は一安心して今度こそホッとする。
全ギルド中、小規模ギルド最恐足る象徴でもある蓮見が動けば間違いなく全ギルドが警戒する。逆を言えば蓮見がいるギルド拠点は下手に狙われる可能性が低いと言うわけである。つまり最恐の存在である蓮見をここに置いておけば自分たちが暴れられると言うわけだ。結局のところ【深紅の美】ギルドは今回唯一の小規模ギルドでありながら、どう転んでも好戦的になる運命だったらしい。
第三層ではそんな【深紅の美】ギルドの姿を見ようと沢山の観客(プレイヤー)が集まっている。そんな期待に知ってか知らずか答えるのが必然であり運命だと言うならそれに乗っかってみるのもまた一興なのかもしれない。
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