第406話 【異次元の神災者】VS見習い神災者


 優香のHPゲージが三割を切った事で蓮見と同じ水色のオーラ――『風を超えて』が発動しAGIが一・五倍になった。

 正に神災には神災をという運営が意図した通りここからの優香は強かった。

 敵プレイヤーを翻弄しKillヒットの連発はまさに百発百中と見た目は派手さに欠けるがとても強力で他のプレイヤー達に恐怖を与える。


「とりあえずこれであらかた片付けるとしましょう。スキル『覚醒』『猛毒の捌き』『水振の陣』『罰と救済』『虚像の発火』!」


 蓮見の全力シリーズである水爆を超える水爆が上空で爆発した。

 水蒸気は優香を狙っていた多くのプレイヤー達の視界を悪くし狙いを悪くする。

 だけど神眼を持つ優香には蓮見と同じく関係のないこと。

 そして蹂躙は始まる。

 背中を見せたプレイヤー達に猛毒の捌きによるKillヒットがなされ立ち向かう者達には優香が別で攻撃し天へと帰す。

 正に小百合の力を継承し神災の力も継承した彼女に多くの者が恐怖し始めた。


「さぁ次は未だに明後日の方向に火を吐く貴女達です!」


 直後MPゲージがなくなった蓮見の口から炎が止まる。


「へへっ。次は俺達が力を合わせる時だと思わないか! ってことで俺は全回復だ! お願いします里美様、エリカ様!」


 美紀とエリカが持つ『回復魔法(ヒール)Ⅱ』が蓮見のHPゲージを回復し全回復する。それにより火事場系統のスキルと水色のオーラが効果を失い消滅する。


「……ん? 雨?」


 視界が悪い。

 そこへ水滴が肩に落ちてきた。

 それは一滴や二滴ではない。

 それになぜかとても熱い。

 だけど熱耐性も完璧な優香にとっては雨水と変わらない。

 何滴かまとまって点々とした特定の箇所から落ちている。

 その場所とはエリカが金属の塊を投げたあたり。


「そう言えば塊はどこに?」


 水滴は今も落下し地面へと向かって落ちている。

 呟いた直後。

 優香の目の前を融解し溶けだし、とても小さくなった塊が一つ落ちて行った。


「――ッ!?」


 なにかに気付いた時には既に遅い。

 蓮見が焦る優香に接近し大きな爪が生えた手でその小柄な身体を掴む。


「やっと油断したな。なら俺とドキドキパラダイスの時間だぜ!」


「――クッ。離して……離せ……このっ!」


 離してと言われて離すものなどいようか。

 否ッ――いるわけがない!

 そして水滴と一緒に紫色の湖へと突っ込んでいく。

 当然水滴の方が物理法則に従い早く落下する。

 なので全力で頭から突っ込んでも落下死はない。

 そのため最速で小柄な優香を握りしめて急降下していく蓮見。

 その頭上では急上昇から急降下にしがみつくだけでやっとの美紀とエリカの姿が見える。


「これが俺の全力シリーズだぁーーーー!」


 そう言いながら優香を全力で地面へと回転させて投げつける非情な化物。

 急に身体へとかかる重力と乱回転による遠心力の負荷により飛行はおろか態勢すら整える事ができない優香は空を切り裂く音と共に落下していき、非情な化物は逆に急上昇し雲の上をめざして飛びたつ。


 そして言葉が意味する通り湖の中に高温で溶けた金属の液体がほぼ同時に色々な所で落下していく。それと同時に超高温状態となった小さくなった金属の塊も混入(落下)。それによって水の体積は水爆とは比にならない速度と量で体積を膨張させていく。


 正に蓮見の奥の手の一つと呼べるそれは――。


 海底火山の噴火による水蒸気爆発を連想させるぐらいに凄い轟音を鳴らし、凄まじい衝撃波を生み出し逃げ遅れたプレイヤーを含みその周辺にいた全員を吹き飛ばし殺傷する。が美紀とエリカだけは蓮見にしがみつきデカい図体を盾にすることで耐えていた。ただし意識を保つのに精一杯で余計な無駄口を叩く余裕はない。


 水蒸気爆発により今度は強引に身体が宙に凪ぎ飛ばされた優香。

 身体はまだ乱回転しており視界が定まらない。


「……ダメージこそありませんでしたが……頭がかち割れそうなぐらい痛い……」


 それからチラチラと何度か見えるフィールドは何とも形容が難しく、正に地獄――インフェルノ……。


 そして忘れてはいけない。

 そうだ。

 あの男はまだ生きていると。

 なにより忘れてはいけない。

 かつて、小百合は。

 この光景を目にして絶望したことを。

 勝負には勝った、だが姉が畏怖した事実を忘れてはいけない。


 正に絶妙なタイミングと言うべきだろう。一人水蒸気爆発の爆発から逃れその爆風を利用し加速し上昇からの急降下を始めた化物――【異次元の神災者】が今度は天高い所から無防備な少女を見下ろしていた。


「悪いな。俺も未来(夏休みの宿題)がかかっているんだ。こんな所で負けてられないんだよ」


「……ッ!?」


「これが俺の真骨頂! 俺様全力シリーズくれないくーんーキック!」


 巨大な足で落下優香に蹴りを入れ、そのまま地面まで一直線。

 落下ダメージが優香を通して蓮見にくるがHPゲージが満タンな為、『不屈者』が発動し一残して耐える。

 そのまま巨大なクレーターを作り荒れ果てた大地を真っ二つにする勢いでキックを決めた化物は優香から距離を取る。


「いてぇぇぇぇぇえええ!」


 最後まで格好が付かない化物を余所に優香が立ち上がろうとするが、既にHPゲージはさっきの落下ダメージと物理ダメージにより底を付きていた。


「はぁ……はぁ……お、お見事です。こ、……ん……かいは……わぁ……はぁ、……はぁ、たしの……はぁ、……ぁ、ぁけです」


 最後は光の粒子となり優香が消えていった。

 すなわちイベントクリア。

 本来ならばこれで大喜びの三人だったが、蓮見は足が痛いためにそれどこではなく、美紀とエリカは強制重力負荷ジェットコースターが好き勝手に動いたために泡を吹く手前で意識をぼっーとさせておりそれどころではなかった。

 周りにいたプレイヤー達は水蒸気爆発に巻き込まれ全員死亡し、ガス欠寸前の三人を倒す最高のチャンスにも関わらず誰もいない。少なくとも半径数百メートルは焦土と化したのだ。不用意にその中心地にいる化物――蓮見に近づこうとは誰も思わないだろう。イベント限定アイテムその正体は――。


 こうして蓮見は未来の切符と引き換えになにかを得て失うことが確定したのだった。


 やはりと言ってもいいことに、またしても新しいイベント提示板が作られた。

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