第378話 神災戦隊だけのアイコンタクトは爆発の前兆?


 だけどまだ三人敵が残っている。

 まだ三人。

 それとも。

 もう三人なのか。

 それは本人しかわからない。

 同じ目的がある以上プレイヤー達からすればいつもは敵である蓮見も今日は味方なのかもしれない。レッド蓮見が視線を遠くに飛ばせば化物を援護するプレイヤー達がいた。それを見て安心した蓮見はニコッと微笑む。


「そうだよな、俺達仲間だよな!」


「「「「…………え?」」」」

(敵が異常に強いので化物利用……とは言えない……)


 蓮見の勘違いで命拾いをした者達は武士だけに攻撃の手を向ける。

 ここで三つ巴の戦いが始まれば、工場を攻略したいプレイヤー達からすれば利害関係が崩れてしまい大変なことになると身を持って過去に学んでいるためである。


「良し! 敵が弱った今しかねぇ!」


 レッド蓮見が残りの小隊メンバーを倒しにかかる。

 だが。


「スキル『一閃』!」


 指揮官の剣が蓮見の腹部を容赦なく切り裂きHPゲージが減る。

 テンションが上がり、火事場系統スキル、水色のオーラを纏った蓮見の力を持ってしてもやはり指揮官だけは速すぎると感じてしまう。事実動きを見てからでは回避が間に合わない。何とか『白鱗の絶対防御』のおかげで耐えることができたが、次に攻撃を受ければ間違いなく高確率で死が確定しまうだろう。


「ぐはっ……ッ!」


「遅い!」


 続けて攻撃に入ろうとする指揮官。

 その後方から同じく攻撃する為近づいてくる敵影二つに蓮見が大きく口を開け息を吸いこむ。そしてすぐさま吸った息を全力で吐き出す。


「グオオオオオオ!!!」


 咆哮は敵の聴覚を振動させ、攻撃を強制的に中断させる。

 耳を抑える小隊メンバー二人をすぐさま両手で掴み握りつぶしていく。

 指揮官は聴覚を攻撃されても苦痛を表に出すも剣を構え隙を見せてくれないので後回し。


「うぎゃぁぁぁぁ!!!」


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 激痛に思わず言葉を叫ばずにはいられない二人。


「おいおい。まじかよ……」


「本物の怪獣かなにかかよ……」


「私には化物様が敵で武士が私達の味方に見えてきたんだけど……気のせいよね?」


 化物となった蓮見と小隊メンバーの戦いはいつしか立場が逆転しているようにも見える戦いとなっていた。腕に力を入れる事で捕まえた二人のHPゲージがどんどん減っていき底を尽きると光の粒子となって蓮見の手の中から消えた。


「やっと、追い詰めたぜ! リーダーさんよ!」


「……そうか。だけど勘違いしていないか?」


「どういう意味だ」


「我らは時間経過と共に強くなると言ったはずだ」


 まだ強くなるのか……そう思った蓮見は目の色を変える。

 今まで己の欲求に素直だった目を変える。

 それは純粋無垢な子供のように探求心溢れ何をしても許してもらえると思っている無邪気な子供の目。


「俺様戦隊スマンがコイツを三十秒でいい! 足止め頼めるか!」


 その言葉に神災戦隊だけにしかわからないアイコンタクトで意思疎通を始めた。


 ――パチパチ。


 ――パッ。


 ――パチパチパチパチ。


「「任せろ!!」」


 何をしでかそうがこれが最後!

 そう自分に言い聞かせた蓮見は急降下していき、超新星爆発でも壊せなかった工場へと向かう。


「なにをしても壊れない便利な工場が一つありました。窓を閉めて唯一の出入口から炎の息を全開で吐き続けます~♪」


「敵の出現ポイントつまりは破壊不能なオブジェクトを利用する俺様天才~! もしもの話し~そこに熱された一酸化炭素に急速に酸素が供給され二酸化炭素への化学反応が急激に起こると~あら不思議――」


 ブルーとイエロー蓮見による歌に合わせてレッド蓮見が動くと工場の内部が急激に熱くなっていく。室内など密閉された空間やそれに近い状態の場所で火災が発生し不完全燃焼によって火の勢いが衰えた時に起こる現象を皆さんはご存じだろうか?


 …………。

 …………ふむふむ。

 ……………………なるほど。


 中学生の理科の内容の応用だから簡単?

 よくわかった。

 なら答え合わせといこうか。


「す~る~と~エリカさん曰く面白い事が起きると言われてました♪」


 炎が充満しレッド蓮見のMPがなくなったタイミングでレッド蓮見が大きな羽を動かし再び空へと舞う。その時に外の空気が一気に工場の中へと入っていく。その結果――工場一つを使った大爆発が起きた。


 それは工場内部にいた、プレイヤー、NPCの従業員、戦闘員、運営が手塩にかけた工場長をはじめ多くの者を巻きこむ。


 そして外にいた、神災戦隊、指揮官、武士、プレイヤー、NPCモンスター、近くの街の建物、街にいた民間人(NPC)、街で休憩をしていたプレイヤーを始め無作為に多くの人と物も巻き込む。


 結果、荒れ果てた大地は更なる地獄へと姿を変える。

 それは火を誘導する防具を身に付けていても関係ない。火が逃げ道を探し外へと凄い勢いで拡散していくも化学反応の方が速すぎて全方位から火の海が襲ってくる。そのため上手く装備が効果を発揮しない結果となってしまう。さらに工場が大きすぎた為に熱いオレンジ色の光が眩しく一メートル先すらまともに見えない劣悪な環境下を作りだす。そうとは知らずに逃げ出してきた工場長を始め、工場内にいた敵の数々。多くの悲鳴が木霊し先ほどまで仲間だと思っていた者達が天へと散っていく中、自分達だけでも助かろうなどと甘い展開は残念ながら認められない。その中を動く三つの影が神眼を使い動き運よく生き残った者達の命を捕食し始めたからだ。大きな羽を手に入れ空において自由を手に入れたそれは破壊不能オブジェクト以外の物を全て焼き尽くし捕食する悪魔へと昇格した。そこには味方も敵も関係ない。あるのは喰うか喰われるか燃え尽きるかのどれかしかない。


 蓮見が起こしたそれは――世間的にはバッグドラフトと呼ばれる物で本人曰く――「俺様全力シリーズバーニング爆発()」と呼ばれるものらしい。。。




 瞬間――とある部屋に設置されたなにかのメーターが再びレッドゾーンに到達したために、違う場所で女性の「キャーーーーーー」という叫び声。

さらには本気の叫び声が幾つも……生まれたとかなんとか……。


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