第398話 安堵の運営室に漂う不安の色


 ――運営室。


 第四回イベントが終わり、少しバタバタしていた運営室にもようやく平穏な日々が訪れていた。そこには見知った顔のゲームの運営に携わりその中心人物となっている五人の男女がいた。エアコンの聞いた部屋は快適でコーヒーと和菓子がある。そこに設置された巨大なディスプレイに映し出されたプレイヤー達を見て優越感へと浸っていた。


「なんだかんだイベントの立て続けだったわけだが夏休みってことでひとまずこれで休憩できるな」


 このイベントが終わるとしばらく大きなイベントはない。

 小さいイベントはゲームの人気維持のために行われる予定だが少なくとも七月に関して言えばイベントそのものがもうない。

 故に運営陣からしてみればリリース直後から休む間もなく働き続けた苦労がようやく報われようとしていた。実に半年ぶりの休暇である。本来であればリリース後も交代で休める予定だったのに予想を絶するプレイヤーが一人現れるだけでなく、そのプレイヤーが初心者でありながらサーバー負荷をかける遊び方しかしなかった。そこでそのプレイヤー使うスキル弱体化をすぐに検討するも大人の事情(詳しくは本編詳細)により社長から却下され、お金を出すから働いてくれと言われてしまった五人。その後もそのプレイヤーとのいたちごっこは続き、最終的には……こうして気付いた時には休みなく働いていた。


「そうね。たまには彼氏ともゆっくりしたいしこれが終わったら存分に有給使わせてもらうわ」


「それは構わないが、お前が作ったイベント鬼畜過ぎないか?」


「えー?」


「だって見ろ? 誰もまだクリアどころかNPC――優香(ゆうか)を見つけていないじゃないか?」


「ん? 別に誰もクリアできなくても問題ないんじゃないの?」


「いや大有りだよ! お前自分がこの後休むからってクレーム対応のこと考えてないだろ!」


「でも社長から言われた神災対策はバッチリよ? サーバー負荷軽減のために皆を一箇所に集め、捜索ついでに経験値の少なさと手ごたえのなさから無駄なモンスター狩りをしようすら思えない第一層を舞台、さらには神災を存分に暴れさせて私に見せて欲しいついでに君たちにはっていう――」


「あーもういい。わかった。わかったから」


 ため息混じりに責任者が口を開いた。

 社長の余興混じりのこのイベントは頭を使うように作られている。

 最初はどう見ても頭が弱い【異次元の神災者】がこれをクリアできるのかと考えたが最近ではどう見てもお前頭いいだろう? と言いたくなるようなサポーターが側にいてそのサポーターに劣るとも勝らない女の子も近くにいる。なので何とかなるだろうと考えた運営はこのイベントを頭も使うイベントとして決行した。


「でもぶっちゃけどうなんだ?」


「この調子だとクリアできるプレイヤーが本当に出ないかもしれないぞ?」


「俺もそれ思う。今全部の提示板監視してるけど全然クリアに近づいている気配ないぞ?」


「そもそも謎解きが必要な割には今までと同じ傾向で告知しているからその趣旨に気付かなくて普通だと思うぞ?」


「でも勘の良い奴はもう半日は経つしそろそろ気付くんじゃないか? 俺たちが一部嘘にはならない告知を意図的にしたって」


「そうそう。ぶっちゃけこういうイベントって皆が謙遜して近づかない場所に答えがあったりするんだよな」


 答えというものはいつも答えを知っている者からしたら単純な所にあり、それを探す者からしたら盲点の場所に設置されることが多い。当然と言えば当然だが、その単純なからくりが挑戦者を奮い立たせるのもまた歴史が証明している。物事を簡単に見ればすぐにわかることでも難しく考えれば考えるほどに答えは遠のく。その事実にいかに早く気付くかがこのイベントの仕組み(からくり)となっているのだが、今の所は女が予定した通りに事は進行していた。後は男達の心配が現実とならなければ完璧だ。


「その通りよ。だから心配しなくてもきっと誰かはこの仕掛けに気付くと思うわよ」


「お前がそこまで言うなら信じるけど、まさかこんな方法でイベントを開催するとはな」


「よくよく考えたらサーバー領域を使ってまで特別ステージを毎度作る必要なんてなかったのよ。ただあるものを上手く利用すればそれで事が足りた。それがわかっただけでも今回は大きな収穫だと思うわ」


「それもそうだな」


「それにしても今回はやけに大人しいな【異次元の神災者】」


「……言われてみれば」


「まるで嵐前の静けさだな」


「「「「「……本当に大丈夫だよな(ね)……」」」」」


 一同の中に不安が訪れた。

 その頃モニターの中では美紀を先頭にして蓮見とエリカは魔の森、その奥にあるウルフの縄張りやゴーレムの拠点、骸骨の墓場など蓮見にとっては思い出深い場所を念入りに探索していた。



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