第366話 蓮見VSスカイ 決着
頭から落下していく蓮見は目を閉じて僅かに残ったHPゲージがなくなるのを待つ。
よく頑張ったよ、俺。
自分にそう言い聞かせて、今回は潔く負けを認める。
破滅のボルグに完璧に対抗する手段を持たない蓮見では迎撃に必ずリスクを背負う事になる。そのリスクを正しく理解した上で先ほど迎撃を試みたが失敗した。その事実が脳にこれが現実だと理解させる。
「……やっぱりあの技攻略は無理だったか……。こんな事ならたまには里美にお願いして練習しておくんだった……」
再び聞こえてくる空を切り裂き何かが飛んでくる音。
見なくてもわかる。
スカイの槍。
「さて負けたら今度は……」
……。
…………。
………………。
その時だった。
負けという言葉に何かを忘れていたような感覚に身体が違和感を覚える。
あれ?
負けたら……エリカさんとの約束は……どうなる?
……。
…………。
蓮見の思考が時間にして一秒程度フリーズ。
それから光の速さで脳が活動を始める。
負けたらエリカさんの頭から角が生えるかも……。
それは……絶対に回避しなくてはならない気がする!
いや、絶対に回避せねばなるまい!
そう思った時には身体が無意識に動き始めていた。
ポーションではもう間に合わないと判断した身体は無意識に【亡命の悪あがき】を取り出してすぐに使う。
同時に態勢を立て直し攻撃にも備える。
「それは死ぬよりマズイ……。あの時は助かったが
そして――。
本日二度目の槍が身体を容赦なく貫通。
身体中から血に似た赤いエフェクトが鮮血として舞いとても痛いがまだ倒されるわけにはいかない。
「グハッ!? いてぇーーーーー!!!」
想像を超えた激痛に苦痛の表情で叫ぶ蓮見。
だけど次はただやられるだけではなかった。
痛いのはいつものこと。
ならば後は気合いでなんとかこの状況を覆すのみ。
「はぁ……今度は逃が……さないぜ! はぁ……はぁ……、流石に……三度……めは……無理……はぁ、だからな……はぁ……ぁ」
身体を貫通した槍をすぐに手を伸ばし力強く握る蓮見。
槍は蓮見と一緒にスカイの元へと飛んでいく。
途中勢いあり過ぎて飛ばされそうになるが、これが最初で最後のチャンスだと思い必死に掴んだ槍を離さない。
「今のアイツは武器なしMPなしの言わば無防備状態。この機を逃がす手はない!」
美紀の必殺の一撃である『破滅のボルグ』は確かに強力なスキルではあるがメリットとデメリットが存在する。
メリットは撃墜されない限り相手に必ず当たること。
そして。
デメリットは一度の使用に必要なMP消費量と槍を投げた後二刀流プレイヤーでない限り武器が手元にないこと。
武器もMPもなければ当然その間は攻撃をしたくてもできない。
つまり――。
この間に限ってだが蓮見は百パーセントの確率で攻撃されないのである。
HPゲージが一になり水色のオーラを纏った蓮見が一番恐れる不意打ちが存在しない以上後はスカイの元にこのまま行くだけ。
「良し、今のうちに」
槍を片手で持ちもう片方の空いている手で鏡面の短剣を複製し手に持つ。
「久しぶりに忘れさられた俺の全力シリーズを見せてやるぜ!」
気合い十分の蓮見。
風を切る感覚と共に飛んでいき、ようやくスカイが視認できる距離にまで詰め寄る。
体感にして後五メートル前後。
短剣を持つ手に汗がジワリとにじみ出る。
緊張しているからだ。
この一撃が失敗すれば今度こそ絶体絶命になると脳が理解しているからこそ失敗は許さない。それが目に見えないプレッシャーを与えてくる。
「見えた!」
「貴様……なぜそこに!?」
驚くスカイに不敵な笑みを見せて蓮見。
「遠距離攻撃なんて卑怯な手に出やがって。ただで済むと思うなよ?」
「笑止!」
背中のブースターを使い体当たりしてくるスカイ。
そのスカイの動きをギリギリまで見て引き付け槍がスカイの手に触れると同時にスカイの身体へと飛び乗り背後を捉える。
「つ~か~ま~え~た~」
そして持っていた鏡面の短剣を下から上へと突き刺した。
「これは俺がゲーム中に死を悟った際にかつて思い付いた最強にして最恐の技――!!!」
【鏡面の短剣】が勢いよくスカイのお尻へと突き刺さった。
それもかなり奥深くまで。
――ブスッ!!!
確かな手ごたえを感じると同時に【鏡面の短剣】とスカイの身体から手を離し空中落下を始める蓮見の身体。
「――ッ!? ウォォォォォォ」
お尻にダメージを受けて苦しむスカイ。
「やっぱり男としてそれは辛いよな……わかるぜ。お尻は大事にしないとだもんな?」
急に同情を始める蓮見。
それからお尻に大ダメージを受けたことで警戒心が薄れたスカイに弓を構え矢を放つ。
最後はあっけなくほぼゼロ距離でKillヒットを喰らったスカイは光の粒子となり消滅していく。
すぐに蓮見はアイテムツリーからHPポーションを取り出し地面落下によるダメージを受ける前に使いHPを回復する。
「う~ん。俺イベントの度に毎回落ちてるような気がする……」
そんな事を口にしながら天守閣の最上階へと落下した蓮見は「いててっ」と身体を擦りながら起き上がる。
そしてボスを倒したことでもぬけの殻となった天守閣をゆっくりと降りて行った。
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