第365話 蓮見VSスカイ


 ただのボスと思って油断していた。

 その結果がこれ。

 なんとも情けない。

 こちらはもうHPゲージを五割まで減らされたのにも関わらず相手はまだ七割近くある。

 基本的なステータスがそもそも違い過ぎる。

 もっと言えばこちらはクリティカルヒットを使って三割近く削るのが精一杯。

 対して相手はクリティカルヒットなしで五割。

 一撃の威力だけでなく攻撃の手数も違い過ぎる。

 そう思う蓮見。

 だけどここで逃げるわけにはいかない。


 毒煙で視界が悪い。

 その中で足腰に力を入れて蓮見が立ち上がる。


「もう一度でいい。奇跡を起こすんだ……オレは……」


 毒煙のためか動きを止め警戒を始めたスカイの姿を赤と黄色の点で視認する。

 視界不良の中無駄に動かない。

 定石とも呼べるその手は蓮見にとっては絶好のチャンスなる。

 動かない標的ほど遠方から狙いやすい相手はいないからだ。

 正射必中。

 それを体現すべく、音を立てないように気を付けて弓を構える。

 深呼吸をして一射に全てを載せて放つ。

 狙いはKillヒット。


「悪いがこれで俺の勝ちだ」


 勝利を確信する蓮見。

 矢は一点の曇りもなく毒煙の中をただ一直線に飛んでいく。

 そして矢がスカイに触れる直前。

 スカイが急に動く。

 その為矢は後一歩のところで空を切る結果となる。


「うそだろ!?」


 今度は矢が通っていた軌道でスカイが背中のブースターを使い物凄い勢いでこちらに飛んでくる。


「だけど直線勝負なら」


 すぐに第二射の構えを取り、先程と同じくKillヒットを狙い放つ。


 ――スパッ


 空を切る音が聞こえる。

 それは蓮見の放った矢が飛んでいった合図。


「スキル『アクセル』!」


 だけどまたしても躱されてしまう。

 予想外の速度上昇により虚をつかれ、瞬く間に槍の射程圏内に入ってしまう蓮見。


「お前は里美か!」


 咄嗟に出た言葉は蓮見の心情そのもの。


「……ッ。スキル『猛毒の捌き』!」


 何とか空中に逃げる事で振り上げられた槍の一撃を回避する、

 だけどスカイもまたすぐに蓮見の後を追うようにして背中のブースターを使い追走。


「チッ。視界に入ったら容赦なしかよ……」


 最大速度で逃げるも中々逃げれない蓮見は槍による追撃を間一髪の所で躱しながら高度を上げていく。


「スキル『迷いの霧』!」


 ついでに毒煙の効果範囲を広げ、ちょっとでも状況を良くしようとするが中々に効果がない。

 かと思った時だった。

 急にスカイの動きが止まり、空中に静止。

 これはチャンスと思い今のうちに全力で毒煙の中に紛れる。


「逃がしはせん。スキル『破滅のボルグ』!」


 微かに聞こえた声に背中に冷や汗が出る。

 その技は嫌という程見てきた。

 外れる事がない、言わば美紀の必殺の一撃とも呼べるそれは脅威でしかない。

 スカイの持つ槍が黒味のかかった薄黒いエフェクトを放ち始める。

 今は姿が見えない蓮見の方へと身体を向け投擲の構えを取り全力で投げてくる。

 風を切る音が教えてくれる。

 蓮見より速い速度でこちらに向かって飛んできていると。


「おいおい。今回のボスレベル高すぎじゃね!?」


 迫りくる危機に蓮見の頭がパニック状態に陥る。

 なにかをしなければ諸にダメージを受ける。

 だけどどうすればいい?

 心の余裕がなくなりだした蓮見に冷静な判断は無理。

 それもそのはず。

 修行中美紀に何度もこの技で止めを刺されていた為に軽いトラウマになっていたから。

 それでも何もしないわけにはいかない。

 パニック状態の蓮見が風を裂く音のする方へと首から上を向けると槍は薄っすらと影が視認できる距離まで迫っていた。


「やばい、やばい、やばい。アレはマジで……ッ!」


 急降下で逃げを試みるが追走してくる槍も急降下し意味がない。

 ならばと思い今度は急上昇。

 身体に掛かる負荷が辛い。

 それでも槍との距離は縮まるばかり。


「こうなったら足場以外勿体ないが全弾で迎撃しかねぇ!」


 必要最低限を残し猛毒の捌き二十六本による槍の迎撃。

 最低一本テクニカルヒットさせれば撃ち落とせる事は知っている蓮見。

 だけどそのポイントとなる黄色い点が槍の先端だけな事から以外に難しい。

 少しでも角度がずれると黄色い点にちゃんと当たらずテクニカルヒット判定されないからである。


「頼む……当たってくれ」


 全力で逃走しながら毒矢の行方を見守る。

 距離にしてもう三メートルあるかないかの為正直この迎撃が失敗するとかなり状況が悪くなり次の迎撃はかなり厳しい。


 槍に弾かれ次々と落ちていく毒矢。

 その数すでに十八本。

 味方だと頼もしいスキルでも敵になればこの上なく厄介。


「しまっ――!?」


 最後の一本が弾かれた蓮見は目前に迫った槍に恐怖する。

 こうなったらとやけくそで足場の毒矢も使い正真正銘最後の悪あがきをする。


 蓮見と槍の間に四本の毒矢が飛んでいきすぐに槍と接触するが意味がない結果となってしまう。


 ――グハッ!?


 槍が蓮見の身体を貫きそのまま空中を飛びスカイの手元に戻っていく。


「あいつ……巨大化のスキルも使え……がはっ……げほっ……っ……ぁ……るのか……」


 空中で攻撃を受け意識が朦朧としてくる。

 そのまま地面に向かって落下を始めた蓮見の身体は羽を失った鳥のように重力の影響を受けて落ちていく。

 視界の左上にあるHPゲージがどんどん減っていく。

 先程までオレンジだったのが赤色になった。


 そして――。

 再び聞こえてくる声に。


「スキル『破滅のボルグ』!」


 蓮見は負けを確信する。

 もう勝ち目はないのだと諦めた。

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