第403話 俺様全力シリーズ発動


「なら俺もギア上げていきますか!」


 勝負を見守っていたエリカがそれを聞いた瞬間ニヤリと口角をあげ微笑んだ。


「きた! 私の心を存分に満たしてくれる時間が」


 岩陰に隠れガッツポーズ。

 それからアイテムツリーを広げて、


「ふ~ん、ふ~ん、ふ~ん。今日はなにが起きるかな~楽しみだなぁ~♪」


 と嬉しそうに呟やいた。


 当然そんな事を知らない蓮見はいつも通り有言実行。

 歌を歌い始めた。


「はげしく揺らぐ渇いた心~限界と葛藤の中ぶつかり合う~」


 直後美紀と優香が激しい攻防の中で何かを感じ取ったように攻撃のペースをあげ始める。


「もう一度だけでいい~奇跡起きてよ~過去を凌駕する前人未到の力を~」


 それに合わせて蓮見も援護射撃のペースをより速く正確になっていく。

 だけどここで美紀が一瞬目を閉じ動きを止める。

 それは優香から見たら大きな隙だと思ったのだろう。


「諦めましたか? スキル『虚像の発火』!」


 一本の矢が放たれた。

 それも至近距離から。

 反応が遅れた蓮見に美紀を助ける術はない。

 だけど美紀が閉じた目をゆっくりと開けた瞬間。

 蓮見の身体がゾクッとし鳥肌が立った。


「行くよ、本気で」


 あろうことか飛んでくる矢を首を傾けるだけで顔色一つ変えずに避けた美紀は不敵に微笑み再び動き始める。


「ん? 躱した。諦めたわけではないのですか」


「当たり前!」


「動きに無駄がなくなりましたか。それでも私に勝つのは不可能ですよ、スキル『覚醒』!」


「そんなのやってみないと分からない! スキル『アクセル』『パワーアタック』!」


 口は動かしながらも激しい攻防を繰り返す美紀と優香。

 それを見た蓮見が確信する。

 美紀が集中し本気になったと。

 そしてこの状況を楽しんでいるのだと。

 ならば俺も負けてられないとこちらも頑張る事にする蓮見。


「仲間を信じる心~安らぎと未来探して~瞬きできない~奇跡を今こそ起こす~」


「あの歌……MP回復の効果があるのですか」


「チラチラとさっきからよそ見とはいい度胸ね! スキル『連撃』!」


「えぇ。弓は矢を放つ道具ではありません。時に私を守る盾となる」


 美紀の連撃を途中まで躱し最後は弓で受け止め右足を軸に回転蹴り。


 ――!?


 予想外の攻撃に美紀が蹴り飛ばされてしまう。

 が、今度はこちらが予想外という顔を見せる優香。


「そうだよな! ってことで覚悟!」


 矢を手に持ちゼロ距離からの突き刺し攻撃に優香の身体に赤いエフェクトが出る。


「はい!?」


「矢だってなこうすればダメージを与えられるんだよ!」


 虚をつかれたために反応が遅れ後手に回った優香。

 このチャンスを逃すまいと蓮見が攻撃へとでる。

 鏡面の短剣を素早く複製し棒状にして持ち、スキルによるコピーでの追撃。


「スキル『連撃』!」


 だが。


「腕のないスキルは軽いし隙が多いと知りなさい! スキル『竜巻』!」


 優香を中心に突如発生した風に蓮見の攻撃は強制的に無力化され身体を吹き飛ばされてしまった。

 だけどここでビビっていては勝てるものも勝てない。

 やると決めたからには最後まで全力で頑張るしかない。


「大丈夫?」


「あぁ、なんとか。そっちは?」


「私もなんとか。でも気付いた?」


「なにを?」


「私の猛攻でも中々ダメージを与えられないぐらいに向こうの反射神経が高いの。まるで不意打ち対策はバッチリと言いたいぐらいに向こうの反応速度が速い。その分攻撃力は低いんだけど下手したら一撃死がある攻撃をどこかの誰かさんとは違ってこっちが油断した時に狙ってくるってこと」


「……それ、俺遠まわしにバカにされてない?」


「てへっ」


「……あーもう! わかったよ! なんとかすればいいんだろ!」


 何気にからかってくる美紀に蓮見の理性の鎖がバキバキと音を鳴らし不安定になりはじめる。

 こうなったらやけくそだ!

 と蓮見が心の中で思ったからだ。

 理性の鎖それは神災が起きない言わば蓮見の中での制御装置のようなもの。

 それが音を鳴らして次々と千切れていく意味を正しく理解している美紀は蓮見を逆手にとった。幼馴染だからこそ相手の事はよく知っている。だから蓮見をどうすればどうなりどうしてあげたら喜ぶかも当然知っている。言い方を変えれば美紀にとっては恥ずかしいのだが歌わずして強制的にある程度ハイテンションにする方法も。


「うん、ってあれエリカが消えたわね……。ならちょうどいいか。はい前払いのご褒美だよ♪」


 蓮見の頬っぺたに柔らかい女の子の唇が触れた。


「エリカには内緒。それと恥ずかしいからなにかを聞くのは禁止」


「え? でも里美?」


「いいから、前だけを見て。それと余計な事聞いたらもう口聞いてあげないから」


「……まぁいいや。俺としてはラッキーだったし。ってことで俺様全力シリーズ行くぜ!」


 単純な性格のために本調子となった蓮見。


「させませんよ。スキル『猛毒の捌き』!」


「悪いけど私を甘く見ないで! 『アクセル』『デスボルグ』!」


 槍を投擲し攻撃からの短剣を抜き正面から飛んでくる矢の迎撃。

 一連の動作で蓮見に時間を作ってあげる美紀の顔はとても柔らかく楽しそう。

 その後方で蓮見は叫ぶ。


「行くぜ! 俺様全力シリーズ第二戦闘形態、スキル『幻闘者』!」


 すると蓮見の身体を眩しい光が包み込む。

 それから眩しい光が太い柱のように天へと伸びていくと、その柱の中から化物が出現した。

 それは二足歩行で歩き、腕が二本あるが先端は鋭利な爪となっている。

 身体が大きくダンジョンの中で収まりが効かないため、天井を破壊した化物。

 顔には二本の角が生え黒光りする大きな羽が左右にあり飛行も可能。


「あっ! 落ちないように超強力吸盤装備したから乗せてー乗せてー!」


 そんな化物へ嬉し気に一人場違いな声を出しながら姿を見せるエリカ。すると、化物は尻尾をエリカの身体を巻き付けて投げ飛ばし頭上へと持っていく。


「おっ、ナイスコントロール。もう一生離れないから好きなだけ暴れていいからね!」


 吸盤でしっかりと身体を固定していくエリカ。


 化物が本格的に動く前に優香が矢で攻撃するも化物が大きな口で息を吸い吐き出したためにその攻撃は全て届かない。化物は首の骨をポキポキと鳴らしてから身体の感触を確かめるために手を開いたり握ったりする。


 確認が終わると大きく息を吸いこんで吐き出す。

 だけど今度は吐き出すだけではなかった。

 優香に向かって吐かれたそれは真っ赤な炎。

 一瞬にしてボス部屋ダンジョンを真っ赤に染めた。

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