第387話 神災モードVS嫉妬・好奇心


 ――勝つことを諦めた。


 そう、全ての攻撃をその身で受け、真っ当な方法で勝つことを諦めた。

 正面から戦った。

 それもたった数分。

 それだけでこの有り様。

 そして気付いた。


「グハッ!!!! アァァァァッ!!!」


 満タンになっていたHPゲージは七瀬の攻撃を受け、美紀の攻撃を受け、赤色になる。

 嘘だ……。

 そう思いたい。

 だけどこれが現実。

 トッププレイヤー達が手を組んだ時点で正面からやり合っても勝ち目はない。


『やっぱり……俺にHPはいらねぇ……』


 スキルの連続攻撃を受け蓮見の身体からは煙が出ている。

 そして――。


 ――ッ!!


「グハッ!?」


 上空から追撃をしようと爆炎が舞う中へと飛び込んだ美紀の身体が強い衝撃を受けてボス部屋の壁まで一直線に飛ばされる。


「ガォオオオオッ!」


 煙の中から雄たけびが聞こえる。

 そして。


「スキル『火炎の息』!」


 煙の中から七瀬とその近くにいた朱音と向けられた炎。


「ミズナ!」


「わかってる! スキル『導きの盾』!」


 朱音の言葉に七瀬が前へと来て護るように障壁を展開するも、


「あめぇ!」


 火を吐きながら煙の中から勢いよく出てきた化物には接近しながら火を吐き続ける。

 そして、限界ギリギリまで近づくと火を吐くのを止めて、大きな拳で薄い緑色の盾(障壁)を己の拳で砕く。


「残念。ミズナは囮。スキル『爆焔:炎帝の業火』!」


 素早く武器を持ち換えた朱音の攻撃に蓮見は口角をあげて、もう片方の手に力を入れて赤い魔法陣ごと朱音に渾身の一撃を与える。まるで発射前に全てを潰してしまえばいいと言わんばかりの行動に朱音の攻撃が間に合わず殴り飛ばされる。


「お母さッ!?」


 負けて当然という考えに至った蓮見は勝つことを諦めた。

 だからこそ、強い。

 七瀬が叫ぶと同時に尻尾を振り回して七瀬の身体に一撃入れる。

 そのまま尻尾を使い、七瀬の身体を掴んで上空から突撃してくる瑠香へと投げつける。

 当然大切な姉を無視して瑠香が突撃してくるはずもなく、攻撃の手を止めて七瀬を受け止める事にした瑠香へ、蓮見は神災モードになり最速で近づく。


「俺はどうしても水着が見たい! だから許せ!」


 そんな理由を瑠香へと向ける蓮見。


「へっ?」


「俺様全力シリーズ渾身の頭突き!」


 その巨大な図体を利用した頭突きは七瀬を抱きしめる瑠香を容赦なく地面へと叩きつける。


 ――ドンッ!!


 そんな音がボス部屋へと響き渡った。

 そして気付いてしまう。

 やはりこの状態に限ってだが悪に徹した方が俺は強いのだと。


「あはは……うへへっ! 今年こそリア充死ねとか言わない最高で最高の超絶ハッピーサマータイムが俺の夏休みを鮮やかにしてくれるぜぇ!」


 両手を広げ悪にはまる蓮見。

 だが、言っている事はただただ平和。

 ――女の子? とお出掛けが出来る。

 ――今年の夏は女の子? とデート? が出来る。

 ――今年の夏は一人じゃない!

 と日頃からリア充を見て寂しさを感じている情けない男の言葉。

 でもそんな言葉にそろそろと本領を発揮していく者達もいた。


「いてて、ん? はっ? 私以外の女といる事がそんなにいいんだ……私だって頼めば水着ぐらい着てあげるのに……」


 十年以上かけて募った恋心に未だに気付いてくれない男の言葉に美紀がブチッと切れた。


「あの野郎。私を見ればいいのに……なんでお母さんばっかりエロイ目で見る……」


 ぶるぶると全身を震わせて身体の内側から怒りがこみ上げ、それを上手く抑えられない七瀬。


「よりにもよって……あんな貧乳胸なしお母さんが相手だなんて。私だけを見て欲しいのに……」


 唇噛みしめて、目から涙を零し、純粋な気持ちで嫉妬する瑠香。

 そんな三人の小さい言葉は言った本人達しか聞こえないぐらいに声量が小さかったが、それは確かに三人の引き金を引いた合図であり最終警告でもあった。

 何より――。


「いてて、まさか諸に一撃喰らうとは。仕方がない、この数でこれは大人げないとは思うけどもう少し本気で相手してあげるか……。その神災本物なら一分耐えてみせなさい」


 一番マズイトリガーまで引いてしまった神災者こと――蓮見。


「「「「覚醒」」」」


 幼馴染と三人母娘の言葉に愉快に笑っていた蓮見がようやく自分が何をやらかしたのか気付く。蓮見がテンション爆発なら四人は抑えていた力の解放をしたのだと。

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