第439話 た~ま~や~


 銃弾ならぬ火薬玉は美紀、朱音、綾香の目の前まで一直線に飛んでいく。

 銃口を向け引き金を引いた蓮見自身これがなんなのかよくわかっていない。

 ただ心の中で三人の闘志に火をつけるようなものではない事を必死に願っている。

 これがもし三人の怒りを買うような物だった時はその時は分身と同じ道を歩むことになると薄々感じている蓮見。


 砲弾が自分達に向かって飛んできていることに気付いた美紀達が武器を構える。


「うそっだろ!? アレを斬るつもりかよ!?」


 驚く蓮見。

 だけど集中した三人の目は既に砲弾の数と位置を正確にとらえている。

 心の中でやっぱり逃げた方がいいかな、と早くも弱気になる蓮見。

 蓮見の本能が全身に警告してくる。

 今まではまだ勝てる要素が少なからずあった。

 だけど今日の三人に限ってはただでさえ一人が一騎当千の勇者。

 それを同時に相手にするとなると蓮見は三千にを超える何かにならなければ勝機がない。そんなよくわからない気持ちになってしまった。

 だが、そんな蓮見を後押しするように。


「た~ま~や~ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 元気の良い声が背中から聞こえてきた。

 直後。

 美紀の槍が砲弾に触れようとしたときだった。

 導火線の炎が砲弾に合流し、眩しい光を放ち爆発。

 それは赤色の火花を散らす。

 それを合図に美紀たちに襲いかかる大小の花火が一斉に爆発。

 赤色、黄色、青色、緑色……とカラフルな色相を見せてまるで誘爆するかのように次々と爆音と同時に火花を盛大に散らす。

 インフェルノワールドによって灰となった大地と少し遠くをみれば極寒の地となったフィールド。運よく逃げ延びた者達が廃墟となった館跡地から見た光景は綺麗な花火景色であり沈んだ心を少しだけ暖かいものへと変えてくれる光景。


「「「きゃあぁぁぁぁぁああああ」」」


 ただし爆発中心地にいる三人は思わない視力と聴力妨害に可愛らしい叫び声をあげる。

 どんなにカッコよく見えても女の子。

 そう思える叫び声。


「あら~あら~可愛い叫び声ね」


 呑気に蓮見の頭上で呟くエリカ。


「ほら見てみて紅君。あの文字見える?」


 目を凝らして蓮見がエリカの指さす先を見つめる。

 すると確かに花火の一部が文字を作っているように見える。


「えっと……。おれさまさいきょうざこどもかかってこい……」


 文字を見て言葉にした蓮見の全身から嫌な汗が噴き出てくる。

 もしこれをあの三人が見たらマジで竜一匹使った料理にされそうだなと思ったからだ。


「大正解♡ 大丈夫、大丈夫!」


「………………」


「今の紅君なら年増と童顔幼馴染とペチャンコ程度なら勝てるから♪」


「…………へっ?」


「勝てる! だってまだ超全力シリーズ出し切ってないじゃん!」


 うーん、返事に困った蓮見。

 会話のキャッチボールが出来ているようでできていない蓮見とエリカ。

 蓮見は基本的にエリカは味方だと認識しているが、時折見せる奇想天外な行動を見る度にこの人本当に俺の味方なのか? と毎回疑問に思ってしまう。

 なぜならそのたびに蓮見にとばっちりが飛んできている気がするからだ。

 それもそのはず。

 蓮見と同じくエリカはエリカで自分がその時その時を全力で楽しもうとしているだけ。蓮見の味方ってのはたまたま利害が似た者同士なのかよく一致するから。もしそうじゃなくて蓮見より美紀と利害が一致すればエリカはきっと美紀と行動を共にするだろう。つまるところ蓮見とエリカは似た者同士だからこそ打ち合わせなしでも協調が上手くいっているのでないだろうか。


「それに勝ったら混浴じゃん! だから頑張って♪」


 蓮見覚醒する。

 脳天をぶち破る勢いで全身の血液を循環させ、妄想を始める。

 まるで重要な事実を忘れていたかのように。

 蓮見の全身が震える。

 それはビビッて震えているのではない。

 ただ純粋に――。


「ウォォォォォ!!!」


 一度は諦めかけた夢を叶えようとしているだけだった。


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