第433話 一難去ってまた一難
――ガチャ
再び扉が開き、今度は――。
「だぁ~りん♪ 今夜はまずこっちの世界で私と遊び……ましょう。ってあれ? えっ? いないの!?」
と愉快な声が聞こえてきた。
一難去ってまた一難。
とは正にこの事だろう。
この絶妙なタイミング。
いや計算されたようなタイミングに蓮見は心臓が止まるかと思った。
「私の乙女センサーだとこの近くにいるはずなんだけど……あれ?」
どうやら自分の勘に疑問を抱き、小首を傾ける朱音。
だけど蓮見は「なんだよ、乙女センサーって……完全に俺をやりに来ているだろう……」と心の中で返答する。
「……むぅ。狙った男は逃がした事がないのに……」
頬っぺたを膨らませてどこか納得がいかないご様子の朱音。
それは蓮見から見たらいつもなら可愛い、と思うかもしれない光景。
だが今は違う。
可愛くてもその手に持ったレイピアが朱音が既に戦闘態勢であることを証明しており素直に可愛いとは思えない。というか、普通に恐い。
恐らく蓮見が絶対にここにいるという自信があったのだろう。
如何なる不意打ちにも対応する為に持たれているであろう右手のレイピア。
それがなによりの証拠。
その剣先で貫かれるかもと思うと全身の冷や汗が止まらない。
まだテンションが高い方とは言えエンジンが温まっていない蓮見には荷が重い相手。
どころか、絶対に対峙したくない相手の一人でもある。
ここは居留守……間違えた。
美紀と同じく勘違いをしてもらって上手くやり過ごすしか今の蓮見が助かる道はない。
「追われるより追いたい私だけど……納得がいかないわね……ったくもぉ!」
納得がいかないのはこっちもだと思う。
美紀に続いて朱音までが妙にノリノリでやってくるなんて聞いていない蓮見の心臓にとっては悪すぎる展開。なんなら今すぐにログアウトして現実世界に逃避行したい。だけど二日目で世界からの愛に応えた蓮見は世界と別れることを許されない。なのでここは耐えるしかない。
「……ん? 待てよ、もしかして実はここに居て隠れているとか? ったくもぉ~ダーリン仕方がないわね。シャイなら最初からそう言えばいいのに~」
勘が良い。
そう思わずにはいられない。
扉から離れ書物庫の中を物色し始めた朱音。
このままでは見つかるのは時間の問題。
扉付近から物色をしてくれているのが不幸中の幸い。
今なら部屋の奥の方に隠れていることから考える時間がある。
蓮見は考える。
朱音が物色し背中を見せているうちに三人同時に飛びかかり背後からのKillヒットで上手く倒せないかと。
だけど相手はプロ。
気配を消し仮に近づけても成功するかしないかで考えれば難しいと言えよう。
プロ相手に素人が勝つ。
口では簡単に言えるがそれを実行し実現させるのはとても難しいこと。
それはバカの蓮見でもわかる。
だから迷ってしまう。
背後から奇襲を仕掛けるのか、このまま何もせず天に今後の運命を任せるのかを。
なにより――。
ここから運よく朱音の隙を伺って外へ逃げても――。
外には――。
そうだ。
先ほどこの部屋を出て行かれたあの人がいるかもしれない。
時間的にも恐らく朱音はその人と違う方向から来たのだと考えられる。
つまりは――。
逃げた先に小悪魔スイッチが入った美紀がいる可能性だってあるのだ。
蓮見は知らない。
今美紀が何処に居るのかを。
故に――。
逃げるにしても一体どこへ逃げるが正解なのかそれがわからない。
違う。
――全部わからない。今この瞬間どうするが正解なのかが。
普段使わない脳内回路を限界ギリギリまで動かして考える。
そして蓮見はある結論を脳内で導き出した。
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