第362話 エリカの教え商いは自分の足でせよ
観客席はしばらく静かになった。
そして多くの視線がエリカへと向けられた。
「さっきのアレなに……?」
「確かアイツエリカがどうとかこうとか言ってたけど?」
急に振られた質問にエリカは平然とした顔で答える。
「知らない♪ でも私の為に頑張ってくれてるみたいだからお姉さんとしては高得点だったかな♪」
プレイヤーKillによる報酬も今までのエリカのパトロンとしての功績から蓮見から献上される予定となっている。そもそもの話し。蓮見は限定アイテムよりその場が楽しかったらそれでもう満足なので自分にとって使えないアイテムには微塵も興味ないのである。当然本来であれば誰も譲ってくれないような限定アイテムがなんのリスクもなしに手に入り高額で売買できるとあればそれはもう上機嫌になっても可笑しくはないだろう。実際は売買が目的というよりかは蓮見からのプレゼントがなんでもいいから欲しいだけ……なのはエリカだけの秘密。それは乙女の部分が関係してくるので建前はやっぱり大事で建前があるからこそ堂々と皆の前で受け取れるというものである。女の子はそう言った建前と本音があり、そこを察し行動できる男は女の子からの評価が高いわけだが残念ながら蓮見はそこがとても弱いのは今さらの話しなのでエリカは自分からそうなるように頑張ったのだ。
「ちなみにその様子から見て全然驚いてないように見えるけどやっぱりまだなにかあるの……? このあと」
「さぁ?」
とぼけるエリカ。
「まぁでも敢えて言うなら、紅君はミニイベントの再来を特に恐れているわ」
「つまりルフランや里美達から同時に狙われることを?」
「そう。だから必要だったのよ」
エリカは今も楽し気に一人目的地の城へと向かう蓮見をモニターで見て微笑む。
「最恐の力がね♪」
「「「あっーーー」」」
多くの者達が察した。
さっき自分達が感じたことは気のせいなんかじゃなかったことを。
「おい! 今度は朱音さんがこっちで大暴れしてるぞ!?」
観客席では同時に多くのプレイヤー達の活躍を見る事ができる。
そのため今度は期待の声で盛り上がりを見せる。
「「「すげぇーーー!!!」」」
蓮見の話題から一瞬で朱音の話しになったエリカはニコッと一人微笑んだまま呟く。
「……確かに凄いですね。だけど貴女の常識が通じない相手に直面した時貴女がどんな顔をするか楽しみです……うふふっ」
■■■
しばらく歩いていると思っていたより距離が近かったらしく目的地に着いた。
「やっぱりでけぇな……この城」
視線を上に向けて頂上にあたる天守閣を見上げるがハッキリ言って高すぎるためにハッキリと見えない。それに城の窓に設置された大砲の数も凄い。これでは空を飛んで行けば蜂の巣にされて死んでしまうだろう。
「やっぱり一人じゃ無理だよな……普通」
心の声が漏れた蓮見。
それは正しい。
なぜなら討伐報酬最高ランクを手にできるボス攻略がそんなに簡単なはずがないから。
普通のプレイヤーで常識があるプレイヤーなら多くの者がこの時点で諦め他に目標を掲げるだろう。ただしルフランや里美といったトッププレイヤーと呼ばれる者や他のゲームでプロと活躍している朱音などは常識人でありながら一人攻略しようとアドレナリンを出し苦戦しながらも頑張っている。
そんな者達に真っ向勝負それも正面からまともに戦ったら足元にすら及ばない男は首をポキポキと鳴らしストレッチを始める。
「城へと続く石垣は全て見張りが立っていて、監視所みたいな高台には弓兵がいるのか……。んで地上にも配置された大砲はぱっと見沢山……さて今度はどうするかな……たまには弓使いとしてもちゃんと活躍しないとだしな……」
いつでも動けるように入念にストレッチをしていく。
「そう言えばエリカさんが言ってたけ。商いは自分の足でして稼がないとダメだって」
沢山ある大砲を見て蓮見が何かを思い出したように呟いた。
「ん? 足? あ・し? あし? あー足か……ありだな。やっぱり何事も自分の足で行かないと相手に失礼だもんな」
一人ブツブツ呟き、自分の足と大砲を交互に見る。
果たして普通の人間にできるだろうか?
運動神経平凡、頭スカスカ、童貞、非モテ、と特に目立つ長所もない蓮見にできるだろうか?
脳内で考える事数秒答えが出る。
「……たぶん、なんとかなる。あとはその場のノリでなんとか……なってくれるはず」
そうと決まれば、屈伸、膝伸ばし、アキレス腱と下半身を重点的にストレッチしていく。
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