第385話 いつの時代も母強し、正し神災警報発令


 空中に自分のHPゲージとMPゲージが出現した蓮見は捕食を止めて首を傾けた。


「なんで、俺のHPゲージとMPゲージ? 名前は???だし……どうなって……ん?」


 それはここにいる全員の言葉を代弁したものだった。

 自分のHPゲージの回復と上のゲージの回復が全く同じだったことに偶然にも気付いた蓮見は少し考えてみる。


 ――んー、思い当たる節はないが……。


 ――ボスがこんなに弱いはずがない……。


 誰も捕食瞬殺するなんて考えてねぇ! と突っ込みたくなるが、これはあくまで蓮見の心の声。誰にも聞こえていないのでセーフ。


 ――つまり、このボス戦は、この雑魚を倒した奴が次に来たプレイヤーと戦う?


 ――つまり、ボスを体験できるボス部屋ってこと?


 ――つまり、今は俺がボス体験役をしているってことか……?


「なるほど、イベントでボスを体験できる部屋があったのか……全然知らなかった」


 システムのバグをバグとは疑わずにまるでこの光景を見た全員。

 特に運営を救う神様みたいなことをいう蓮見はまさに天使とも呼べるかもしれない。

 だって普通に考えてみて欲しい。

 頑張ればそれで通せそうじゃないか? 運営的には。

 でもよくよく考えれば火種は蓮見。

 やっぱり神災者って言葉が似合うかもしれない。

 そんな神災者ではあるが、


「えっ? そんな部屋いつの間に実装されたの?」


「マジで!? いいな! 私もやってみたい!」


「てか嘘? そんなシステムあったの!?」


 とボス部屋ではにわかに信じ難いが蓮見の発言一つでゲームに新しい可能性を見いだしていた。


「なるほど、つまりは今はお前がボスってわけだな?」


 珍しくルフランが目の色を変えて剣先を蓮見に向ける。


「当然ボスなら私達を楽しませてくれるのよね♪」


 最高にテンションが高く超絶機嫌が美紀が微笑む。

 日頃のうら……日頃の感謝の意、そしていつか本気で戦ってみたいと思っていた最恐ライバル。最強がルフランなら最恐は蓮見と美紀は思っている。


「ってことは今回は前回みたいに逃げないって事だね♪ いや~ずっと待ってた甲斐があったよ、簡単には倒されないでね。そしていつも通り私を楽しませてね」


 なぜか妙に身体が軽くなった気分に綾香の闘志がいつも以上に燃える。


「つまりダーリンがボス……。ねぇ、ダーリン?」


 悪知恵が働く朱音。

 どうせ戦うなら一番強い時の方がいい。

 だったらやるしかない。


「……はい?」


「ダーリンが私を倒せたら夏休み一緒に海行きましょう。私の水着見たいでしょ?」


「……ッ!!!」


「なんなら背中に日焼け止めクリーム塗る権利もあげちゃうけど、どう? 乗る?」


「はい!!!」


「良し! なら本気でかかってきなさい!」


 内心単純で可愛いな、と思いながらもテンションの上げ下げに強さがリンクするなら、テンションをあげてキープさせてしまえばいいという朱音の考えはまさに百点満点の解答。


「ちょっと! お母さん! なんでお母さんが女を出してるのよ!」


「そうだよ! 私の紅さんをからかわないで!」


「別にいいじゃない? 別にお触り程度でがみがみ言わないわよ、誰も?」


「「異義あり!!!」」


「あら? 最近はダーリンのことになると反抗期になって、急にどうしたの?」


 ニヤリとここで素直に自分の気持ちを言えるなら言ってみろ、と悪い顔をする朱音の意図に気付いた二人が舌打ちをしてソッポを向く。


「あれれ? 二人共言えない理由があるのかしら? もしかして仲良しな私とダーリンに嫉妬でもしちゃったのかなぁ?」


「……う、うるさい。そんなんじゃない!」


「……わ、私も。そもそも好きな人他にいるもん!」


「……ふぅ~ん」


「ルナ?」


「わかってる。お姉ちゃん?」


「「足引っ張らないでよ」」


 何としてでも母親とのイチャイチャは許せない姉妹は蓮見に鋭い視線を向ける。

 自分達には欲情しないくせに母親ばかりに欲情する蓮見に怒ったからだ。

 もっと言えば母親にも嫉妬しているが、蓮見が自分の元に来るなら別に母親は関係ないと今の状況と強引に結びつけるあたり、自我が強いと言えよう。


「水着、水着、水着♪」


 もう勝った後の事しか考えていない蓮見のご機嫌は最高潮になっていた。

 そして、今まで黙っていた者達はもう何も言わないでおこうと心に誓う。

 だってもう、余計な事を言えば言うほど、嫌な予感しかしないから。

 この状況下でも冷静な判断をした者達は静かに武器を構える。

 それを見た蓮見がブルーとイエローに身振りで合図をした瞬間、両者が一斉に動き始めた。

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