第372話 もしやこれも大本命の前座ですか!?


「こうなったら里美が来る前に片付けるしかない! イエロー全力全開で暴れろ! この俺が許可する! ブルーお前も盛大に暴れてこい! 俺が全力で援護する!」


 その言葉にブルー蓮見がニヤリと微笑み、化物の頭上から飛び降りると、ついに二体目の化物が街に突如として現れる。


 つまり――。


 それは一体でも手を付けれなかった化物と瓜二つで。

 眩しい光が太い柱のように天へと伸びていくと本日二度目の光景で。

 当然その中から出てきた者が二足歩行で歩き、腕が二本あるが先端は鋭利な爪となっていて。

 身体が大きく人間の何十倍にも背丈があり、顔には二本の角が生え黒光りする大きな羽が左右にあり飛行も可能。と人であることを止めたとしか言いようがない存在がもう一つ増えたことを意味する。


 ――第三層の恵みの大地で噂になった化物達は大きな身体を使い目の前の武士達へと襲い掛かり始めた。同時に武士たちもジェット噴射を強くして化物へと突撃してきた。


「まずは手前のデカブツからだ!」


「「「「「了解!」」」」」


 連携が取れた指揮。

 ではあるが、連携で言えば蓮見も負けていない。


「あはは!!! 悪いが時間がない以上最初から本気で行くぜ、俺様全力シリーズ大回転ジェットストリーム!」


 イエロー蓮見が巨体を活かしてその場で高速で回転を始める。

 遠心力を得た尻尾が周りの木々だけでなく、砂や小石を巻き上げ小さい嵐を作り出す。それにより気流の流れが変わり武士達を巻き込んでいく。


「な、なんだ……この風は?」


「全員落ち着いて態勢維持に集中!」


 有能な指揮官が放った言葉に攻撃の手を止め荒れ狂う風の中態勢維持を優先した武士。それを見たブルー蓮見は。


「イエローそのまま頼む! スキル『火炎の息』!」


 と、イエロー蓮見が作り上げた小規模乱気流に向けて火を吐き出す。

 それにより砂、小石、木々に火が合流。

 すなわち――人為的な火柱の完成である。

 完全火耐性がある蓮見にはなにも関係のないただ少し熱いだけの熱気流。

 だけど空中浮遊状態に近い武士達からすれば熱いだけではない。

 確かに火のダメージは通らなくても風の中を飛んでくる砂や小石などの物理ダメージは微量ながら受けることになる。なにより燃える炎により風の中を舞う異物が視認しずらくなっている。


「なら俺も続くぜ! レッツパーティータイム!」


 ブルー蓮見の頭上で男は盛大に叫んだ。

 そして――ばら撒いた。

 さらに――歌い始めた。


「……これから始まる大喝采。お前らが火を無効にするなら火力をあげて対抗だ、今日は俺様大活躍♪ 全力、全開、大爆発~今日こそ盛大にぶちかますぜ。バーニング、バーニング、バーニングハート今日の俺は今までと違う♪」


 と、歌を歌い始めた。僅かに減っていたMPゲージを最大値まで回復させる。

 誘爆を始めた大量の手榴弾は火炎の息の火力を増大させていく。

 徐々に大きくなる乱気流いや竜巻とも呼べるソレは勢力を拡大するため、更なる援護を得る。


「今日は特別に見せてやるぜ! 第四回イベント終わりで手に入れたもう一つの力『紅蓮の矢』をな! スキル『水振の陣』『紅蓮の矢』!」


 蓮見が弓を構えると赤い魔法陣が出現する。

 右手から赤い粒子が放出されるがそのまま矢に吸収されMPゲージが矢の先端へと集約し攻撃力へと変換させていく。

 それは虚像の発火の上位スキル。

 言わば美紀の『デスボルグ』と同じく狙った相手を貫き命中率100%回避不可能の一撃。威力は消費したMPとプレイヤーSTRに依存と弓専用スキル。一日の使用制限も三回とシビアだが、それ以上に蓮見へと貢献してくれるスキルなのは間違いない。


