第400話 純粋な欲望が世界を救う?
「ここは一体……」
蓮見が不思議に思い部屋全体に視線を飛ばす。
そこには薄い本から辞書と変わらない厚みの本まで多種多様でそのジャンルもタイトルから察するに様々。
「まぁ物は試しで『女子からモテル秘訣』と書かれた本から読んでいくか」
美紀とエリカがイベントに関係がありそうな物から読んでいくのに対し蓮見は自分の自己欲求に従って本を読み始める。
読んではなおし、『女心がわかる本』を取っては読む。
それを読み終えると『好きな人に好きな人がいた時の対処法』を取っては読む。
「ねぇ、そっちはどう?」
「うーん。イベントに関係がありそうなことは書いてないわね」
「紅は?」
「うーん。こっちもそれらしいことは書いてないかな」
とそれぞれが美紀へと報告していく。
それから持っていた本をなおし『女性の行動心理』と書かれたタイトルの本を手に取ろうと手を伸ばした時だった。
――ガチャ
本が本棚から抜けない代わりにそれがスイッチとなり何かが動き始める音が聞こえた。
「え?」
「なにしたの?」
「いやなにも……」
近くに来た美紀にタイトルが見えないようにすぐに身体でガードしてとぼける蓮見。
一人違う分野について調べていたとバレた日には恐ろしい。
「それよりこれ何の音?」
「さぁ?」
そうやって悩んでいると部屋の中心部の床に小さい穴が開きそこから一冊の本が吐き出された。それからすぐに穴は閉じてしまい、本だけが置き去りになってしまう。
その本をエリカが手に取り読み始める。それを横から覗き見する美紀。
そんな二人の女の子を見て目の癒しとする蓮見。
――うん、うん、相変わらず二人共胸が大きくて綺麗だよなー
じゃなくて、慌てて視線を上にあげて二人共真剣な表情してるけどこれはこれで可愛いから有りだな。と心の声を急いで訂正しておく。
ふとっしたときに言葉にしてしまうことがあるかもしれない以上自分の身を護るうえで蓮見にとってこれはとても大事なこと。
「えっと……なになに。この世の原初を記録する部屋と記録」
エリカの声に蓮見の頭が痛くなってくる。
なにやら難しい感じの言葉があの本に書かれているかもと思ったからだ。
「汝に問う。善には善、悪には悪、火には火、毒には毒。ならば最強を継承する者には?」
その言葉に蓮見が少ない脳みそを使い考えてみるが残念ながら答えは出てこなかった。
なのでここは頭の良い組に任せて、バカは二人の邪魔をしないように大人しく黙っておくことにした。
「……最強? かな」
「よね。続き読むわ」
「お願い」
「――ある日世界滅亡の刻が来たとする。汝誰が為に戦う?」
「自分のため?」
「私は……逃げるわね」
「アンタね……」
エリカ咳ばらいをして本に視線を戻す。
「――汝戦うべき者のため戦う。それは正義か偽善か? いつの時代も最大の敵は汝自身。ならば汝証明する。それが正義であり汝自身であると。そこに偽りはないと。……後は字が霞んで読めないわね」
エリカが本をパタンと閉じると音に合わせて本が光の粒子となって消えていく。
どうやら一度読んだから消えてなくなるらしい。
でもこれでハッキリとしたことがある。
第一層しかないときはなくて今はあるこの部屋。
そして消えた本と内容から察するに多分これがイベントに関係することだろうと。
それにタイトルも『女性の行動心理』すなわちNPCの行動心理に関係するのかもしれないとこの時珍しく蓮見の勘が冴えた。やっぱり眼福になった後は脳が活性化していていつも以上に頭が回るようだ。だけどタイトル関連の事は聞かれたら別の問題が発生しそうなのでこれは申し訳ないが美紀達には秘密にしておく。諸事情により自身のリアルが掛かっているため下手な事は言えないし言わないように気を付ける。
「紅とエリカはさっきの読んでなにか思う事あった?」
「俺は特に。ただ書いてある内容が難しいということが分かった」
「うん。だと思った。エリカは?」
