第411話 寝起きと予兆
「あっ? ダーリン? 寝てた? ごめんね、おはよー!」
そんな元気の良い声が蓮見の耳だけでなく、スマートフォン越しに美紀の耳にも聞こえてきた。
「……えっと、なにか御用ですか?」
寝起きで頭が回ってない蓮見は脳内に???を沢山作る。
そして視界の先で動く影がチラッと見えたので視線は影、耳はスマートフォンへと向けた。
もぞもぞと動く影は徐々に輪郭をあらわにし、それが美紀であることがわかった。
(やべぇ……今日は美紀が家に来る日だった……)
背中に冷や汗をかく。
あはは、と苦笑いすると、美紀がニコッと微笑んでくれる。
「なに? 用がないと掛けちゃダメなの?」
むっ、とこちらも少し機嫌が悪くなったような気がする。
普段の蓮見では女の子の些細な変化など気付くことはない。
だが、今日だけは違った。
このままでは片方だけでなく、両方からなにかされるだろうと。
それは嫌らしい意味などでなく、生命の危機すなわち蓮見の心臓と呼ばれる臓器が活動を止める日になるかもしれない、と少し大げさだがそう思った。
ので、寝起きの頭は脳内回路を焼き切る速度でこの状況を乗り切る答えを模索し始める。
「そうじゃないです。ただ寝起きなのでまだ頭がですね……ぼっーとしてるんです」
「あー、そうゆうこと! ふふっ、御冗談がお上手ね、ダーリン」
勘が鋭いらしく、蓮見の言い訳は秒で見破られた。
「まぁ、いいや。どうせいい夢見てて起こされたから機嫌が悪いって感じでしょ? いい夢見れて幸せね」
「……なんでわかったんですか?」
「そりゃー、誰だって気持ち良く寝てた所を誰かに起こされたら多少はイラっとするからよ。私だってするわよ?」
「なるほど。それで今日はどうしたんですか?」
平然を装いながら、ベッドから起き上がった蓮見は美紀に頭を下げ、もう少しだけ待っててと目で訴える。
それを見た美紀がゆっくりと首を縦に動かし頷くのだが、全身を支配されたようなおぞけが走るような寒気は一体なんなのだろうか。
もしかしたら、この電話が終わるときが美紀の怒りの爆発の合図にでもなるのだろうか。だとしたら、今すぐ逃げたい。だけど、逃げると言っても何処に逃げれば正解なのかわからない蓮見は逃げる事を諦め、大人しく朱音の要件から終わらせていくことにした。
「あー、そうそうそうだった。来月(八月)暇な日ある?」
蓮見は考える。
予定はなにがあったかと。
…………。
………………。
「えっと、毎日暇ですね」
まだ少し残ってる夏休みの宿題がどうにかなると確信している蓮見。
そんな蓮見を夏休み縛る物はなにもない。と思いたい。
実際問題目の前の可愛くて笑顔が素敵で胸が大きくてお尻がふっくらとしていて女の子らしさしかない幼馴染の女の子を除けばの話ではあるが。
「ならちょうどいいわ。来月娘達を連れて海行くから、イベント中に約束もしちゃったしダーリンもおいで。金銭面は心配しなくていいからさ」
「ん?」
「んでね、――――」
朱音は楽しそうな声で話しを続ける。
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