 そのまま放たれた矢は赤い魔法陣を通り抜けると同時に矢の形状を維持したまま炎の塊へと変換される。その後水色の魔法陣を通り抜ける。言い方を変えれば放つと同時に矢は燃え尽き炎が矢の形を維持しているだけ、空を熱し切り裂く音とともにイエロー蓮見が作り出す嵐の方へと向かっていく。


 レッド蓮見の狙いは風の中を縦横無尽に駆け巡る木の一本。

 当然追尾性能があるので当てるのは何一つ難しくない。


 当然何かに触れれば矢の性質上爆発が起きる。

 それは『虚像の発火』とは比べ物にならないレベルで。

 そして――。


「火がダメでも水はOK。そして水は熱ければ熱い程体積を……なんちゃらかんちゃらしてなにかが膨張してその……エネルギーが&$&’$%%T#して爆発する! そしてその時の爆発ダメージは……あれ? なんだっけ……と、とにかく上手い事なる!!!」


 エリカが吹き込んだ知識がうろ覚え過ぎて上手く説明できない。

 だけど関係ない。

 蓮見が頭でイメージした事が起これば!

 そう重要なのは結果!

 ただそれだけ!


「まぁ何が言いたいかというと、これが今思いついた俺のなりゆき全力シリーズハイドロテンペストエクスプロージョンってことだ!」


 そう叫んだ直後。

 周囲の空気を巻き上げ作られていた竜巻が火柱を一瞬で大きくし、敵味方関係なく業火となり襲い掛かった。それは瞬きをする間におき、轟音が聞こえてきた時には二体の化物ごと上空へ軽々吹き飛ばしていて、視線を下に向けるとさっきまでイエロー蓮見がいた場所を中心に地面が捲りあがっていた。もっと言えば視線を周囲に泳がすとかなり遠くの景色までもが一望でき、街の形は勿論、街を中心に作られた数多くの城までもハッキリと見える絶景が目の前にあった。それは蓮見史上過去一位、二位を争うぐらい最高にいい眺め。流石にここまで人が簡単に空の旅を満喫できる日が来るとは思いにもよらなかったぐらいに。下にあったはずの工場は果たしてその形を維持しているのか、はたまた跡形もなく消えてしまったのか、そう思えるぐらいに人がゴ…じゃなく小さく見え、建物も…ミじゃなく小さく見える。つまり本気の超新星爆発に並ぶ物(俺様全力シリーズ)を手に入れたと言うわけだ。


「ブルーかイエロー俺を助けてくれ! それと二人は今のうちに猛毒の捌きで注意散漫で動揺しまくりのアイツらに攻撃!」


「了解! スキル『猛毒の捌き』!」


「任せろ! スキル『猛毒の捌き』!」


 羽が一人ないレッド蓮見は近くにいた二人に助けてもらう。

 化物二人の後方に紫色の魔法陣が出現し『猛毒の捌き』の攻撃により多くの武士が天高い場所で光の粒子となり空を輝かせて散っていく。まるで花火のように散るときは一瞬Killヒットの者が居たと思いきや必死に迫りくる攻撃を避けては死に物狂いで化物に一矢報いようと抗う者もいた。しかし大空を自由に飛行が可能な化物にとって注意力散漫な敵など脅威ではなかった。本体によるスキル節約をするものの、ここまでにかなりのスキルを使い続けたレッド蓮見は通常攻撃でまだ動揺が収まっていない武士に狙いを定め矢を放っていく。当然注意力散漫で単調的な動きと攻撃をしてくる者のように狙いやすい者から容赦なくレッド蓮見が通常攻撃を決めていく。


 この時――蓮見本体は密かに心の中で――していた。


 つまり……一号(大本命)となるはやはり可能であると。だけどそれを使うにはまだアレがクリアできていないと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る