第440話 開幕! 蓮見&エリカ VS 美紀&朱音&綾香


 蓮見の雄たけびを聞いた美紀達。


「……やってくれるじゃない」


「なるほどね。私達相手でもいつも通りってわけね」


「いや~相変わらずやることがずば抜けてるね~」


「まぁそれはいいんだけど、まさか紅相手に三人がかりとはこれはちょっとかわいそうじゃない?」


「なら里美ちゃん手を退いてくれる?」


「無理ですね」


「だったらそういうことでいいんじゃないかしら。誰があの首を落としても文句なしで。ね、綾香ちゃん?」


「えぇ、それで構いませんよ」



 蓮見の挑発――強いてはエリカの挑発に闘志を燃やし始めた三人。

 それを遠目で見ていた蓮見は大きく息を吸いこむ。


「グォォ、スキル『咆哮』!」


 咆哮――二秒対象の動きを鈍くするスキルである。

 それを使った蓮見は大きな羽で身体の向きを調整して三人に向かって突撃する。

 大きな羽を折りたたみ全身砲弾となったその筐体でただ目の前にいる三人に向かって。


「おいおい! 嘘だろ!? 【異次元の神災者】があの三人と正面からやり合うつもりだぞ!?」


「絶対無理だろ!? 幾らアイツでも一人はプロ。二人は恐らくアイツと同世代で中学時代に名前を残した実力者! そんなの――勝てるわけねぇ!」


「ワンダフル! 流石ですねぇー。これこそ【異次元の神災者】様のお覚悟。私達に次は何を見せてくれるのか楽しみでーす」


「ふふっ。彼こそクレイジーなのかもしれません」


 感想は諸々。

 偶然にも廃墟となった館に集まったプレイヤー達の視線は最恐神災竜となった蓮見、そして化物に挑む勇敢な三人の女性プレイヤーへと向けられた。

 そんな注目を浴びているとは知らない蓮見は大きな口を開けてまず美紀を捕食し、右腕を大きく振り回して小柄な綾香を吹き飛ばし、長い尻尾を使い朱音を吹き飛ばす。


 蓮見が口に力を入れて美紀を食いちぎろうとするが槍が邪魔で歯が噛み合わない。


「はぁぁああああああ!」


 絶対に破壊できない槍。

 それを強引に食いちぎろうと力む蓮見がてこずっている間に美紀は神災竜の口の中で態勢を整えつっかえ棒の役割を果たしている槍と一緒に出てくる。


「うぉ!? 出てきた? なら、まぁ、すまん!」


 謝罪しながら地面へと飛びおりた美紀に向かって右手の拳を振り下ろす。

 と、同時に左手を朱音の方に向けてガトリング砲を連射。

 美紀が身体を捻りギリギリのところで躱されてしまう。

 綾香が後方に回り込んでいると気付いた蓮見はそれならと右足を軸にして身体を回転させて全武装の照準を適当に決めて撃ち始める。

 銃弾がビームがレーザが不規則に回転しながらランダムに襲い掛かってくる。


「ふふっ、私も援護するわ! スキル『竜巻』!」


 エリカがスキルを使った。

 それにより銃弾がまるで嵐の周りを飛ぶ雨粒のように見えなくもない。

 それを見た美紀は一旦態勢を整えるため、大きくジャンプして距離を取る。

 朱音と綾香はそんな銃弾の嵐を無駄のない動きで避け徐々に近づいてくる。


「ふふっ、甘いわ、ダーリン」


「数による暴力はなんども見てきた。今の私なら攻略できる」


「それは私も同じ。私相手にはちょっと火力が足りないってわからなかったのかしら?」


 二人の言葉に蓮見がニコッと微笑み。


「あぁ、だよな。誰がこれで終わりって言った?」


「させない! スキル『デスボルグ』!」


 いち早く危険を感じ取った美紀が地面に着々と同時に身体を反転させながら必殺の一撃を放つ。槍は黒味のかかった暗くも白いエフェクトを纏いながら飛んでいく。


「させると思う? スキル『ダブルアクセル』『ペインムーブ』!」


「だったら、スキル『迷いの霧』!」


「無駄よ! 気配があればその巨体なら確実に仕留められる」


「俺は諦めねぇ! スキル『――』」


 逃げることでなく、なにかする前に倒す。

 そんな雰囲気を出して朱音が最速で攻撃態勢のまま蓮見の懐へと潜りこんでいく。


「悪いけどそれは阻止させてもらう! スキル『幻の桃源郷』!」


「もういっちょ、スキル『――』」


「無駄だよ! 紅は私の射程圏内にいる!」


「…………」


 未来予知を可能とした綾香は三秒先の未来を見る事が出来る。

 これで蓮見が何を企んでいても先回りできる。

 既に綾香と蓮見の距離は三メートル内。

 つまりは綾香を中心とした半径三メートルの魔法陣の中である事から連撃の範囲内。


「これは……」


 綾香の顔色が悪くなる。

 毒煙のせいで中がハッキリと見えないが竜巻の中に高温となった水蒸気が充満していると気付いたからだ。


「スキル『冷たい吹雪』」


 エリカがスキルを使う。

 ただしこれは攻撃用と言うよりかはただ竜巻の中の温度を下げる為だけに使った。

 高温の水蒸気は急激に冷却された事で水滴へと戻っていく。


 個々の必殺スキルを向けられても蓮見の行動は変わらない。


「本日二度目。お母さんの愛娘直伝俺様セカンドシーズン。俺様超全力シリーズ超新星爆発だぁー!!!」


 投影による――七瀬のスキルコピー。

 それは水滴となった水蒸気へと適当に向けられた。

 狙いは最初から三人であって三人じゃない。

 三人の警戒心を俺様超全力シリーズから引き離すこと。


 超新星爆発――正式名所、水蒸気爆発。


 水蒸気爆発とは、水が非常に温度の高い物質と接触することにより気化されて発生する爆発現象のことであり、その現象としてはとても簡単なもので、熱した物に水滴をたらした場合に激しく弾け飛ぶのと同じ現象と呼べる。

 また水は熱せられて水蒸気となった場合に体積が千五百倍以上にもなるため、多量の水と高温の熱源が接触した場合、水の瞬間的な蒸発による体積の増大が起こり、それが爆発となる。


 正に蓮見の奥の手と呼べるそれは――。


 海底火山の噴火による水蒸気爆発を連想させる物となった。

 当然これには蓮見自身とエリカ、美紀と朱音と綾香も巻き込まれる。

 あまりの出来事に地殻変動すら起こしてしまった一撃は廃墟となった館まで被害を拡大していく。超新星爆発で地面が抉られ黒一色となった世界ではインフェルノワールドで起きた炎がまだ所々燃えている。少し視線を遠くに視線を飛ばせば極寒の地も氷の氷柱が飛散しとてもじゃないが人が行き来する場所ではなくなっている。そして今の一撃で館も半分ほどこの世から姿を消す事となった。

 激しい爆風に身体を吹き飛ばされスキル強制的にキャンセルさせられた三人は地面に激しく身体を叩きつけられる。各々が受け身や防御スキルを素早く適切に使用することで生き残った。しかし、三人は思った。こうも簡単に超全力シリーズを使ってくるこの男は正に――天邪鬼だと。


 だけど、忘れてはいけない。

 五人の戦いはまだ始まったばかりだと。

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