第375話 記憶追走


「ブルー、イエロー、そっちは任せた!」


「「了解!」」


 最初に戦っていた武士達の相手を完全に任せた蓮見は一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「こんなの、里美、ミズナさん、ルナ、お母さんタッグに比べたらまだ百倍マシなはず……」


 ただしこの後の展開を一切考えなければの話しにはなるが。

 心のよりどころがいつも頼りになる味方だと言うのは大変喜ばしいことである。



 ■■■


 記憶を少し前に戻して。


 それは第四回イベント終わりで蓮見が報酬選択をしていた時のこと。

 蓮見の目の前にあるイベント終わりの限定スキルショップ。

 そこには500を超えるスキルがありプレイヤーは手に入れたポイントによって交換できるスキルが決まってくる。スキルショップは日々拡大されており中はとても広い。そのため人混みを気にせずゆっくりとスキルを選ぶことができるのだが、全部のスキルを一つずつ確認していると到底一日じゃ終わらない。


 スキルは専用のパネルをスクロールすることで確認と交換ができる仕組みとなっている。なので早速スキルを確認していく蓮見。


「『ファイヤーアタック』や『フルバースト』とかいいなぁ……でも今回は実用性と言うよりかはなんか面白そうなスキルがいいんだよな~なんかないかなー」


 パネルを凝視する蓮見。


「んっ? 『幻闘者』? ……なんか名前カッコイイし面白そう! 後は……『紅蓮の矢』ってのは名前が俺様向けだな、にししっ~」


 蓮見は即決した。

 二つ並んだスキルをスキル名の響きだけでこれだ! と決めた。

 内容の確認は当然これだ! と決めた今から。


 スキル『幻闘者』

 効果:スキル入手時に選択したフォルム(形態)になる。

 ステータスはプレイヤー詳細。使用中のスキルは『幻闘者』のフォルム専用スキルが使用可能となる。一部通常時と同じスキルも使用可能。『幻闘者』を使用中にHPゲージが底を尽きた場合、近くにいる仲間のAGIステータスを一時間強化することができる。


 効果時間:HPゲージが底を尽きる or 自身で解除

 使用回数:一日一回

 獲得条件:イベント限定スキルショップで購入。


「フォルムを自分で決めるのか……自分でって所がなんかいいなぁー!」


 テンションが上がった。

 そのままパネルに表示された画像でどれにするかを選んでいく。


「えっと……ヘビ、カタツムリ、蛙、蝶、リザードマン……結構あるけど……なんか面白くないし強くなさそう……」


 真剣な表情でどれにしようかを悩む蓮見。

 ここで変なのを選べば絶対に今後美紀達にバカにしかされないだろう。

 そうなっては心のモチベーションがダウンしてしまうので、皆がギャフンとなるような盛大にカッコイイ姿で暴れたい蓮見は全てのフォルムに目を通していく。

 すると、ある場所で蓮見の視線が釘付けになった。


「こ、これは!? ど、ドラゴン!?」


 そこにはそれは二足歩行で歩き、腕が二本あるが先端は鋭利な爪となっている。

 身体が大きく人間の何十倍にも背丈がある。

 顔には二本の角が生え黒光りする大きな羽が左右にあり飛行も可能なカッコイイドラゴンがいた。

 だけど蓮見が惹かれた理由はそれだけじゃない。


「これって……もしかして……」


 大きく目を開き、子供がお菓子の王国を目の前にしたときのように黒い瞳をキラキラさせて息を呑み込む。


「夢にまで見た……変身と大食いが可能ってことじゃないか!」


 その言葉の意味が表面上通りなのかはひとまず置いといて、確かに蓮見は嬉しそうな声でそう呟いたのだった。


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