第383話 最後の余興 前兆


 だが、トッププレイヤー相手にただ逃げるしか脳がない蓮見が最後まで逃げ切るのは不可能。トッププレイヤー達はただアイコンタクトのみで会話無くして普段から敵対している者と手を組み散開し神災戦隊を徐々に追い詰めていく。敵にすると厄介だと知っているから、日頃から気にして見ている。だからこそ手を組めば味方の動きが手に取るようにわかる。そして、初めての十人連携にも関わらずまるで昔からチームを組んでいるかのようにスムーズに動き始めた。それは蓮見とは比べ物にならない経験があってできる業(わざ)なのかもしれない。


 今十三人? いや三体と十人? どちらの表現が正しいかはわからないが十三の生命体は『混沌(カオス)の洞窟』と呼ばれる上空で化物が人間に囲まれている状況。付け加えるなら場所的にはあと少しの所で神災戦隊が目指す場所が十人にバレて先手を打たれてしまった展開。


 だからこそ、


 ――絶体絶命???


 そんな言葉が今の蓮見には似合うだろう。

 普通に考えて、


 里美、ルフラン、綾香、ミズナ、リューク、ソフィ、ルナ、スイレン、葉子。

 さらに朱音とまできた。


 すなわち、三 対 十!


 そんな状況でへらへらと笑っていられる者などいられようか?

 そう、、、いるはずがない!

 例えば自分が誰よりも強い、自分には才能がある、自分は世界一強運だ、そんな誰もが憧れ、誰もが羨ましがる才能があれば話は変わるだろうが、残念ながら落ちこぼれ、童貞、大バカの蓮見にはその欠片すらない……。


 だが!


 なぜだろうか……。。。


 十人の追手から逃げる事に失敗した神災戦隊はへらへらと笑い、三人を取り囲むプレイヤー達を逆に嘲笑うかのように不敵に大胆な笑みを見せていた。


「やっと追い詰めたわよ」


 美紀の言葉に蓮見は嬉しそうに答える。


「そうか? 確かに俺は目的地には到達できなかった」


 ――ゾッ!?


 十人が一斉に武器を構える。

 なぜだろうか。

 蓮見の余裕がわからない。

 普通に考えてもし自分が逆だったらと思うとここにいる四人(朱音、美紀、ルフラン、綾香)の例外を残して諦めている。それだけ自分達の力を正しく把握しているから。そして例外の四人ですらこの状況は朱音を除き『わくわくするけど、マズイ……』と思う者に囲まれている。それでも……いや……この瞬間、蓮見を除いた全員の直感がようやく悟った。


『……コイツ、まだ奥の手があるな。それもここにいる全員を一掃するだけの変な必殺シリーズがある』


 と。全員の身体が警戒心を最大限まであげる。

 事実正解なのだが、それが何かまではわからない。


「まだわからないのか? 里美」


「……うん」


「でも、お母さんならわかるでしょ?」


「……いやわからないけど? なにが?」


「…………」


 ――。


 ――――。


 蓮見の瞳から涙が零れる。

 それは確信はなかったかけど、何となく今の蓮見の考えを察してくれそうな顔をしていた二人から期待した答えが返ってこなかったから。逆に返ってきたのは戦闘態勢を取って向けられた敵意だけ。なにが悲しくて、幼馴染か!? なにが悲しくてお母さんか!? 少なくとも幼馴染もしくはお母さんを名乗るならそれくらい察してくれないと困る!


 そんな蓮見の理不尽な怒りがトリガーとなり、弱腰だった神災戦隊に力を与える。


「……おい、お前達。やるぞ?」


「わかった。レッドがそうゆうなら最後まで付き合うぜ」


「任せろ。俺達が最後までレッドをアシストしてやるよ」


 そうこの世で最も理不尽な怒りが原動力となり蓮見も戦闘態勢にはいる――


「「「行くぞーーー!」」」


 と、見せかけて急降下し、ほぼ真下にあった化物状態でも入れる出入口と広さもつ『混沌(カオス)の洞窟』へと逃げ込んだ。

 トッププレイヤー達を簡単に出し抜き、全力で逃げる蓮見に取り残された十人があっけに取られるもすぐに我に返り追いかけ始めた。

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