第371話 到着。工場で待ち受けていた者達


 ■■■


 多くの者の注目が蓮見へと向けられた頃、ついに工場の近くまでやってきた神災戦隊。とは言っても構成員は蓮見だけという事実から全くもって笑えない。


 とある街からとある城までの道を全て黒一色の世界へと変えた化物とその飼い主二人。頭上から聞こえてくる声――歌は希望か悪夢か? と問われれば多くの者がこう答えるだろう。


 ――参加者からすれば悪夢。


 ――視聴者からすれば希望。


 だと。事実ここに来るまでの間に大きな河の水が枯れ、吊り橋が根こそぎ壊され、それを阻止しようとした勇敢なプレイヤー達を死地へと送り続けられた。化物を倒そうとすれば頭上からブルー蓮見がKillヒットを狙いそれを阻止し、頭上のブルー蓮見と最も頭が可笑しいと思われるレッド蓮見の歌を阻止しようとすればイエロー蓮見――化物がハイテンションで襲ってくる。そのため、生半可な攻撃は全て無意味となり、既にイベント上位五パーセントに入る程度にはNPC含め返り討ちにしてきた。


 そんな化物が街、それも最も北に近い位置にする工場へとスキップをしながら近づいていた。多くの民(NPC)が逃げだし静かになった街ではあるが化物に立ち向かうと勇敢な者達がここにもいた。それも一人や二人ではない。沢山。数にして百人程度の勇気ある若者が集まり結成された工場警備隊を務める武士である。


「総員戦闘配備!」


 その声に化物が足を止める。

 化物と蓮見の視界の先では武装した武士が背中に装着したブースターを起動させて剣を抜き低空飛行待機状態で並んでいた。


「……ん?」


「やけに数が多い気が……するが?」


 イエロー蓮見の違和感とブルー蓮見の言葉にようやくレッド蓮見が歌うのを止めて現実世界へと思考を戻す。

 よく見れば先ほど遭遇した時はなかった変化。

 鎧に赤いラインが何本を出現し、チカチカと光っている。

 それが意味する理由がわからない蓮見はとりあえず――。


「燃やしていいぞ」


 と、とても軽いノリで言った。

 レッド蓮見の指示を受け、化物が大きく息を吸いこんで火を吐き出す。

 だが――。


「グオォォォォ!」


 火が鎧に触れると、あらぬ方向へと軌道を変えていった。

 突然の事に言葉を失う神災戦隊。

 例えるなら火が自我を持ち武士から意図的に逃げた。とでも表現すべきだろうか。

 予想を超える超現象に蓮見の頭が一瞬で処理限界を超えた。


「無駄なことよ、挑戦者」


「どういう意味?」


「この工場で作られた武器を武装した我らは時間経過と共に強くなるように作られている」


「…………」


 頭の中が???でいっぱいの神災戦隊は揃いに揃って首を傾ける。

 その表情は困惑していた。


「第一層の模倣を覚えているか?」


 この会話も敵の時間稼ぎだと気付かない蓮見はコクりと頷く。

 時間経過で強くなる。

 つまりは時間経過と共に敵は強くなる。

 裏を返せば単純な仕組み。

 逆を言えば時間経過する前に攻略してしまえば比較的に簡単に攻略が可能となっている。敵に変化が現れるタイミングは工場ごとにランダム。これこそ運営が考えた神災対策。神災が時間経過と共に毎回規模を拡大するなら時間経過と共にこちらも敵を強くすればいい。正にシンプルが故に強力な一手だと言えよう。


「……あぁ」


 幽霊現象があった所ということで、嫌でも覚えている。

 というか、できるなら思い出したくもなければ、その話題を振らないで欲しい。


「その仕組みと同じ。単純な話しこうして話ししている間も我らは強くなっていると言うわけだ!」


 ――!?


 敵の言葉を聞き、ようやく納得がいったレッド蓮見が目を大きくして驚いた。

 その表情は何か重要な事に気付いてしまったような……。

 あるいは何か致命的なミスをしてしまったときのような……。

 なんとも言えない顔で蓮見は息を呑み込む。

 時間経過と共に強くなる。

 言い方を変えれば……。

 戦わずして強くなれるということ。

 そんなの……。

 そんなの……って。

 蓮見は心の中で出てきた言葉を、思いっきり吐き出す。


「里美のやる気を無駄に上げる楽しい楽しいサンドバッグ確定じゃねぇか! ふざんけんな! 後でその矛が誰に向かう可能性があると思ってるんだ!」


 なので、神災戦隊の結論は――ここで潰す。で満場一致した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る