第380話 高鳴る美紀と朱音の鼓動


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 城の攻略が終わり街へと戻って来た美紀。

 少し疲れたなと思い街にある和菓子屋さんで団子とお茶を頼み木の椅子の上でくつろいでいた。

 このイベントのいいところは街の中だけは非戦闘区域に似た場所となるので街の中では武器とスキルが合ってないような所。実際はダメージを受けるのだが街全体がHP高速回復エリアみたいなもので倒される心配がほとんどないのだ。そのため、こうしてゆっくりと休憩する事も可能なのだが、視界の先で突如綺麗な水色の大空がオレンジ色の炎で支配された。


「……はぁ!?」


 絶対にありえないだろうと言いたい光景に口の中のお団子がポロっとこぼれてしまった。だけど今はそんなことどうでもいい。眩しい光の次に聞こえてくる音は気付けば聞きなれていた爆発音にとても似ていた。


「……ばくはつ? ……って、え?」


 炎が空を支配したかと思った直後。

 その中を三体の巨大な何かが飛行しプレイヤー達を次から次に大きな口で丸飲みにしている光景が見えてしまった。

 それは美紀が今食べていたお団子を口に放り込んで幸せそうな顔をする女子高生のように華のある光景ではない。


「……あんなの……今回のボスにいた? なにも聞いてないんだけど……」


 もしあれがボスなら絶対に倒しに行かないといけないと美紀の本能がそう呼びかける。お団子も大事だがそれよりも強い相手と戦いたいという本能が理性に働きかける。


「こうしちゃいられない……ゴクリ!」


 急いで残りのお団子を食べて、胃の中で消化する美紀。

 負けじと視界の先ではプレイヤー達を食べて胃の中で消化する化物。

 蓮見の奥の手を知らない美紀は知らず知らずのうちに幼馴染と同じ行動を取っていた。ただし本質は全く違う。


「良し! 武器持った、HP、MPも満タン! なら――」


 そう思い、早速足を運ぼうとしたときだった。

 エリカとの探偵ごっこの事をふとっ思い出した。


「だ・か・ら・今回は直接爆発する系統ではないって言ったのよ」


 間違いなくエリカはそう言った。

 だとするならば――そこから推測できる答えは一つしかなかった。


「あの炎は爆発(化物)によるもので紅が起こした?」


 勘の良い美紀は嫌な予感を的中させた。


「ってことはあの化物は……いや口にするのは止めておこう……」


 そんなわけはないと、首を横に振りながらも内心は『もしそうだったら、いいじゃん。そうゆうの待ってた! 私の欲求を本当の意味で満たしてくれる敵はやっぱり紅しかいない!』と既に狩人の気持ちになっていた。



 ■■■


「遂に見つけた、ダーリン♪」


 そう呟いたのは別のゲームで現役プロゲーマーの朱音。

 その実力は確かで現在トッププレイヤー達の中でも一位のルフランとワンkill差と手を抜き二位。三位である美紀の追随を警戒しながらも常に余力を残し終始戦っていた朱音は偶然にも空にまで広がった眩しい光を放つ炎を目にした。


 それはずっと探していた想い人を見つけた時のように炎を見た瞬間胸の奥がとても熱く恋しくなった。後から聞いた話しでは私相手に超新星爆発をした男の子が実は奥の手を隠し持っていたなどと聞いてしまっては無視するには勿体ないだろう。


「ミズナとルナがゲームでワクワクする気持ち今ならわかるかな~。なになにあの三体のドラゴンがダーリン? だとしたらいいじゃん♪」


 とても嬉しそうに軽い足取りで街の中を駆けて行く朱音。

 前代未聞の相手にして前代未聞の戦法で前代未聞の偉業を成し遂げ前代未聞の方法で世界から注目を集めるエンターテイナー。もし自分の戦い方がこれで通用しなかったらと思うと、笑えてくる。なによりそうならない自信はある。だけどそれでも――もしかしたらと思ってしまう自分がいる。恐らく内心期待しているのだろう。とっくの昔に忘れていたゲームを楽しむ心が彼と一緒にいれば取り戻せるのではないかと。なにより思う。もしこれで万に一つ敗北や引き分けるようなことがあれば私はもっと強くなれるのではないかと。


 ――ドクン、ドクン♪


 高鳴る心臓が血の巡りを速くし足を軽くさせる。


「久しぶりね。この高鳴り。世界ランキングを賭けた戦い以来かしら……うふふっ、あはは~」


 杖を持つ手に汗をかいているのは緊張しているからなのかもしれない。強者を奮い立たせることができるのはやはり強者(恐者)しかいない。そう、蓮見は認められた。あの朱音に。


 こうして普段なら最強の味方にして最も頼りになる美紀、そしてルフラン以上に最強の名が相応しいと思われる朱音が蓮見の敵となることが確定した瞬間。特別イベントMAP全体に緊急アナウンスが流れた。


『残り二十分。ただいまよりプレイヤーKillした場合の評価点があがります。それと現在上位三パーセントに入るプレイヤーを倒した場合に限り更なる限定アイテム(優秀者が率いるギルドの石像:効果攻撃力二パーセントUP)をプレゼント! 皆さん最後まで頑張ってください!」


 その声にトッププレイヤー達の大義名分が出来上がってしまった。

 盛大な爆発により上位二パーセントにまで入り込んできた蓮見を倒すのは致し方がないことだという理由が――できてしまった。周りがなんと言おうが限定アイテムもしくはギルドのため! といえばそれで収まりがきく。なによりそれが自分以外も狙っているだろうなという確信がありそれが実現したとしても虐めには到底ならないだろう。だって建前はギルドメンバーのためであって私利私欲で戦いたいわけじゃないから! そう言った意味でも戦いたい好奇心が運営によりしっかりと肯定された者達は最速で動き始める。なぜらなら最恐の男を倒す為に――立ち上がったのだから。

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