第379話 観客席と運営室 高まる期待と不安


 ■■■


 観客席。

 ついに蓮見が本領(本性)を発揮し始めた。

 いや、いつもの蓮見がやって来たと言った方が正しいのかもしれない。


「な、なんだ……あの悪魔共は……」


「あれは……人を超えてる……」


「お、おれの……ぎぎぎるどめんばーにじゅうさんにんが一瞬で……まじかよ……ありえねぇ……」


 聞こえてくる声はどれも驚きの声。

 それも皆が皆がどう反応していいか困っている。

 そんな中でエリカは一人現状に納得し頷いていた。


「爆発こそ紅君の真骨頂ってなんで皆気付かないのかしらね?」


 エリカの見るモニターの先には化物となった蓮見が大いに笑っていた。それから三人の化物はもぬけの殻となった工場の中を覗き込んで中を捜索し始めた。出入口から手を突っ込んではゴソゴソとあさる姿は何とも形容しがたい光景。

 そんな誰もが恐怖しだした神災戦隊に近づく人影があった。


「あれは……綾香と朱音さん……」


 大爆発=神災=紅。

 と言う方程式が頭の中にありその身に神災を何度か喰らい蓮見に興味しかない者達が大爆発に誘われて街の中を動く。


「あれ……もしかして……」


 少なく見積もっても大きな爆音は遠くまで聞こえたと思われることからルフランやリュークと言ったトッププレイヤー達も城と工場の攻略が終わったらしくある方向に向かって動き始めていた。


「もしかして本当に再来しちゃうのかしら……」


 エリカの言葉を代弁するように。

 神災信者の者達が――。


「お、おい! マズいぞ!」


「どうした!?」


「我らの【異次元の神災者】様がこのままだと包囲されてしまう!」


「東のルフラン、南の里美、西と南東の朱音と綾香は既に【異次元の神災者】様狙いで間違いないルートで走り始めた! 【異次元の神災者】様お逃げくださーい!」


 状況を解説してくれた。


「大丈夫だ! あのお方こそ最恐! 絶対に負けはしない!」


「そ、そうだ!」


 その言葉を聞いたエリカは「ふーん」と納得し、


「だそうよ、だから哀れなトッププレイヤー達を天地創造で全員鎮めてあげなさい。そして私に最高のプレゼントをお願いね」


 と、微笑みながら言った。


「だけど天地創造をするには……決定的なアレがない。可燃性素材をさてどうするか見させてもらうわよ、私の愛する紅君にして将来の旦那さん♪」


 ■■■


 運営室。

 今回蓮見がバッグドラフトを起こした瞬間、謎の「キャーーーーーー」と別の叫び声が発生した場所でもある。


「し、心臓止まるかと思ったわ……」


 女は冷や汗を拭きながら口を開いた。

 少し前まで優雅に茶菓子を食べて余裕淡々の笑みで雑談をしていた表情とは到底思えない。それもそのはずたったの数秒ではあったがサーバー負荷が危険数位まで一気に跳ね上がったからだ。特別イベントステージ専用サーバーはかなりの余力を残しており、プレイヤーがなにをしてもシステムに影響を及ぼすことはないのだが、偶然か必然かまたしても予想外の現象にサーバと一緒に女の心臓が止まりそうになってしまった。


「スキルコンボとかならまだしも……サーバーに負担しかかからない変なスキル的な物(超現象)を開発しないでくれ……頼むから……」


「あやうく漏らすかと思った……」


 アラート画面と危険を知らせるアラーム音に男達もまた女と同じく悪夢を見たような顔に汗を流していた。


「今度は街に大被害を与えようとしたのか……。あれは破壊不能じゃなくてHP超高速回復でシステム組んでるから特に木材建築を燃やされるとマジで死ぬやつなんだよな……あははは……」


「一瞬で破壊と創造が繰り返された街……アイツ街にもダメージってもうなんなの……」


「プレイヤーには破壊不能に見えているんだろうけど……彼はなに? 全てを燃やして、爆発しないと死んじゃう病か何かにかかっているわけ? 毎回、毎回、私の心臓をこんなにドキドキさせて!」


「……それは俺も聞きたい。ちなみに彼氏と神災どっちの方がドキドキする?」


「神災に決まってるじゃない!」


 女は即答した。

 それに同意する男達もまた同じ気持ちだったからだ。

 今回こそはと思って準備万全の工場長がまさか登場から数秒で捕食され倒されてしまった。制作に三日以上掛け神災対策兼一般プレイヤー向けに用意された攻守バランスの取れたNPCが登場から一分として持たなかった。もっと言えば想定外の倒され方をしてしまったのだ。それは怒りが込み上がって来ても仕方がないと同情できよう。怒りと同じぐらいに絶望感もあるわけだが……。


「そ、それよりもだ……こうなった以上俺達に残された手は一つしかない――」


 責任者の言葉に四人が息を呑み込む。


「――それは」


「「「「それは……」」」」


「――それは、神災を何としてでも今回こそは倒すことだ! こうなった以上最後の手を使うぞ!」


 ――ゴクリ。


「り、りょうかい……」


「遂に……こちらも最後の手……」


「もうこれしか俺達の希望はないのか……」

(他のプレイヤーによる他力本願作戦か……)


「神災が暴れ社長が喜べばボーナス最低百万……だけどそれは休日返上を認めるということ……。ここが正念場だな……」

(金も大事だが……睡眠時間が今はマジで欲しい……)


 モニターの先では火の海の中で小隊メンバーと武士、さらには工場長、街の建造物、沢山のプレイヤーまでを一掃し大いに喜ぶ三体の化物――悪魔が大いに笑っていた。

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