第361話 上機嫌な蓮見と上機嫌な歌
――武士。
ただし普通の武士ではない。
まだまだ視界の先だが大きな城へと繋がる巨大な川の掛け橋を護るのは機械ブースターにより飛行を可能とした現代の武士と言うべきだろう。数にしておおよそ四十~五十人が一定間隔で配置されている。全員が腰から刀を抜き、戦闘態勢に入り飛行待機している。だが、ある一定以上近づかないと攻撃どころか微動だにしない所を見る限りこれは好都合と考える。
「なるほど、なるほど。俺様戦闘機で強行突破しても向こうも空を飛べるから追いかけられて、俺様全力シリーズを使って全力疾走しても追いかけられる。さてどうする、俺?」
心の中の自分に判断を委ねる。
今までだったら戦闘用アイテム以外のアイテムに頼るなどしてこの状況を突破していただろう。例えばスキル数温存のためにミラーボールを使った光の乱反射を利用した見境なしの目潰しとか金属の塊を利用した超新星爆発とかあれからさり気なく改良し強化された――カラオケ用の特殊スピーカーを使った見境なしの音響爆弾による鼓膜潰しとか……。
だけど今回はイベントルール適用のため出来ない。
そこで蓮見は何か面白いことはないかと腕を組んで少し考える。
蓮見が求めているのは純粋な好奇心の追求。
だからこそ普通にクリアしても心の欲はある程度しか満たされないし、最終的には消化不良となってしまう。それを避けるためにすかすかの脳をフル回転させているとふとっ妙案を閃く。
「あ~、これなら行けそう~にひひっ」
至らない事を考えさせたら蓮見の右に出る者はいようか。
そう言いたくなるぐらいに今日の蓮見は最初(寝起き)から頭が冴えていた。
「さてさて、誰に犠牲になってもらおうかな……。ぶっちゃけ誰でもいいけど……」
呟きながら、視線を動かす。
そこには今も同じように武士の包囲網をかいくぐって行くプレイヤー達がいる。
その中でも比較的に人数が少なく足が遅い六人パーティーに目を付ける。
男二人と女四人。
「揺れる架け橋の上で女の子達に抱きつかれて男共ニヤニヤしてやがるし……くそっ、うらやましいやつめ。決めた、天誅の標的はアイツらだ」
運悪くと言うべきか蓮見の嫉妬が前方の男達に向けられる。
「良し、スキル『虚像の発火』!」
弓を構え矢を放つ。
ただそれだけの行動。
それを繰り返し何度か矢を放つが一向に武士にも六人パーティーにも当たらない。
燃える矢はただ一直線に蓮見が狙った軌道上を寸分違わず飛行し空気抵抗を受け運動エネルギーが弱くなった矢から架け橋の下にある巨大な川の中へと消えて行く。ただし消えて行くのは矢だけでなかった。
「……これから始まる悲鳴劇。イチャイチャしたいなら抱き着けよ。期待のドキドキは大チャンス、今日は俺様大活躍♪ 燃えろ、燃えろ、心臓。今日こそ一番目立ってモテルんだ。バーニング、バーニング、バーニングハート今日の俺は今までと違う♪」
虚像の矢で失ったMPを即座に回復していく蓮見。
ここで調子が出てきたので、さらに広範囲に虚像の矢を放ち始める。
「燃えろ、燃えろ、燃えろ架け橋通行人を奈落に落とせ♪ 燃えろ、燃えろ、燃えろ架け橋のロープ全てを地に落とせ♪ バーニング、バーニング、バーニングハート空を飛んで逃げるやつ撃ち落とせ♪」
突如として始まった架け橋燃焼事件は歩いて地上から向こうへと渡ろうとしていた物を容赦なく川へと落としていく。危険を察知し慌てて逃げる者には後ろからは蓮見、前からは武装した武士の包囲網のダブルパンチに合い次々と光の粒子となり消えて行く。
「とりあえずインパクト勝負♪ どこまでも悲劇を加速させる。ここでエリカさんの期待に答えなければ後がとーても恐いよ♪ だから、だから、だから俺は悪くない♪ ちょっとー魔が差しただけだから許してね、てへっ♪」
どこの誰が作った歌だよ。
と言いたくなるような上機嫌な歌は多くの悲鳴を無視しノリノリで歌われていく。
歓声――悲鳴はさらに大きくなる。
一部の者たちが標的を蓮見に変えるも武装した武士は一度自分達の陣地に入った者は追いかけるように設定されているらしく蓮見との挟撃に合う結果となる。
「へへっ♪ 俺も日々進化してるんだ。里美やミズナさんやルナ相手にもたもたしてたらいじめられるから速射も少しは上手くなったんだよ。ってことでまだまだ行くぜ、スキル『虚像の発火』! 『虚像の発火』!」
イベント開始十分足らずで城攻略のついでに多くのプレイヤーを倒し始めた蓮見のテンションはどんどん上がっていく。
「いい度胸じゃねぇか! てめぇ背後からコソコソしやがってこれでも喰らいやがれ! スキル『フリーズインパクト』!」
叫ぶ男――魔法使いが空中でスキルを使い巨大な氷の塊を蓮見へと向けて飛ばす。
それを見た蓮見は弓をなおし、鏡面の短剣を複製し形を変えて長細い棒の形にして肩幅に足を開き身体の位置を調整。
「おっ! いいぜ! カモンベイビー♪」
大きく息を吸いこんで気合いと一緒に全力で出し切る。
「はぁぁぁぁぁ! ウォォォォォ燃えろ俺のバーニングハート!!!」
そして巨大な氷のテクニカルヒットポイントを両手で持った棒で的確にバッドでボールを打つ要領で打ち返す。
「ちょ!? 嘘だろ!? おい!?」
予想外の結果に慌てる魔法使い。
だけどもう遅かった。
運動エネルギーの向きが棒の強打によって強引に変えられた巨大な氷の塊は使用者へと返球され爆発。そこに今度は蓮見が。
「おらおら! どんどん行くぜ♪ 千本ノックだぁ!」
手榴弾を次々と取り出しては手に持った棒で打っていき、ある程度して気が済み手を止め爆炎が晴れた頃にはそこには誰もいなかったしなかった。武士も架け橋もプレイヤーも。
その光景に蓮見は。
「あれ……皆何処に行った?」
と首を傾げながらポツリと呟くと、
「まぁ、いいか♪ 楽しかったし」
そのまま少し遠くにあり被害がなかった架け橋まで迂回し巨大な橋を無事渡りきることに成功する。
ただしその過程で多くの犠牲が出たのは後の祭りでなく、些細な序章であるとこの時観覧席に居た者達は確信する。なぜなら第四回イベントの時も最初はこんな感じでゴッドフェニックスと戯れてたりと結末を知る者からしたらまだ可愛いかったからだ。なのでたかが武士と戯れた程度では最早誰も驚か……ない……ただ言葉を失った(表現に困った)だけ……という事に今はしておこう。
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