第405話 【異次元の神災者】と見習い神災者のピンチ


「良し! この辺でいいとおも……う!」


 今度は身体の向きを百八十度変える。


「しっかり捕まってろよ、二人共!」


「……ん?」


「はーい♪」


 とにかく慌ててしがみつき直す美紀と一人美紀の倍以上超強力吸盤を装備したエリカが愉快に返事をする。

 直後ジェットコースターを連想させるも、それすら超える重力が三人の身体へと掛かり始めた。


 ――急降下


 それによって飛んでくる攻撃を自ら受けに行くことになる。

 蓮見のHPゲージがついに半分を切り赤色にまでなっていくがそれでも止まらない。

 HP減少に合わせ火事場系統のスキルが自動発動し水色のオーラが蓮見の身体に纏わりつきステータス強化が大幅にされる。

 巨大な図体だけに体当たりすれば敵プレイヤーはいとも簡単に吹き飛んでくれるため障害にすらならない。障壁で壁を作られ行き道をふさがれても最早全身砲弾となった蓮見の前では薄い壁程度にしかならず簡単に破られる。それもそうだ。彼の眼にはテクニカルヒットポイントとKillヒットポイントが見えているのだ。どんなに凄く厚い壁があったとしてもそこにピンポイントで突撃すれば頭突きにより無へと変えるのだから。化物となった蓮見を止めるのは容易ではない。


「ウォォォォォ!」


 蓮見が雄たけびを上げ息を吸い込み火炎を吐き出す。

 火は蓮見の真下へと飛んで行くと同時に火を上回る速度で蓮見が急降下しているために蓮見の身体を燃やし始める。だけど火耐性が完璧の蓮見にとっては身体に火が纏わりつき全身砲弾が強化された程度でしかない。


 最早炎の弾丸となった者――化物を正面から止めれる者はいない。


 あの優香ですら恐れをなして化物に道を譲ったぐらいに今の蓮見は敵からしたら恐ろしい存在。


「あつぅいーーー!」


「きゃぁぁぁ私の心が燃えてる~」


「じゃなくて本当に燃えてるのよ! このばかぁ!」


 幾ら蓮見には影響がなくても火耐性(大)の美紀とエリカは徐々に減っていた。

 だけどここまで来たら最後まで付き合うしかない。

 化物に乗車した以上途中下車はできないのだから。

 眼前に攻めりくる地面。

 その距離体感にして三百メートル。

 このままでは後数秒で衝突するだろう。

 地上にいて、化物と優香とそれを追うプレイヤー達を見上げていた者達が危機を感じて逃げ始める。

 それでも蓮見は臆することなく地上へと落下していく。


「……止まれるかな」


 そんな不安を呟くと。


「え? 嘘よね? ねぇ、はすみ?」


 つい本名を口にしてしまう。

 それだけ心臓がドキドキし心に余裕がなくつい悪い癖で咄嗟にリアルの方の名前がポロっと出てしまったのだ。

 今一番欲しい言葉である大丈夫が聞きたい美紀。


「きゃぁぁぁー楽しいぃぃぃぃーーーー!」


 その隣にいるエリカは化物ジェットコースターを楽しんでいる。

 この信頼と言うべきか化物ジェットコースターに対する安心感は一体どこから来ているのだろうかとても不思議である。


「愚問だな。落ちる時は落ちる以上。ってことで俺様全力――」


「ちょっと待って----なにその諦めは!?」


「――シリーズど根性!」


 ただの気合いと根性でこの状況を打開しようとする蓮見を見た美紀がついに言葉を失う。

 迫りくる紫色の浅い湖を背にして折りたたんでいた羽を勢いよく広げ水平飛行へと切り替える蓮見。

 落下による速度を利用した加速に追ってが一時的に離されていく。

 だけどそんなのは一時的に過ぎない。

 しばらくすれば落下で得た加速力がなくなり、今度は追っ手が水平飛行をして加速してくるだろう。

 そうなれば必然的に図体がデカい蓮見が四方八方から狙われて負けてしまう。

 もしかしたら向こうの狙いが優香である可能性も否定できなくはないが、敵の狙いが優香だけとは限らない以上ここは慎重に判断していく。


「愛でブツが飛んでくるぅ~俺のむぅ~ねに落ちてくるぅ~熱い心鎖でつないでも今は無駄だよ~邪魔するやぁつは爆発一つでダウンさぁ~♪」


 火を吐く(スキル:火炎の息)のに足りないMPゲージを歌う事で回復する蓮見。

 そして大きく息を吸い込み、急停止と同時に身体を反転させ空中浮遊による静止。


「グォォォォ!」


 そこから勢いよく放たれた炎は一直線に飛んでいき優香へと向けられる。

 炎は形がない。

 Killヒットはされない。

 炎によるダメージはなくてもブレスによるダメージは少なくとも通る。

 そう思ったが急降下してくる優香はそれを難なくギリギリまで引き付けて躱す。

 首を動かし炎を横へと動かしていくが、それは優香だけでなく炎の軌道に居たプレイヤー達からも躱されてしまう。

 さらに息を強く吐き出し炎の火力をあげる蓮見。

 MPゲージがなくなっていく。

 決まればそこそこに強いスキルはやはり燃費が悪いと美紀とエリカが見守る中、蓮見は最後まで諦めない。


「援護するわよ! スキル『ライトニング』『巨大化』!」


「オッケー! スキル『冷たい吹雪』『ウインドウアタック』!」


 そんな蓮見を遠くから狙おうとする者達を美紀とエリカが遠距離攻撃で阻止する。

 だけど数が違い過ぎる。

 こんなのはあってないようなもの。

 そんな二人の心の焦りに鼓動してこちらも勝負を急ぐ蓮見。


「グオオオオオオオオオオオオオオ!」


「ふふっ。邪魔する者は消します『虚像の発火』『猛毒の捌き』!」


 優香が蓮見の炎をかいくぐりイベント攻略を狙うプレイヤー達へと攻撃していく。

 だがそれでも全員が全員、優香を狙っているわけでもない。

 この機会に【異次元の神災者】も一緒に倒そうと欲張りさんはやはりいる。


「マズイ……このままじゃ紅のHPが底を尽きる」


「なら回復させる?」


「グオオオオオオオオオオオオオオ!」


 炎を吐き出し続ける蓮見は返事ができない。

 蓮見の今の火力を減少させてまでHPゲージを優先するべきなのか。

 そこに美紀とエリカが迷いを見せる。

 仮に回復されても火力不足では今も参戦し増え続けるプレイヤー達から一斉に狙われたらどうなるだろうか。

 だけど回復させなければもうじき蓮見のHPゲージが底を付きてしまう。

 今も徐々に減っていくHPゲージは風前の灯。


「押せ! 【異次元の神災者】は後少しで倒れる!」


「優香のHPゲージも三割切った! あと一息だ!」


「神災者は全員ここで倒す!」


「今こそプレイヤーの力を一つにまとめる時だ!」


 一致団結する集団に舌打ち。


「仕方がありませんね。まずは邪魔者から消しますか」

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