第434話 神災竜曰く本当の三日目はここから



 ――ん? なんで俺……美紀と言い朱音さん相手にビビってるんだ?


 そんな疑問が生まれた。

 自分はただゲームを楽しむを前提としてその次に勝敗を一応意識している。

 でないと勝っても心が満たされない勝利は勝利であって本当の勝利じゃないと思っているから。

 なのに今の蓮見はどうだろうか。

 どうせ勝てないからと勝負を諦め弱腰になっているのではないだろうか?

 勝敗が二の次なら別に負けてもいいのではないだろうか?

 事実その通りである。

 でも今の蓮見はゲームを楽しむ心と無意識のうち勝敗に執着するあまり中途半端にしかなっていない。


 ――あの二人は俺と楽しく一緒にゲームをしたいって言ってくれてるんだよな?


 今までの蓮見ならそんな疑問は思わなかった。

 常に自分のコンディションと相談しながら色々な相手とぶつかってきた。

 調子がいい時は戦い、調子が悪い時は逃げていた。

 でもそれはあくまで一方的なもの。

 今回のように知っている者同士遊ぶ時には何と言うか相手に失礼な気もする。

 だって蓮見以外は少なくとも自分のコンディション云々関係なしに蓮見の練習相手やサポートをいつもしてくれていたではないか。

 だけど今の蓮見はどうだろうか?

 自問自答。


 ――本当の俺はどうしたい?


 …………。


 …………。


 ――俺は二人とも楽しく遊びたい


 今日のイベントが始まる前はそう思っていた。

 なのに始まると同時にすぐ弱腰になってせっかく一緒に楽しもうとしてくれている二人から逃げている自分がいる。

 そりゃ、ゲームなのだから常に味方でいては欲しいけど。

 逆にゲームだからこそ。


 ――切磋琢磨し、たまには敵同士戦うのも悪くないはず


 そう思った時、蓮見の視界から光が消える。


 何も見えない暗闇。


 ゲームのバグだろうが?


 違う――。


 だったら――。


 ドクン、ドクン、ドクン


 高鳴る心臓の音が生きていると蓮見自身に教えてくれる。


 ドクン、ドクン、ドクン!


 鼓動は弱くなるどころか強くなっていく。


 ドクン、ドクン、ドクン!!


 心臓が訴えかけてくる。

 一方的な蹂躙は確かに楽しいけど、強者を喰らい強者をありのままの自分で倒すことが、もし――できたら、それは――最高に楽しいんじゃないかと。

 なによりゲームである以上……楽しむ心を忘れてはいけない。


 蓮見の口角が上がる。


 俺は――。


 まるで誰にいうわけでもないのに力強く。


「俺は今日と言う日を最高の一日するために、ここにいる。だから俺。お化けが恐いなら一掃したその先に混浴と言う名の桃源郷があると思え。そして恐いなら全て業火で燃やせ、昨日の俺は少なくともできた。そして――」


 ブツブツと独り言を言い始めたレッド蓮見。

 熱くなった闘志。

 それに応えるようにして真っ暗だった視界が色を取り戻していく。

 まるで大事な何かを忘れていた主人公の目覚めのように。

 心境が変化した蓮見。

 それは何かの前触れなのかもしれない。

 部屋の空気が変わり始める。

 それはブルーとイエロー蓮見にも伝わる。

 そして――。


「……ん? やっぱり誰かいるわね。この気配は――ッ?」


 戻って来た景色は色鮮やか。

 ニヤリとなにかを確信した朱音を見て蓮見もニヤリと微笑む。

 もう弱気な蓮見は何処にもいない。


「俺はアサシンになる事をやめ、桃源郷見放題の神になることここに誓う。行くぜ!!!」


 蓮見いきなり声を大にして混浴風呂で恥じる女の子を見る変態男になると宣言。

 失礼。

 桃源郷の神になると宣言しながら勢いよく物陰から飛び出る。

 そして――。


「さぁ、始めようぜ! 俺との熱い夜をな!」


 と、宣言した。


「ふふっ。やっぱりいた、ダーリン♪ 会いたかったわ♡」


 目の前に探していた人物がいて喜ぶ朱音。

 だがその表情から笑みが消えるまで数秒とかからない。

 回し蹴りで飛びかかってきた蓮見を蹴り飛ばす朱音。

 だが追撃はしてこない。

 なぜなら書物庫の天井は破壊され、蹴り飛ばした蓮見の背後には神災竜となった二人の蓮見がいた。

 逃げ腰ではなく何処か強気な神災戦隊につい武者震いしてしまう朱音。


「まさか……目を合わせただけでダーリンに畏怖するとは……面白い♪」


 予期せぬ展開に構えをとる朱音。

 それを読んでいたと言わんばかりに。


「悪いが俺には俺のやり方がある! やるなら盛大に! 派手に! そして景気良くってな!」


 そう言ってブルー蓮見の頭上に登りアイテムツリーから金属の欠片と聖水瓶さらには火炎瓶、酸素瓶、水瓶も一緒に放り投げる。


「里美と一緒に相手してやるよ、お母さん♪」


 火炎瓶は床に着地と同時に瓶が割れ燃料に引火し爆発。

 聖水瓶が割れるとすぐに引火性の燃料が着火し火力をあげ、鍛冶屋などで使われる武器強化アイテムで比較的に融解しやすい金属の欠片はすぐに融点を超えとけ出す。そこに酸素瓶が割れ炎の燃焼材料が混入後、水の状態変化と同時に膨張も始まる。


 そこに騒ぎを聞きつけた美紀が大急ぎでタイミング良く戻ってくる。


「あっ! やっぱり里美ちゃんセンサー正しかった! ここにいたんだね! 紅!」


 状況がわかっていないだけに視線が神災竜頭上のレッド蓮見に即座に向いた美紀を見てレッド蓮見がニコッとする。


「あぁ。だから今から一緒に遊ぼうぜ! もう俺は誰からも逃げも隠れもしないからよ! 俺と熱い時間を過ごそうぜ、二人共!」


 直後――。

 神災竜の目の前で。

 朱音と美紀の目の前で。


 が起きた。

 周囲を巻き込み廃墟となった館を百メートル程度吹き飛ばした神災の始まりイベント三日目を意味していた。

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