「う~ん、少し考えてみない事にはなんとも言えないわね。ただこのタイミングで出現した部屋だと仮定する場合イベント関連の部屋であることは間違いないと思うのよね。だからさっきの本がきっとイベント攻略に関係する内容を含んでいるとしたらさっきの内容がそのままイベント攻略に繋がっているのだと考えられるわ。となると問題は――」
「時間との勝負?」
「そう。きっとNPCはもう出現していて何処かに隠れている。いやこの場合待機していると言った方がいいのかもしれないわね」
「なるほど。確かにこの部屋同様イベント開始と同時に出現したと仮定するなら当然あり得る話しね。そんでもって多くのプレイヤーが見落としやすい場所か発見できていない場所が怪しいってわけね」
「そう。ってことで一回リアルに戻って話し合わない? ここだと誰か来て聞かれるかもだし。それに私達がここを見つけたってことは実は昨日あたりから誰かここを見つけていて他の誰かには中々見つけれないだろうってことで黙っているだけのプレイヤーがいるかもしれない。ここは結構な毒対策が出来ていないと来るには難しい場所だからね」
「それもそうね」
「なら一旦ログアウトして私のい……紅の家に集合しましょう」
「「了解」」
こうして三人は一旦ログアウトした。
その後夏休みという事で美紀の家にお泊りしているエリカとその部屋の主にあたる美紀が蓮見の部屋へとすぐにやってきた。
部屋で再集合した三人は話し合っていた。
気付けば時間という物はあっという間に過ぎており、太陽が沈み月が黒い大空を照らしていた。
だけど議論は無駄ではなかった。
その中でわかったことがある。
それは蓮見達がまだ行ってない場所且つ多くのプレイヤーが二つの意味で行きたがらない場所。
さらには本に書かれていた最強の継承者に対峙する者と汝戦うべき者のため戦う。それは正義か偽善か? いつの時代も最大の敵は汝自身。ならば汝証明する。それが正義であり汝自身であると。いう文章。これを統合し一つにするとある答えが出てきた。その場所こそまだ誰も見つけられないとするNPCが存在する場所であると確信に迫ったからである。
「ってことでまだ名前すらわからないNPCは多分××にいると思う」
「確かにその線が一番濃厚ね。なら明日朝一でそこに行くの?」
「うん。本当は今からでも行きたいけど相手の逃亡を考えると夜はちょっとどうかなって」
「冷静な判断ね。夜は暗闇に紛れて逃げられやすいから美紀がしっかりと待てるなら明るくなった朝が一番」
「ってことで蓮見? 明日大暴れしていいからお願いね。私も本気で行く予定だけど逃亡できないぐらいにボコボコのギタンギタンにしていいから! そんでもって限定アイテム皆でゲット! だから!」
(噂で相手も神災を扱うと聞いた以上、実は蓮見以上の適任はいないのよね。でも限定アイテムは絶対欲しいし蓮見と一緒にクリアもしたい!)
「は、はい……」
(まじか……明日行くところ幽霊スポットじゃん……)
「ふふっ。ダメージを与えなくても戦闘中パーティーを組んでいれば誰か一人ダメージを与えて後は戦闘区域にいるだけでパーティーメンバーもアイテム貰えるっていい仕様よね」
(これでカッコイイ蓮見君を思う存分見れるだけじゃなくて限定アイテムもゲットできる。もう最高!)
「まぁエリカさんは戦うよりは生産がメインですもんね」
「うん♪ ってことで頼りにしてるわね」
「は、はい……」
三者三様思う事があったが全員心の声と実際の声は違った。
それでも皆が見てる方向は同じ。
特に蓮見の場合我儘を言える余裕はもうない。
ここで幽霊が恐いのを理由に明日の参加を断り勉強を教えて貰えなくなったらリアルで苦労することになるからだ。それだけは何としてでも避けたい。なので夏休み不安と毎日一人戦い苦しむぐらいなら明日の数時間だけを我慢した方が百億倍マシ。そんなわけから苦手な幽霊スポットに渋々行くことにする。そのせいで今の蓮見は少し元気がなかった。
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