第404話 世界滅亡へのカウントダウン


 真っ赤な炎の中に見える人影二つ。

 一つは美紀。

 もう一つは優香である。


「主が警戒する最大の敵がようやく本性を見せましたか」


「そうね。てかアンタ火の耐性もちゃっかりあるのね」


「まぁ。私達は姉妹ですので小百合お姉様のスキルは基本受け継いでおります」


「ふ~ん。だそうよ、紅。行けそう?」


 その問いかけに化物が口を開き頷く。


「あぁ。要は全てを爆破すればいいってことだな!」


 人でいることを止めた化物は嬉しそうに言った。


「…………ッ!?」


「…………ん~今のテンションだと普通そうなるわよね」


「…………」


「…………」


 こんな所で化物が本気で暴れだしたらただでは済まない。

 ダンジョンは崩壊し、近隣の森は灰となり、地は荒れ果てるだろう。

 だけどそんなことは一切関係ない。

 蓮見の行動信念の一つは全力。


「里美!」


「OK! 援護する! 思いっきりいきなさい!」


「おう!」


 化物が大きくジャンプして力強く握った拳を地面へと叩きつける。

 大地が雄たけびをあげへこむ。

 それを躱した優香に今度は美紀が攻撃。


「スキル『連撃』!」


 通常攻撃との合わせ技で相手に次の一手を予測させない美紀。

 そこに化物が尻尾を大きく振り回して優香を狙う。


 ――ブォォォン!


 空を切る音が聞こえるもこれも当たらない。

 だが尻尾の一撃を回避するため膝をつけてしゃがんだ優香に美紀の攻撃がようやくヒットする。


「きゃぁぁぁぁぁッ!!!」


「あら、アンタそんな可愛い声あげるのね」


「う、うるさい。スキル『罪と罰』『猛毒の捌き』!」


「これは紅の……紅!」


「任せろ! 俺のの全力シリーズ超新星爆発を見せてやるから安心しろ!」


 蓮見の大本命でありその技から逃れれられた者はいない。

 故に美紀の『デスボルグ』や『破滅のボルグ』が絶対不可避の技とするなら蓮見の絶対不可避の技は『超新星爆発』と言える。

 なので――その言葉に二人が即座に反応する。


「ちょっ! ちょ、ちょっと待って!」


 美紀がスキル『アクセル』『加速』を使い化物の足元まで行き二段ジャンプを使って背中を物凄い勢いで駆けのぼっていく。

 それと同時に優香は上空へと飛翔し空へと逃げる。


「エリカ、私にも吸盤頂戴!」


「え~どうしようかな~」


 意地悪をいって美紀を困らせるエリカ。


「バカ言ってないで早く!」


 だけどそんな冗談を言っている暇はない。


「はいはい。どうぞ」


 アイテムツリーから取り出した超強力吸盤をエリカから受け取った美紀は急いで装着し化物の頭にへばりつく。そして化物も空を飛び、飛んでくる毒矢から必死に逃げる。大きな翼を動かし巨大な図体でありながらその動きは俊敏で緩急をつけ飛び回ることでなんとか躱していくも全ては避けきれずに徐々に減っていくHPゲージ。


「紅? 大丈夫?」


「紅君!? ポーションいる?」


 心配する二人。


「いててっ……なんとか大丈夫です」


「優香が後ろから接近してるわ!」


「だ、大丈夫です。後少しなんで……」


 そのまま攻撃を躱しながら逃げる化物はあまりにも大きすぎるためにどこかに隠れる事もできない。とにかく今はKillヒットとテクニカルヒットに気を付けて大空を飛翔する。それを偶然にも見かけたプレイヤー達がなにを思うかは差し置いて化物は高度を下げて低空飛行で飛んでいく。


「この先は精霊の泉……」


「マズいわよ! このままだと精霊の泉にいるプレイヤー達からも狙われるかもしれないわ!」


 美紀とエリカの心配を余所に化物は答える。


「それでいいんです」


「それとエリカさん?」


「なに?」


「合図したら要らない金属の塊を空中浮遊できる形で適当にばら撒いてくれませんか。それと精霊の泉についたら聖水を無作為にばら撒いて欲しいです。ツケは里美で構いませんので!」


「はーい! なら採算度外視で構わないわね!」


「ちょっと待ちなさい! なんで私がくれ……化物の代金を払わないといけないのよ!」


「「幼馴染だからに決まってるだろ(じゃない)!」」


「……後で覚えておきなさい。二人共。特に紅!?」


 頭に槍を突き立てられたのか頭部がチクッと痛みを覚え、背中は恐怖にゾクッとしたが今さら後に引けない化物はゴクリと息を呑み込んだ。

 身体は大きくなっても中身は変わらない蓮見。


「まぁ、まぁ、もう着くし。ここは仲良く行きましょう」


「アンタねぇ~他人事だと思って……」


「まぁいいじゃない。ってことで着いたらこればら撒いて頂戴」


 エリカから受け取ったかなりの数の聖水の瓶を見て美紀は何かを諦めたように呟く。


「一応言っておくけど折版だからね」


 念を込めた言葉にエリカが聞こえない振りを始める。

 どうやら反応したら負けだと思っているらしい。

 化物の頭の上でそんな事を二人が話しているとついに精霊の泉へと到着する。

 と同時に化物が高度を上げ急上昇。

 それを追いかける優香と――。


「ちょ。なんか沢山の人(プレイヤー)が追いかけてきたんだけど!?」


 沢山のプレイヤー達。

 彼らの狙いが優香なのか化物――蓮見なのかはわからない。

 それでも嫌な予感しかしない。


「いたぞー! 多分あれがイベントのNPC? だー!」


「アイツを追えーーー!!!」


 アイツってどっち? となにも知らない人から見たら言いたくなる光景に蓮見が合図を出す。

 すると美紀が聖水の瓶を放り投げ、どさくさに紛れてエリカも放り投げ始めた。

 当初予定していた倍を超える量に。

 エリカの表情は明るく、美紀の顔は青ざめていく。

 当然逃げる事に必死の蓮見はそんな事に気を回している余裕はない。

 ただ太陽を目掛けて高度を上げていくだけ。


 次の合図を貰ったエリカが大きめの金属の塊を数個放り投げる。

 その金属の塊にはなぜかパラシュートが付いていた。

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