第356話 カァーンニングゥタイムの使用許可は下りない?


 なんだかんだ一番怒らせたら恐い美紀の了承を得た蓮見は嬉しそうにガッツポーズをする。その表情は笑みで溢れていた。これでなにをやっても怒られない。つまり好きだけ暴れよくて周りを一切気にしなくて良くなったからだ。この時にはもう美紀達が敵になることを忘れており、都合の良いことだけを覚え都合の悪い事は忘れるという才能を発揮していた。


「まぁイベントが夏休み前だからそこだけしっかりとするなら私はもう止めないわ」


 美紀が言う夏休み前とは夏休み前最後の期末テストのことである。

 そこで蓮見が悪い点数を取らないのであればテスト明けのガス抜きという意味で少しは多めに見てあげようと思ったのだ。なんたって蓮見にとってテストとは正に地獄であり生涯寄り添えない相手の一人。


「そうだったんだ。ならこの日程だと美紀達にとってはテスト明けになるのね」


「まぁね」


 ここでも余裕のある笑みを見せる美紀は勉強に対しても苦手意識はなく、日頃から予習復習をしているのでテスト勉強をしなくても全教科満点を取れる自信はある。当然その幼馴染にあたる蓮見は日頃から予習復習をしていないのでテスト勉強をしても全教科赤点を取れる自信がありと世界はよくできていた。もっと言えば正当な道でゲームが強くなる美紀と正当じゃない道でゲームが強くなる蓮見。これもまた世界のバランス調整と言うべきなのかもしれない。すなわち、何が言いたいかというと、蓮見が何をしようと世界はバランスよく動いていると言うわけだ。


「おう! 任せろ! 俺の全力シリーズ【カァーンニングゥタイム!】を使えばなんとかなるからよ!」


 枷が外れ調子がいい蓮見の口がついうっかり……滑ってしまった。


「ん? はすみぃ~? いまなんて言った?」


「……あっ」


 しまった! っと思った時には美紀の手に力が入っていた。

 そして振り下ろされる拳を避けようと力を入れるが動く前にはもう美紀の拳が蓮見のボディにジャストフィット。


「ばか! 真面目にしなさい!」


 グハッ!?


 不正は許さないと真面目な美紀はそのままそそくさと逃げようとする蓮見の耳を引っ張りそれを阻止してくる。


「こら。どこ行くの?」


「……いや、あの、その」


「エリカの所に逃げて助けてもらおうなんて百年早いわよ」


 流石は幼馴染。

 なにも言わなくても蓮見の心情を正しく理解していた。


「んで、テストどうするって?」


「……ったぁい、ったぁい」


「ん?」


 さらに強く耳を引っ張られたことにより蓮見の瞳から一滴の涙が零れる。


「やりまぁす、やりぃます……まぁじぃぃにぃぃぃ」


「本当に?」


「……はぁいぃぃ」


「ったく、しっかりしないさいよね。蓮見は将来私と同じ大学に進学するんだから」


 ここで美紀の手が放れたことにより、ようやく引っ張られる痛みからは解放される。


「ふふっ。涙目の蓮見君可愛いわね」


 エリカが側に来ては痛がる蓮見の耳を優しく撫でてくれる。

 その温もりに心なしか痛みがなくなっていくような感覚に陥る蓮見。

 そんなやり取りをしているとちょうど夜食を持ってきた七瀬と瑠香が部屋へと戻って来た。


「お待たせー」


「お待たせしました」


「おっ! ご飯だっ!」


「あらあら。慌てないの。誰も取って食べないから」


 座の低いテーブルに用意されていくご飯、唐揚げ、サラダ、パスタ。

 それはどれも美味しそうであり、つい美紀とエリカの食欲も刺激してしまう。


「お、美味しそうね」


「ほ、本当ね」


 隣から取る気満々の二人に七瀬がやれやれと首を振る。


「これは蓮見の分よ」


 そんな二人の視線を逸らすようにして。


「こんなことになるかと思って別で作ってますのでお二人は私達とこっちを食べてください」


 と自分達の小腹を満たす為に作った別の容器に入った唐揚げを見せる瑠香。


 そんなことはお構いなしと取られる前に全部食べると言いたげにお腹を空かせた蓮見は勢いよく飛び起きて二人が持ってきた夜ご飯をガッツリ食べ始める。そんな蓮見を見て美紀、エリカ、七瀬、瑠香はクスッと笑ってからこちらも食事に入った。






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