第三十一章 到来悪夢のイベントを攻略せよ 不夜城編

第357話 テスト明け最後の調整



 ――イベント告知から期末テストまでの苦痛の日々を乗り越えた者はついに多くの者の期待を背中に載せてフィールドに戻って来た。

 テストの自信?

 愚問だな。聞く相手を間違っているとだけ言っておこう。

 なによりいやいやさせられて結果などでようか?

 つまりはそうゆうわけである。

 機会があればこの話しはいつかするとして。

 まずは本題である。

 ついに期末テストを死に物狂いで乗り越えた男は明日開催のイベントならびに三日後の夏休みに向けて一人フィールドを歩いていた。空を見上げれば先日のアップデートで飛行スキルもしくは飛行アイテムを身に着けた多くのプレイヤーが大空を優雅に羽ばたいている。これで蓮見の特権であった空中戦闘はもはや特権でもなんでもなくただの攻撃の一手となりインパクトに欠けるものとなった。


「さて、久しぶりのゲーム。まずは肩慣らしからだな」


 期末テストが終わるまではと母親と美紀の双方の同意の元ゲームを強制的に禁止させられていた男は悪い笑みを浮かべて言う。


「スキル『猛毒の捌き』か~ら~の~俺様戦闘機ぃー!!!」


 第三層南部に存在する恵みの大地と呼ばれる場所で蓮見は飛び立った。

 するとそこにいた多くのプレイヤーが一斉に急旋回を始める。

 一瞬妙な動きに蓮見が警戒するが、誰一人攻撃の意思は感じられない。

 理由は簡単でただ多くの者から警戒されているだけ。


「おい、久しぶりに見たな」


「あぁ……てかこんな所でなにしてるんだ?」


「知るか。てか下手に手を出すなよ。ここにいる六十三人が一瞬で天へと帰ることになるかもしれないからな」


「わかってるわよ。てかここ安全なの? なんかあの人HPポーションを手に取ってニヤニヤし始めたんだけど……」


「た、たぶん。大人しくしていれば……な、お互いが」


 と耳をすませば聞こえてくる声は残念ながら蓮見には届かない。

 先に言っておくとこれは悪気があっての行動じゃない。

 ただちょっと感覚を確かめておくだけ。

 当然ここに美紀やエリカ、七瀬、瑠香達はいない。

 彼女達は彼女達でそれぞれイベント前の最終調整を別の所でしていたり、気合いを入れてイベント前最後の金儲けをしていたりと各々が忙しいからだ。

 ここにはトッププレイヤーと呼ばれる者達はいない。

 ただ中堅プレイヤーでは強い部類に入る者が数名いるだけ。

 ただし全員赤の他人。

 故に蓮見を止めようとするものはここには誰もいない。


「アイテムが使えないならそれを補うしかねぇ。テスト勉強する振りしてずっと考えていた新必殺シリーズ(仮)――――吠えろウォーターパワー!」


 その言葉が意味する通り。

 いや案の定と言うべきか。

 爆発が起きた。

 だけどまだ規模は小さい。

 それが唯一の救いとなり、誰一人被害者はでなかった。


「ふむ。思ったよりダサい火力だな……。これだと本命の前座にもならん……どうしよう……」


 空中静止した蓮見は真剣に考える。

 跡形もなく飛び散ったHPポーションの空容器の残骸があるであろう地上を見つめて。

 そもそもHPポーションとは損傷したHPを回復する物であってHPを奪うアイテムではないのだが、蓮見はその常識を覆えそうと今試行錯誤をしているのだ。


 だけどその光景を見た者達は口を揃えて言う。


「絶対ろくなことにならないわね」


「あー。絶対明日にはこれが完成してしまう未来しか見えないなー」


「とりあえず提示板で報告しとくか?」


「そうね」


「賛成」


 こうして蓮見の空中実験と並行してイベント前提示板は盛り上がり始めることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る